第八十一話:神狼の目覚めと、大理石王宮の血戦
耳の奥で、激しく交錯するおぞましい音が微かに、そして(不鮮明)に響いていた。右目の奥を焼き尽くすような激しい痛みと(灼熱感)のせいで、瞼をまともに開くことすらできねえ。頭の芯を激しい(眩暈)が揺さぶっていた。
「……持ちこたえるんだ、みんな! リョウガはすぐに目を覚ます! 決して防衛線を崩すな!」
「リョウガ……リョウガ! 私の声が聞こえる!? 大丈夫なの!? 立ち上がれる!?」
その悲痛な叫びに応えるように、俺――ハナシ・リョウガは強引に瞼を抉じ開けた。視界が開けた瞬間、耳を割るような剣 と大斧 の激しい衝突音がホールの全域に響き渡った。連続発動の激しい (代償)のせ、まだ意識は(混濁)とし、激しい頭痛が脳を締め付けていたが、俺の魔眼はすぐに周囲の惨状を捉えた。
すぐ隣には、胸を深く抉られたブロムル(Bromur)が未だに昏睡状態で横たわっており、その二人の肉体を護るように、エナリル(Anaryril)が魔導弓を番えて絶え間なく防壁の隙間へと矢を (連射)していた。
俺は掠れた声で尋ねた。「……エナリル、何が起きてる」
エナリルは俺が目を覚ましたことに気づくと、涙を流して狂喜した。「リョウガ……! 神様、生きていてくれたのね! あなたを完全に失ってしまったかと思ったわ……っ! あの魔族ハカム(ヴェルモロス)を倒した後、城内の残党の魔物
ども が再びこのホール目掛けて総攻撃を仕掛けてきたの。
タリンも、キングラッドも、カゼミもキヤムも、全員がボロボロになりながら今も扉の前で決死の(防衛戦)を続けているわ! 傷ついたみんなを私の魔術で応急治療したけれど、ブロムルだけはまだ意識が戻らなくて……っ!」
俺はゆっくりと視線をホールの巨大な扉へと転じた。
そこでは、頭部や全身からドロドロとした鮮血 を流し、満身創痍となりながらも、必死に武器を振るって敵の侵入を食い止めている五人の仲間の姿があった。奴らの肉体は限界をとっくに超えている。
その凄惨な光景を目にした瞬間、俺の胸の内に、彼らの生還への歓喜と、仲間をここまで追い詰めた不浄どもへの猛烈な**『 激怒 』**が同時に沸点へと達した。
(……俺の領域で、俺の家族にこれ以上好き勝手させねえよ)
俺は限界を超えてマナ(魔力)を爆発させ、右目の第三の魔眼【混沌の魔眼(レベル3)】を完全起動した。真昼のホールの中に、眩い**『黄金色 』の閃光**がギラリと激しく輝きを放つ。
俺はまだ平衡感覚 を失ってよろめく肉体を精神力だけで無理やり立ち上がらせ、扉の隙間にひしめき合う魔物の群れに向かって、右の手のひらを真っ直ぐに突き出した。
「――『 消滅(Extinction)』」
ドバァァァァンッッ!!!
一瞬だった。扉の枠を破壊して侵入しようとしていた数十頭の魔物どもは、絶対の消滅マナに構造を噛み砕かれ、一瞬にして光の粒子となって虚空へと完全に消し飛び、霧散した。
「な、何だぁっ!?」「大将……!!」
突如として目の前の敵が消滅したことに驚愕し、タリンやキングラッド、二人の姉妹が一斉に振り返った。そこには、黄金の魔眼を輝かせ、圧倒的な主権のプレッシャー(威圧感)を放ちながら毅然と立ち尽くしている俺の姿があった。
全員が歓喜の咆哮を張り上げた。「目を覚ましたか、大将 !!」「待っていたわ、リョウガ!」
俺は濡れた漆黒の髪を払い、冷酷な笑み をその顔に浮かべた。「おい、野郎ども。よくここまで持ちこたえたな。……ここからは『 掃討 』の時間だ。この城の不浄なゴミどもを、一人残らず塵に帰してやる。付いて来い」
「「「おうよ!!!(お任せを、主上!!)」」」
五人の強者たちが俺を固く 護衛するように陣形を組み、一斉に扉の外へと打って出た。エナリルだけは俺の命令通り、身動きの取れぬブロムルの傍らに残り、絶対の治癒結界を維持し続けた。
俺たちは暗黒の廊下を突き進み、王宮の広大な中庭 へと向かって堂々と進軍した。道中、暗闇から襲いかかる魔物の群れを、俺は歩みを止めることすらなく、ただ右手を振るって『消滅 』の権能を放ち、 (一網打尽)に虚空へと消し去っていった。レベル7۱へと至った俺の破壊力は、すでに下級の魔物どもにとっては天災そのものだった。
やがて、真昼のどんよりとした暗雲が広がる、広大な王宮の前面広場 へと躍り出た。そこには、城内から溢れ出てきた数千頭の魔物の残党が、俺たちを包囲せんと不気味な咆哮を上げてひしめき合っていた。
俺は冷酷に微笑み、体内の全マナを臨界点まで滾らせた。右腕に【双焔魔導(レベル6)】の呪式が血管のように鮮烈に浮かび上がり、紅蓮の炎と蒼き氷の龍が俺の身体の周囲にトグロを巻いて咆哮を上げる。
俺は全空間を窒息させるほどの凄まじい 咆哮 と共に、右拳を突き出し、叫んだ――。




