第八十話:壊滅の魔眼と、鮮血の反逆爆華
俺の脳内に、これまでにないほど禍々しい世界システムの機械音 が冷酷に響き渡った 。
『システム音:警告。第四の魔眼【壊滅の魔眼】は、その絶対的な代償として、発動の規模に比例して使用者自身の肉体とマナ(魔力)にも深刻な(反動ダメージ)を与えます。この権能は生けるものの血液 を強制統治・崩壊させるため、使用者自身の生血を触媒として消費し、敵に与えた破壊の衝撃の一部が自身にも強制的にフィードバックされます』
その冷徹な警告を聞いた俺――ハナシ・リョウガは、体内の全細胞が軋むのを感じながら胸の内で毒づいた 。
その冷徹な警告を聞いた俺――ハナシ・リョウガは、体内の全細胞が軋むのを感じながら胸の内で毒づいた 。
(チッ……、呪われた力 だな 。この眼を使えば、敵を滅ぼすと同時に俺の肉体にも深刻なダメージ が返ってくるわけか 。だが……クソが、今のこの絶望的な(状況)では、この『壊滅の魔眼』を発動する以外の選択肢はねえ 。奴は俺の通常の属性魔術をすべて无力化 しやがるからな!)
俺が自らの限界と戦っているその瞬間、悪魔ヴェルモロス(Velmeroth)は下劣な笑みを浮かべ、強固な短剣の爪でエナリル(Anaryril)の美しい金髪 を乱暴に掴み上げ、彼女の華奢な身体を宙へと吊り上げた 。全体重が髪の毛一点に集中し、エナリルは激しい激痛に顔を歪めて涙を流した 。
「リョウガ……っ!! 助けて、リョウガぁぁぁっ!!」
「クックック……、そうだ、もっと狂おしく悲鳴を上げろ! 恐怖と不安 に駆られるほど、体内の血液の循環 가加速し、その生き血の味はより極上 に熟成されるからなぁ! ハハハハハッ!!」ヴェルモロスは下劣な長い舌を伸ばし、エナリルの白皙の喉元 をねっとりと舐め回した 。
「――おい、不浄のゴミ が」
骨の髄まで凍りつکせる、圧倒的な冷徹 な声がホールの静寂を裂いた 。俺は軋む肉体を無理やり駆動させ、満身創痍の身でありながらも、確固たる主権の意思を以て再びその両足で地面へと立ち上が。
「その汚え手を……エナリルから離しやがれ」
俺は右目の魔眼を開いた 。そこには先ほどまで第三の魔眼【混沌の魔眼】の黄金の輝きが宿っていたが、第四の魔眼【壊滅の魔眼】が完全アクティブ になった瞬間、その黄金の光は一瞬にして真紅の血の色 へと完全に変貌しやがった 。
俺のすべての魔眼が集約された右の瞳は、底知れぬ禍々しき『鮮血の深淵』と化し、エナリルの髪を掴んでいるヴェルモロスの巨大な『右腕 』へとその冷酷な視線を固定した 。そして、胸の内のすべての殺意を込めて静かに呪言を紡いだ。
「――『血脈爆華 』」
ドバァァァァンッッ!!!
一瞬だった。ヴェルモロスの右腕の内部を流れるドロドロとした酸の血液が、内側から激しく沸騰 して臨界点に達し、一瞬にして大爆発を起こしたのだ 。奴の右腕は『肩 』の付け根から無残に吹き飛ばされ、ホールの全空間に黒赤色の血の奔流 が激しく撒き散らされた 。飛び散った鮮血が、恐怖に震えるエナリルの頭や顔 へと派手に降り注ぐ 。
「グァァァァァァァァァァッッ!?!?!?」
悪魔ヴェルモロスは、体験したことのない異次元の激痛に絶叫し、その巨大な蛇体をくねらせて激しく後方へと後退した 。奴は引き千切れた右肩を押さえ、目玉を限界まで飛び出させ、信じられないといった面持ちで俺を凝視した 。
「ば、馬鹿な……!? 私の魔導無力化を貫通して、この私にダメージを与える呪術など存在するはずがない! 貴様……その眼は一体……!? 悪魔の、いや……魔王の魔眼だとでもいうのか……!?」
黄金から完全なる真紅の深淵へと染まり変わった俺の右目からは、その絶対の代償として、どろりとした鮮血 が涙のように絶え間なく流れ落ち、体内を凄まじい反動の激痛が痛めつけていた 。
だが、俺は冷酷な笑み を崩さずに奴を見下ろした。「言ったはずだ、お前のようなゴミに、この俺が敗北するわけがねえとな 。……俺を舐めるなよ、化け物が」
俺は即座に奴の残された『左腕 』へとその紅き視線を向け、再び心の中で命じた。「『血脈爆華』!」
ドバァァァァンッッ!!!
再び激しい爆発音が轟き、ヴェルモロスの左腕も一瞬にして内側から粉砕され、大理石の間は完全に奴の血の海 へと変貌した 。奴は必死に自身の魔眼を輝かせ、この不可視の血液操作を中和 しようと足掻いたが、世界システムの理を刻む『壊滅の魔眼』の前には、奴の魔導中和など何一つ通用 しなかった 。
「ヒ、ヒィィっ……! 来るな、来るなぁぁぁっ!!」
圧倒的な絶対の支配者を前に、さっきまで勝ち誇っていた魔族ハカムは、凄まじい恐怖と戦慄 に悲鳴を上げ、その巨大な『尾 』を鞭のようにしならせて、俺に向かって決死の直線突撃 を仕掛けてきた 。
しかし、俺は一歩も退かず、冷酷にその尾を見つめた。「無駄だ。『血脈爆華』」
ドバァァァァンッッ!!!
ヴェルモロスの巨大な蛇体全域の血脈が次々と爆発し、奴は全身から激しく血を流しながら、もはや指一本動かす力 すら失って床へと無残に崩れ落ちた 。
俺は冷酷に一歩一歩進み、絶命寸前のヴェルモロスの『胸 』の上へと静かに自身の足を乗せた 。
「ゴミ はゴミ箱へ帰る時間だ。……地獄 の底で、己の無力を呪うがいい」
俺は真紅に染まり切った右目の魔眼を限界まで見開いた。
「――『脳髄破裂 』」
ベキキキキ、ドゴォォン!!!
ヴェルモロスの巨大な『頭部 』の内部の血液が一瞬にして超圧縮・爆発し、奴の頭は果実のように跡形もなく粉々に粉砕され、霧散した 。
「ウ、ア……――……」
大理石のハカム、Aランク・第四位の悪魔ヴェルモロスは、断末魔の悲鳴すら残せず、その巨躯を床へと沈めた 。奴の肉体は次の瞬間、腐肉を残すことなく、すべてが白い不浄な瘴気の (蒸気)となって真昼の空へと完全に消滅した 。そして、奴の遺した眩いゴールド・Aランクの魔石が、地面へとポツンと転がり落ちた 。
「がはっ……、ハァ、ハァ……っ!!」
連続発動の反動ダメージにより、俺の全身の血管が激しく軋み、激しい出血 と共に強烈な眩暈が襲った 。俺の身体が糸の切れた人形のように地面へと崩れ落ちよう とした、まさにその刹那 。
ガシッ 。
「……よくやったな、リョウガ。お前なら、絶対にやり遂げると信じていたぞ」
寸前のところで、傷だらけのキングラッド(Kingrad)がその肉体で俺の身体をガッチリと支え、地面への激突 を防いでくれたのだ 。彼は俺をそっと大理石の壁 へと寄りかからせて座らせた 。
すぐさま、エナリルが涙を拭いながら俺の元へと駆け寄り、その最高位の『治癒魔術 』を展開しようとした 。しかし、俺は薄れゆく意識の中、冷酷な声で彼女を制した 。
「……俺は、いい。……それよりも先に、胸をブチ抜かれたあのブロムルや、動けねえタリンたちの治療 をしろ……。急げ……」
俺はそう言い残すと、体内の全マナの枯渇と肉体の激痛により、静かに暗闇の底へと意識を失って 崩れ落ちるのだった―― 。




