第64話から第66話
第六十四話:要塞の政治劇と、大理石の遠征戦略
俺――ハナシ・リョウガの【混沌の魔眼】の輝きと、レベル5の修道僧の『破壊の魔術』が激突する寸前、領主ガレス様率いる王宮騎士団が冷徹な威圧感を纏って割って入った 。
ガレス様は馬から降りると、国王直々の金色の刻印が押されたスクロールを掲げ、厳格な声を響かせた。
「聖殿の審م問官殿、そこまでだ。これは国王オーレリウス四世陛下からの直々の『王命 』である。これより王宮にて『王宮緊急最高評議会 』を執り行う。レベル5の審問官殿、ただちに私と共に城へ同行願いたい。この都市の混乱をこれ以上大きくせぬよう、速やかにこの場を収めるのが賢明であろう」
レベル5の修道僧は周囲を見渡した。広場を埋め尽くす何千人もの兵士や民、冒険者たちが、自分たち聖殿に向かって激しい「 (軽蔑)」の視線を投げかけていることに気づいたのだ。さらに奴は、目の前に立つリョウガの底知れぬ圧倒的な『原子崩壊』のマナ波動を肌で感じ、内心で冷や汗を流していた。
(……チッ、今のこの状態のままこの少年と戦うのは、あまりにも『 (危険)』だ。今の私の戦闘力では、この怪物を確実に仕留めることはできん。それに、ここで聖殿が民衆の目の前で醜態(弱み)を晒すわけにはいかん。領主のこの『(呼び出し)』は、この場を引くための絶好の口実(言い訳)だな)
修道僧は不敵な(不気味な笑み)を浮かべ、杖を収めた。
「……フン、我らは神々の絶対の意志 に従って動く者。だが、アラマンドン国王の面貴に免じて、今回の評議会には出席してやろう。……邪悪なる少年よ、お前との決着は後日 に持ち越しだ。首を洗って待っているがいい」
ガレス様は「感謝いたします」と短く応じ、聖殿騎士団とレベル5の修道僧を伴って足早に王宮へと向かった。
危機の去った通りを背に、俺たち『神狼の刃(The Blades of Divine Lupus)』の面々はクランハウスへと歩みを進めた。
その道中、俺のすぐ後ろを歩いていた妹のキヤム(Kiyamu)が、音もなく俺の傍らに寄り添い、その美しい瞳に冷酷な暗殺者の光を宿して声を潜めた 。
「……リョウガ様。もしお許し をいただけるのであれば、私が今夜、あのレベル۵の修道僧を闇に紛れて『(暗殺)』し、完全に息の根を止めましょう。私は一族にいた頃から、この手の隠密暗殺任務 の専門家でございます」
俺は冷淡に首を振った。「よせ、キヤム。今あの男が死ねば、聖殿の本部は確実に俺の仕業だと確信し、次はお前たちの手に負えねえレベルのさらに凶悪な化け物(上級修道僧)を送り込んでくる。今はただ、あの国王がどう動くか『 (静観)』するだけだ」
「……御意にございます、主上」キヤムは深く頭を下げ、再び静かに影へと下がった 。
俺たちは豪邸へと戻り、リビングの大きな円卓 の周囲に腰を下ろした。
ブロムル・グレイビアード(Bromur Graybeard)が、先ほど届けたばかりの最高峰の遠征装備や魔法の鞄の中から、一枚の埃を被った極秘の『古き地質地図 』を取り出し、机の中央へと大きく広げた 。それは、かつて彼が一族の部隊にいた頃に作成された、失われた都市『エルドリア(Eldoria)』の地下迷宮と内部構造が詳細に刻まれた完璧な戦略地図だった。
俺は黄金に輝く右目の魔眼を細め、その地図の深淵を見つめた。
「よし……全員、地図を見ろ。これより、あの魔物の巣窟たる『大理石の墓標(The Marble Crypt 』の完全掃討 と、我が国の建国のための『詳細な侵攻作戦 』を構築するぞ」
遠征へのカウントダウンが刻まれる中、神狼の刃の真なる建国の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
第六十五話:エルフの秘境と、魔霧を阻む神狼の智謀
机の上に広げられた古い地図を覗き込み、キングラッドが険しい表情で口を開いた 。
「この地図を見る限り、失われた都市『大理石の墓標 』の領域は、この要塞都市『王の盾』から馬車で二日ほどの距離にある。だが、それはすべての道が**「 好ましい」**で安全な場合の話だ。現在は道中がすべて魔物どもの支配下にある以上、実際に辿り着くまでに何日を要するか、想像もつかんぞ」
俺――ハナシ・リョウガは黄金の魔眼を細め、地図の境界線の先を睨みつけた 。
「いや、道中の魔物どもは真の問題じゃねえ。俺たちの前に立ち塞がる真の脅威は、死者の地から絶え間なく流れ込んでくるあの『猛毒の魔霧 』だ。あの失われた都市も完全にその呪われた空気の汚染下に浸かっている。あの霧を無力化する明確な手段がなければ、街の掃討はおろか、一歩踏み入れた瞬間に全滅するぞ」
それを聞いたエナリルが、少し耳を震わせながら提案した 。
「……エルフ の魔導であれば、大気や水、あるいは森林の元素を純化する『広範囲浄化結界 』の秘術が存在するわ。だけど、あれは高位のエルフの魔導士たちが何人も集まって初めて発動できる大規模な儀式魔術。私一人の魔力では、とてもじゃないけれど街全体の霧を消し去ることはできないの」
タリンが大斧を床に突き立て、忌々しげに顔を歪めた 。
「チッ、そいつはクソでけえ問題だな! エルフの魔導士 どもときたら、どいつもこいつもプライドが山より高え上に、自分たちの一族 以外には絶対に力を貸さねえ排他的な連中だからな!」
新入りのブロムル・グレイビアード(Bromur Graybeard)も、灰色の髭を撫でながら重い声を響かせた 。
「ああ、タリンの言う通りだ。奴らの『(プライド)』も問題だが、そもそも奴らの隠れ里 へ辿り着くこと自体が地獄だぞ。現在、エルフの一族は外界のすべての種族 に対して激しい敵意を抱き、全面戦争の最中にある。里の境界に近づいただけで、問答無用でエルフの狙撃兵どもに射殺されるのがオチだ」
一同が沈黙する中、俺は腕を組み、脳内のシステム画面と手元の魔石のデータを高速で演算していた 。
レベル5۸へと至った俺の思考力は、すでに人間の限界を超えている。俺はエナリルとブロムルに向き直った。
「……なら、直接エルフの里へ乗り込んで交渉する価値はあるな。だが、それとは別に俺に一つ『(アイデア)』がある。エナリル、そしてブロムル。お前たちの魔導とドワーフの技術を使って、特殊な『治癒の魔導液体 』を精製することは可能か?」
「え……? 治癒の液体ですか?」二人が怪訝そうに俺を見た 。
俺は前の世界(前世)の記憶にある『防毒マスク』の概念を、この世界のシステムに当てはめて説明した 。
「特殊な魔導のフィルターを仕込んだマスク を鋳造し、その内部にマナを込めた治癒の液体を循環させる。吸い込んだ猛毒の魔霧をフィルターの液体が瞬時に中和・吸収し、装着者の体内には清浄な大気だけを送り込むシステムだ。
これなら、エルフの広範囲浄化魔法がなくても、霧の中での生存が可能になる。どうだ?」
ブロムルとエナリルは互いに顔を見合わせ、その画期的な設計の理論に目を輝かせた 。
「……確かに、その構造(理論)ならば理論上は十分に可能です! すぐに試作品の鋳造に取り掛かりましょう!」
タリンが嬉しそうに手を叩いた。「ガハハ! さすがは大将だ! ならばあの高慢ちきなエルフの魔導士どもの力なんて、最初から必要ねえじゃねえか!」
しかし、すかさずキングラッドがタリンの頭を小突いた。「お前は本当に『 大馬鹿野郎 』だな、タリン。リョウガのマスクはあくまで『個人的な遠征の生存用』だ。街を奪還した後、何千人もの民がそこで暮らし、独自の国家を運営していくためには、都市全体の猛毒の霧を根本から消し去るエルフの広範囲浄化結界が絶対に不可欠なんだぞ」
タリンは顔を真っ赤にしてフガフガと唸り、室内に笑いが漏れた。
俺は静かに椅子から立ち上がり、全員に冷酷かつ絶対の命令を下した 。
「方針を決める。俺、カゼミ、キヤム、そしてエナリルの四人で、これよりエルフの隠れ里(里)へと直接向かい、浄化の魔導士たちの協力を強引にでも取り付ける。キングラッド、タリン、ブロムルの三人は、このクランハウスに留まり、俺たちの遠征に必要な大量の武器や防具、そしてあの防毒マスクの量産体制を完璧に整えておけ。俺たちが戻り次第、即座にあの『大理石の墓標』へと進軍を開始する」
「「「了解した、大将!!」」」
構成員たちの力強い咆哮がリビングに響き渡る。
こうして、建国への第一歩となる『エルフの隠れ里への強行軍』が決定し、俺たち四人は仕立ての良い軽量の戦闘服を身に纏い、白日の太陽が照らす要塞都市の南門を静かに立ち去るのだった 。
第六十六話:ルミナリアの王女と、日出ずる国の連撃
俺――ハナシ・リョウガ、エナリル、そして新たに加わったカゼミ(Kazemi)とキヤム(Kiyamu)の四人は、馬車 に乗り込み、エルフの秘境の深奥にそびえる大都市**『ルミナリア(Luminaria 』**を目指して旅を続けていた。
かつて俺がエルフの捕虜 だった頃、エルフの国境都市が魔物の大軍によって陥落した。さらに領主ガレス様からの情報で、エルフの他の二つの都市もすでに陥落していることが判明している。それゆえ、生き残ったエルフの全勢力は、強力な古代結界の防衛力を誇لこの『ルミナリア』へと撤退しているはずだった。
馬車が揺れる中、俺は隣に座るエナリルの横顔をじっと見つめていた。彼女のハイド(気配)から、強い焦燥と迷い が伝わってきたからだ。
俺は静かに声をかけた。「おい、エナリル。あの街から逃亡して以来、お前は父親や家族のことがずっと心配だったはずだ。あのルミナリアに行けば、きっと彼らに再会できるな」
エナリルは俺を見つめ、複雑な面持ちでマントのフードを握りしめた。
「……ええ。家族や民衆 にまた会えるのは本当に嬉しいの。だけど……人間たちと共に残り、人間の街で戦っていた私を、彼らがどんな目で見て、どんな『衝突』を下すのか、それがどうしても怖くて……」
「案ずるな」俺は冷淡に、しかし確固たる意志を込めて告げた。「お前がどんな決断を下そうとも、俺はすべてを受け入れる。お前は俺の『友 』だからな。何があろうと俺が護ってやる」
その言葉に、エナリルは瞳を潤ませながらも、小さく安心したように微笑んだ。
それから数日の旅路を続け、緑豊かな大森林の境界へと差し掛かった、まさにその時。
突如として、鬱蒼と茂る木々の隙間から、激しい悲鳴と獣のような怒号が響き渡った。
「キヤム、影に潜んで様子を見てこい」俺は短く命じた。
「御意に」キヤムは【瞬間移動 】の秘術を使い、音もなく闇へと消え去った。
数秒後、キヤムが再び俺の傍らに現れた。「主上、エルフの農民 と思われる数家族が、(女子供)を連れて**『山岳オーク 』**の群れに襲われています。エルフの男たちが必死に抵抗していますが、全滅は時間の問題です」
「行くぞ、大将の命令だ。殲滅する」
俺の合図とともに、四人は一斉に馬車から飛び出した。
一頭の巨大なオークが、錆びた大斧を振り上げ、怯えるエルフの子供の頭部へと叩きつけようとしていた。
「 amphitheater めるなよ、豚風情が」
俺は即座に【最速スキル】を解放した。世界が完全に停止する。神速の領域を滑るように突進した俺は、子供の目の前に現れると同時に剣を一閃させ、オークの両腕と首をコンマ数秒で完全に『切断 』した。
世界が動き出し、血飛沫を上げて倒れるオーク。俺は怯える子供を抱きかかえて母親の元へと送り届け、冷酷に言い放った。「ここから離れていろ。あの不浄どもは、すべて俺が『消滅』させる」
「イヤァァァッ!!」
天空から鋭い咆哮が響いた。姉のカゼミが二本の剣 を構えて大跳躍し、東の国の秘技『神速連斬』を繰り出した。白昼の光の中に眩い閃光の網が走り、一瞬にして五頭のオークが細切れに粉砕されて地面へと転がった。
続いて妹のキヤムも、二本の『鋼鉄の短剣 』を逆手に握り、瞬間移動 を織り交ぜた独自の暗殺術『死滴の一撃』を敢行した。奴が虚空から消えて現れるたび、オークの首元には一本の正確な刺創が刻まれ、一撃のもとに四頭のオークが息絶えていった。
生き残って逃げ出そうとした残りのオークどもは、エナリルが放った神速の魔導矢によって、その背中を正確に撃ち抜かれ、全滅した。
圧倒的な蹂躙劇。
命を救われたエルフの農民たちは、唖然として立ち尽くしていたが、エナリルの姿を目にした瞬間、一斉にその場に平伏して叫んだ。
「お、王女殿下……! 我らをお救いいただき、心から感謝いたします! ……しかし、その人間の男たちは一体何者なのですか!?」
かつてエルフの国境都市が崩壊し、そこから脱出する過程で、俺とキングラッドの二人だけは、エナリルが『エルフの王女 』という高貴な身分であることをすでに知っていた。しかし、新入りのカゼミやキヤムたちにとっては、これが彼女の本当の正体を知る初めての瞬間だった。
エナリルは凛とした声で応じた。「立ち上がりなさい、我が民よ。この人たちは私の大切な仲間 であり、あなたたちを救ったのは、このクランリーダーのリョウガです。私たちは皆、一つのパーティーなのです」
俺は剣を収め、淡々と告げت。「もしお前たちもあの『ルミナリア』へ向かう途中なら、俺たちも同じだ。この馬車に乗るがいい」
さらに俺はエナリルを振り返った。「エナリル、彼らに水と蓄えの食料 をすべて分け与えてやれ」
エルフの家族たちは、飢えと渇きを癒やされながら、信じられないといった面持ちで俺を見つめ、互いに囁き合っていた。
「人間が、我らエルフの命を救い、食料まで与えてくれるなんて……。こんな奇妙で底知れぬ人間は、見たことがない……」
俺たち四人と、救われたエルフの家族を乗せた馬車は、真昼の太陽の下、かつてない輝きを放つエルフの不夜都市『ルミナリア』へと向かって再び走り出した。
――しかし、その道中、ルミナリアの巨大な防壁の城門が見え始めた、まさにその時。




