第八十四話:千年の因果と、砕け散った血脈の遺言
暗黒の坑道の奥深くから響く重々しい地鳴りのような音 を耳にした瞬間、俺――ハナシ・リョウガは気配を完全に遮断し、冷酷かつ静かにその音の発生源へと歩みを進めた。奥へ進む につれて、その不気味な音は徐々に明確な響き を帯びていく。
それは、鉱山の最果て ――光 が一筋も届かず、防毒マスクがなければ一呼吸で肺が腐り落ちるような、大気 の完全に死に絶えた暗黒の深淵から聞こえていた。
不気味な暗闇の中をしばらく歩いた 後、俺の魔眼の視界に、異常なマジックアイテムが飛び込んできた。それは、太く頑強な**『 反マナの呪鎖 』**だった。近づくだけで体内のマナが急速に強制吸引され、強烈な虚脱感と肉体の『 脆弱 』を覚えるほどの、凶悪な呪縛の魔導回路が刻まれている。
俺が右目の魔眼を凝らし、一体いかなるバケモノがこの最深部に囚われている のかを監視 していた、まさにその刹那。闇の奥から、乾いた低い声が響いた。
「……ついに、来たか。これほど長い間 、この暗黒の中で囚われ、絶大な拷問 に耐え続けてきたのは……すべて、お前と出会うためだ」
俺は漆黒の剣の柄を握り締め、冷酷に問いかけた。「……貴様、誰だ? なぜ俺を知っている? なぜ俺を待っていた?」
すると、反マナの呪鎖がガチガチと激しい金属音を立て、影 の奥から一人の青年が姿を現した。鎖の長さが許す限界 まで前に進み出たその男は、静かに唇を動かした。「私は、お前に伝えるべき『 伝言 』を持っている」
俺は右目の魔眼でその男をじっと観察 した。その姿は、気高き美貌 を持った若い男であり、その瞳はまるで極北の万年氷のように冷徹な『 氷の色 』を湛えていた。
しかし異常なのは、その男の足元だった。奴の足元からは、ドロドロとした新鮮な『 生血 』が絶え間なく湧き出し、まるで赤き血の河 の上に直立しているかのように床を赤く染めていたのだ。両手両足、そして首 には、あの悍ましい呪鎖が深く食い込んでいる。
「私の名は**『 アサリス(Asaris 』**」男は静かに言葉を繋いだ。「私はこの千年間、この地獄に囚われ続けながら、ただお前と出会う その瞬間だけを待ち望んでいた。我が主 からの最期の伝言を伝えること……それこそが、私に課せられた最後の『 任務 』なのだからな」
俺は底知れぬ違和感に眉をひそめ、冷酷に男を見据えた。「千年の間、俺への伝言のためにここで生かされていた だと? 狂ったか。長年の幽閉のせいで脳味噌が(ディザスター)したらしいな。……だが安心しろ、その汚え鎖くらい、今の俺の力なら一瞬で『 解放 』してやる」
俺が剣を構えようとしたその瞬間、アサリスの瞳が激しい 激怒 に染まり、彼は声を張り上げた。「黙って聞け!! 私にはもう時間が残されていない んだ!」
男は俺の目を真っ直ぐに見つめ、世界の理を覆すような最悪の伝言を告げた。
「リョウガ……お前は、真実 を知りたくば……自らの手で、**『 己を殺さねば 』**ならん」
(……何だと? 己を殺せ……自殺しろ、だと?)
「それが、我が主からお前に託された絶対の伝言だ。……さあ、一刻も早くここを立ち去れ! 私の言葉が終われば、私は確実に『 抹殺 』される! 振り返らずに走れ!!」
俺の思考 は完全に混濁した。奴の言う言葉の意図が、一ミリも理解できねえ。一体誰からの伝言で、何のために俺に死ねと言っている。
だが、俺が問い返そうとしたその瞬間、アサリスの全身の皮膚が一斉に裂け、肉体から凄まじい『 出血 』が噴き出した。奴は最期の 視線 を俺に向けると、血を吐きながら力強く微笑んだ。
「……お前なら、やれる ……!」
直後だった。
キィィィィィィン――ッ!!!
空間を激しく引き裂く、巨大な突風 と鼓膜をへし折るような怨念の悲鳴 と共に、巨大な『 漆黒の影 』が神速の領域を滑るように突入してきた。奴の爪が一閃したかと思った次の瞬間、アサリスの『 頭部 』は文字通り瞬時に切断され、その影と共に虚空へと連れ去られた。レベル7۱の俺の魔眼をもってしても、その正体 を目視することすらできなかった。
ガシャァァァン!!!
アサリスを縛り付けていた反マナの呪鎖 が虚しく地面へと崩れ落ち、奴の残された胴体の 屍骸 と共に、次の瞬間、まるで幻影であったかのように眩いマナの粒子 へと変換され、暗黒の大気の中へと完全に『 霧散 』しちまった。後には、最初から誰もそこに囚われていなかった かのような、絶対の無の空間だけが残された。
俺は漆黒の剣を握り締めたまま、強烈な 衝撃に打たれてその場に立ち尽くしていた。
(アサリス……己を殺せだと? 一体、誰の陰謀だ……。誰が俺をこの世界に(転生)させ、何を企んでいやがる……)
俺は激しい混濁と思考 を抱えたまま、ゆっくりと歩みを再開し、鉱山の最奥 へと突き進んでいった。道中、襲いかかってくる魔物の生き残り どもを、俺は視線を向けることすらなく、【影魔法(レベル8)】と【消滅】の権能を無意識に放ち、冷酷に 蹂躙 し、鉱山の完全掃討 を淡々と進めていった。しかし、俺の脳裏には、アサリスのあの最期の言葉が、消えぬ呪いのように不気味に響き続けていた。
どれほどの数を無意識に 惨殺(殲滅)しただろうか。俺がその深い思考の深淵に沈みながら前進を続けていたその時、頭の中に、冷徹な機械音 が鳴り響き、新たなる力の覚醒を告げやがった。
『システム音:クリスタル鉱山全域の魔物の完全掃討を検知しました。大量の隠密討伐経験値を獲得。レベルが上昇します』
• プレイヤーレベル (Level): 71 ➔ 73 (UP! - 二段階のレベルアップ を達成しました)
• 『システム音:レベル73への到達により、第四の魔眼【壊滅の魔眼】の出力が向上しました。世界システムの深層プログラミング回路が徐々に同調を開始しています』
俺は眩い魔法クリスタルの輝き の中に立ち尽くし、煙の立つ右の魔眼を抑えながら、冷酷に、しかし底知れぬ闇を孕んだ笑みを浮かべるのだった――。




