第七十四話:不滅の瘴気核と、神狼の凍結連撃作戦
タリンの渾身の一撃がミアズモア(Miasmor the Plagued )の巨躯を直撃した。しかし、奴の肉体は硬化した強酸の粘液で覆われており、大斧の刃は深く切り裂くことができず、滑って弾かれやがった。タリンは即座に舌を打ち、大跳躍で後方 へと退避した 。
激怒したミアズモアは、巨大な胸部を膨らませると、口の肉管から猛烈な毒霧 をタリンへ向かって一気に吹き出してきた。
「危ない、タリン! 避けろ!」壁の上からキングラッドが絶叫した 。
もうもうと立ち込める酸の煙が薄れると、タリンは平然と大斧を地面に突き立て、不敵に笑った。「ガハハ! ブロムルが作ったこの最新の『防毒マスク』と新型 (防具)の防毒呪式がある限り、この程度の毒気なんざ不浄でも何でもねえぜ! 恐れるな!」
その隙に、俺――ハナシ・リョウガは一歩前に出、右目の奥の第三の魔眼【混沌の魔眼(レベル3)】を強制起動した。白昼の光の中で、俺の右目が眩い**『黄金色 』**に染まって明滅する。それを見た仲間たちの口元に、確信に満ちた (笑み)が浮かんだ 。
「大将の魔眼だ……! あの化け物もこれで終わりだぜ!」
俺は黄金の視線をミアズモアに固定し、奴を構成する元素の調和を反転 させようとマナを放った。――だが、不気味な抵抗感と共にマナが弾かれたのだ 。
『システム音:警告。対象は【死者の地】の負のエネルギーによって形成された死霊( アンデッド)の系譜です。「混沌の魔眼」による元素の書き換えは、生きた生物および純粋な大自然のエレメントにのみ有効です』
(何だと……!? 元素の書き換えが効かねえだと!?)
俺は一瞬**「(驚愕)」**し、即座に思考を高速演算させた [INDEX]。このまま手をこまねいているわけにはいかない。俺は即座に【影魔法(レベル8)】を発動して剣を漆黒 の影のマナで包み、コンマ数秒の世界を滑る【最速スキル】でミアズモアへと肉薄した 。
シュバババババッ!!!
神速の影の剣撃を数発叩き込む。しかし、切り裂いた傷口は、ドロドロとした酸の粘液によって瞬時に『再生 』され、痕跡すら残らない。奴の肉体そのものが、不滅の死のエネルギーで構成されているからだ 。
俺が攻め手を模索していると、キングラッドが槍を掲げて全軍に叫んだ。「総員、一斉に攻撃を仕掛けろ ! 大将に考える時間を作るんだ!」
タリンの大斧、カゼミとキヤムの双剣と双短剣、そしてキングラッドの槍撃が同時にミアズモアへと降り注ぎ、凄まじい大打撃を与えた。だが、奴の肉体はすぐに再生し、全く効果がない 。
「チッ……なら、跡形もなく消し飛ばしてやる」
俺は激しい ख(怒り)を燃やし、右拳に【原子崩壊(Atom Crush)】の破滅のマナを爆発させようとした。その刹那、後方からエナリルが必死の声を張り上げて制止した 。
「ダメよ、リョウガ! その魔法を使っては絶対にダメ! あの巨躯を分子レベルで崩壊 させたら、体内の何トンもの強酸が一気に爆発して、周囲数百メートルに『強酸の雨 』となって降り注ぐわ! 私たちのマスクの防毒限界を超えて、全員が溶かされて (全滅)してしまう!」
(補給液の限界を超えた酸の雨か……。確かに、この密集地帯では自滅行為だな)
俺は右手のマナを収め、冷酷に笑った。
「……いいだろう。なら、小細工なしで『剣 』で直接叩き潰す以外の道はねえな。全員、よく聞け!」
俺は全クランメンバーに鋭い戦術 を伝達した。
「奴の胸の中央にある『硫黄の核心 』だけを狙う。全員、寸分の狂いもなく『同じ一点 』に向けて連続で技 を叩き込め! 奴の再生速度を、俺たちの手数の圧倒的な速度で凌駕するんだ! 傷口が拓いた瞬間、エナリル、お前は氷の魔導矢 をその傷口に撃ち込んで内部を氷結させ、再生を完全に停止させろ! 最後に俺が、その核心を直接ブチ抜く!」
「「「了解した、大将!!」」」
ミアズモアがさらなる大量の毒気を吐き出す中、俺の第一撃を皮切りに、狂暴な連撃の嵐が始まった。
リョウガの影の剣、カゼミの双剣、キヤムの短剣、キングラッドの槍、タリンの大斧――七人の強者たちが、寸分の狂いもなくミアズモアの『胸の中央の一点』へと、目にも留まらぬ速度で次々と重々しい一撃を叩き込み続けた。
バキバキバキバキッ!!!
圧倒的な手数の前に奴の再生速度が追いつかず、ついに胸の強固な装甲皮膚が大きく『裂け 』、奥にある禍々しい核が露出した。
「今よぉっ!! 『氷晶魔導矢』!!」
エナリルが放った極大の氷の矢が、露出した傷口へと正確に(命中)し、奴の体内の酸の粘液ごと、胸の亀裂をガチガチに『氷結 』させた。傷口が再生できずに固定される 。
「グァァァァァァァッ!!!」
ミアズモアは人生最大の苦痛に絶叫し、その巨躯を二本足で立ち上がらせると、口の炉から、これまでとは比較にならぬ最高濃度の強酸 をキングラッドへ向かって激しく噴射しやがった。
「くっ……あぁぁぁっ!!」
咄嗟に盾で防いだキングラッドだったが、回り込んだ酸の奔流が彼の『左腕 』を直撃し、強烈な腐食ダメージによって槍 を握る自由を奪われてしまった 。
「どけ、化け物が」
天空の頂点に立つかのように、俺は冷酷に言い放った。「――浮遊せよ」
俺の身体は一瞬にして天空へと舞い上がり、【影魔法】と【最速スキル】を同時並行展開して、氷結した胸の裂け目へと神速の残像となって急降下した 。
体内の激しい酸の蒸気が俺の手足を焼き、防毒マスクのフィルターが悲鳴を上げる。皮膚が焦げる激痛が走るが、俺は ख(狂暴な怒り)の咆哮 と共に、黒色の剣をさらに深く、力任せに突き立てた 。
「死ねぇぇぇっ!!」
パリィィィィィン!!!
俺の漆黒の影の剣が、ミアズモアの胸の奥で不気味に輝いていた『硫黄の核心』を、文字通り粉々に粉砕 しやがった。
「ウ、ウォォォォォォ……ッ……」
ミアズモアは断末魔の絶叫を上げ、その巨躯を地響きを立てて地面 へと横たえた。奴の肉体は次の瞬間、腐肉を残すことなく、すべてが白い不気味な瘴気の(蒸気)となって真昼の空へと立ち上り、消滅した 。
そして、俺の手のひらには、奴の遺した眩いプラチナ・Bランクの**『硫黄の魔石 』**がポツンと転がり落ちてきた 。
「大将が……あの化け物を本当にやりやがった……!」
タリンが唖然と大口を開けた。誰もがリョウガの圧倒的な勝利に、言葉を失って見つめていた 。
俺は手足の軽微な火傷をマナで抑えながら、静かにクランメンバーを見渡した。「……俺たちの勝ちだ 」
すぐさまエナリルが負傷したキングラッドの元へと走り、高位の『治癒魔術 』を展開して、彼の左腕の酸の腐食ダメージを瞬時に完全に治癒 した 。
全員が奇跡の生還に安堵した、まさにその瞬間――俺の脳内で、冷徹な世界システムの機械音 が、これまでにない神聖な響きを以て鳴り響いた―― 。
『システム音:プラチナ・Bランク「瘴気獣ミアズモア」の討伐、および死霊系アンデッドエネミーへの初勝利報酬を検知しました。ハナシ・リョウガのレベルが上昇します』
プレイヤーレベル (Level): 62 ➔ 71 (UP!)
『システム音:プレイヤーレベルが70の境界を突破したため、第四の魔眼【???の魔眼】の覚醒シークエンスが開始されました。活性化の条件(起動条件)が満たされ、いつでもアクティブにする準備が整いました』




