第46話から第48話
第四十六話:偽りの五証言と、執行の死刻
その頃、 要塞都市の城内では、領主ガレス様が国王オーレリウス四世陛下の元を訪れ、リョウガの救出について極秘の軍議を執り行っていた。
「陛下、私は何としてもリョウガ君の無実を証明し、あの不当な拘束から救い出すべきだと考えます。あの悪魔との共謀という罪状は、我らが彼の力を利用することを阻まんとする、反対派の陰謀に違いありません」
国王陛下は深く考え込むように少しの間を置き、重厚な声で応じた。
「……お前の言う通りだ、ガレス。だが、聖殿の権力はあまりにも絶大であり、正面から抗うことは極めて困難。三百年前から続く彼らの独立性を侵せば、国が割れる。我々にできる唯一の道は、リョウガを無罪放免とするための確実な『証拠』と『証言』を突きつけることだけだ。ガレスよ、この件の調査をお前に一任する」
「御意に、陛下」領主ガレス様は深く一礼して席を立ち、自身の執務室へと戻った。彼は即座に、国王直属の王宮隠密部隊、通称**『王の眼耳』**の精鋭を召喚し、この密告事件の裏に潜む黒幕を徹底的に洗い出すよう秘密裏に命じた。
外壁の戦いから数日が経過した、まさにその時、中央広場では。
冒険者ギルドマスターのイーゴリ(Igor Stone-Crusher)と商人ヴァリックの二人も、群衆の中に身を潜め、これから始まる最悪の裁判の行方を険しい表情で見守っていた。
壇上に立つ修道僧は、冷酷に右手を掲げ、広場全体に響き渡る声で裁判の開始を宣言した。
「これより、異端審問裁判を始める! この少年の罪状は、奴自身が『悪魔そのもの』であるという点だ。我らの元には、奴が悍ましい悪魔へと変貌する瞬間を目撃した確実な証人たちがいる! さらに、この少年が**あの夜の戦い**の最中に魔物の大軍の中へと連れ去られながら、数日後に何食わぬ顔で無傷で帰還したことは皆も知る通りだ。奴は魔族と契約を交わしたのだ!」
修道僧は吊るし上げられている俺に向き直り、傲然と言い放った。
「悪魔の手先よ! 今hereで、この民衆の御前で己の罪を認めよ。さすれば、苦痛のない安らかな処刑を約束してやろう。だが、もし告白を拒み、このまま証人たちの証言によって有罪が確定したならば、お前をこの世の物とは思えぬ最も残虐な方法で処刑してやる。……さあ、証人たちをここへ!」
群衆の中でそれを見ていたキングラッドは、隣のタリンとエナリルに向かって声を潜めた。
「……まずいな。暗黒外壁の戦いから数日が経っているが、聖殿の異端審問の法では、五人の『有罪の証言』が揃えば、王法すら覆せぬ絶対的な死刑判決が確定してしまう。証人の数が足りないことを祈るしかない」タリンが分厚い拳を握りしめ、歯噛みしながら怒鳴った。「五人の証人だと!? 一体どこのどいつが、リョウガの死を望んでそんな汚え嘘を吐きやがるんだ!!」
修道僧の合図とともに、第一の証人が証言台へと上がった。
姿を現したのは、以前ギルドの酒場で俺に叩きのめされたプラチナ・Bランクの冒険者、キライ(Kirai)だった。奴は下劣な笑みを浮かべて俺を睨みつけ、言い放った。「私は証言します。このガキは人間じゃねえ、本物の悪魔です!」
修道僧が厳格に釘を刺す。「証人よ、聖殿の御前で偽証をすれば、お前自身が神々の罰を受ける。間違いないな?」
キライは胸を張り、大きな声で答えた。「ええ、間違いありません、閣下! こいつは悪魔です!」
続いて第二、第三、 そして第四の証人が次々と台に上がった。だが、その全員がキライの息のかかった仲間たちだった。奴らは口を揃えて「この少年は悪魔だ」と偽りの証言を重ねていく。
そして最後、第五の証人として台に上がったのは、なんとあの防衛戦に参加していた王国の守備兵の一人だった。その兵士は、恐怖に全身をガタガタと震わせながら、怯えた声で証言した。
「わ、私は**あの夜の一戦 **の時、壁の上から目撃しました……。この少年の身体から不気味な二色の炎が噴き出し、肌に黒と金の悪魔の紋様が浮かび上がるのを……。奴は人間ではありません、悪魔の化け物です……!」
「よし、これで五人の証言がすべて揃った!」
修道僧は勝利を確信し、邪悪な笑みを浮かべて広場に宣言した。
「五人の証言により、この少年、ハナシ・リョウガの『悪魔との共謀罪』による絶対死刑の判決が下された! これより、神々の御名において、ただちに刑を執行する!」
修道僧が冷酷に執行の手を振り下ろした、まさにその時――。
第四十七話:虚飾の聖火と、決死の翻転
その瞬間、国王直属の秘密部隊である「国王の目と耳」が行動を起こし、押収した重要な「証拠」をギャレット卿に返還した。
調査の結果、衝撃的な事実が判明した。最高指揮官であるルシアン・ヴェイル公爵(Duke Lucian Vale)が، 以前ギルドでリョウガと揉め事を起こしていたキライの一味に対し、巨額の金貨を支払って偽証を依頼していたのだ。さらに、第五の証人となったあの守備兵の男は、幼い娘が重病を患っており、緊急の治療費を必要としていた。ルシアン公爵はその弱みに付け込み、医師に治療費を全額支払う代わりに『少年は悪魔に変貌した』と偽証するよう脅迫していた。その医師も、ルシアン公爵から直接金を受け取ったことを白状した。
ガレス様はただちに国王陛下の元へ走り、この卑劣な陰謀の全貌を報告した。
オーレリウス四世(King Aurelius IV)はしばらく深く沈黙した後、重厚な声で告げた。
「……ガレスよ、この件において『ルシアン公爵』の名は伏せておくのだ。奴の愛国心は本物であり、国を滅ぼそうとしているわけではない。ただの偏屈で 偏見(狂信的)な男なのだ。現在、我が国は魔物の大侵攻という未曾有の危機の最中にあり、奴の軍実績な統率力が必要不可欠。今はただ、集めた証拠を以て聖殿からリョウガを無罪放免とせよ」
「御意に、陛下」ガレス様は深く一礼すると、直ちに王宮の直属騎士団を率いて、処刑が執行されようとしている中央広場へと馬を飛ばした。
広場では、修道僧の命令により、リョウガが縛り付けられている二本の木柱の周囲に、大量の「薪 」が次々と積み上げられていた。
それを見つめるキングラッド、エナリル、タリンの三人は、激しい怒りと悲痛な بغض(悔し涙)に身体を震わせていた。タリンが今度こそ大斧を抜き放ち、力任せに突撃しようとした、まさにその瞬間――。
「そこまでだ! 執行を止めよ!」
広場の群衆を掻き分け、領主ガレス様が王宮騎士団を引き連れて鮮やかに現れた。
「この判決は無効である! 証人たちが偽証を行っていたという、国王陛下の直属部隊による確実な証拠がここにある!」
ガレス様が国王の親書を掲げると、広場は一瞬にして歓喜の嵐に包まれた。対照的に、偽証を行っていたキライと仲間たちの顔は恐怖で紙のように真っ白になり、周囲の民衆から猛烈な罵声と くそ(呪詛)を浴びせられた。
しかし、聖殿の修道僧は顔を**「怒り(激怒)」**に染め、杖を叩きつけて叫んだ。
「お言葉ですが領主殿! 異端審問の法に基づき、一度確定した神々の判決は覆らん! 刑は直ちに執行される!」
「黙れ、妄信者が!」ガレス様が怒鳴りつけた。
その時、地を割るような不気味な音とともに、要塞都市の全域から一斉に「緊急防衛の鐘(警告の鐘)」が乱打され始めた。魔物の第二波の襲撃を告げる恐怖の鐘の音だ。広場は一瞬にしてパニックに陥り、民衆は悲鳴を上げて避難所へと逃げ惑い始めた。
「クソッ、悪魔の手先め! 仲間の魔物どもを呼び寄せおったか! 神々の御名において、今ここで焼き殺してやる!」
修道僧は完全に理性を失い、激昂のままに手にした松明を積み上げられた薪へと投げつけた。
ゴォォォォォォォォッ!!!
瞬間、リョウガの周囲に凄まじい「爆炎」が燃え上がった。それは通常の火炎ではなく、聖殿の法力が込められた特殊な『審判の炎』だった。一度燃え上がれば、外部からの魔法や水では決して消火できない。タリンやエナリルが必死に属性魔法を放って消そうとしたが、火勢は衰えるどころか、さらに激しくリョウガの身体を包み込んでいく。
「無駄だ!」修道僧が狂ったように笑った。
「その火は『不浄の炎』! もしその者が本当に悪魔でなければ、己の無実の意志によってのみ消し去ることができる! だが、悪魔の肉体ならば、骨の髄まで焼き尽くして灰にするのみだ!」
激しい業火の壁の向こう側。魔力封じの枷を嵌められたまま、全身を焼き焦がす熱量の中で、俺――ハナシ・リョウガは、冷酷な笑みを崩さぬまま、狂った修道僧の目をじっと睨みつけていた。
レベル50……そして【双焔魔導(レベル4)】へと至った俺のマナが、抗マナの鎖を内側から破断せんばかりに、激しく、そして凶暴に狂い咲こうとしていた――。
第四十八話:消滅の死言と、深淵からの再襲
激しい『審判の炎』が天高く燃え上がる中、キングラッド、タリン、エナリルの三人は、狂おしいほどの焦燥に駆られてリョウガの名前を叫び続けていた。
「リョウガァァァッ!!」
彼らは炎の熱量に肌を焼かれながらも、必死に属性魔法を放って消火を試みるが、聖殿の法力が込められた不浄の炎にはカスリ傷一つ付けられない。
その様子を見た修道僧は、狂信的な傲慢さと歓喜に顔を歪め、薄汚い笑みを浮かべた。
「ハハハ! 素晴らしい! ついに、不浄なる悪魔の手先が我が聖殿の炎によって神聖に浄化されたのだ! 神々の御名において、また一つ邪悪がこの世から駆逐されたのだ!」
修道僧が勝ち誇って叫んだ، まさにその瞬間だった。
突如として、燃え盛っていたすべての炎が、まるで冷たい雨水を浴びせられたかのように一瞬にして鎮火した。
炎が消え去った後、リョウガの頑強な肉体には火傷の痕一つなく、ただ熱せられた水分が白い水蒸気となって静かに立ち上っているだけだった。そして、彼のマナを完璧に封じ込めていたはずの『抗マナの鎖』が、内側から引き千切られるように音を立てて砕け、地面へと崩れ落ちた。
リョウガは頭を低く垂れ、濡れた漆黒の髪がその両目を覆い隠していた。次の瞬間、彼の身体が重力を無視するように、ゆっくりと虚空へと浮かび上がり、宙に 一時停止中(浮遊)し始めた。
『システム音:プレイヤーレベル50に到達したため、第三の魔眼【混沌の魔眼】が覚醒しました。敵の魔法に深刻な精神を引き起こし、周囲の自然エレメントの調和を完全に崩壊させる権能を有します』
「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」
修道僧は恐怖のあまり絶叫し、腰を抜かして地面へと無様にひっくり返った。
「ば、馬鹿な……!? 聖殿の審判の炎から無傷で生還する人間などいるはずがない! 奴は悪魔ではない……悪魔を統べる『魔王』だぁっ!!」
修道僧は恐怖のあまり、地を safe うようにして必死に広場の隅へと逃げ惑った。
広場に集まっていた民衆、兵士たち、そしてギルドマスター・イーゴリやヴァリックすらも、あまりの超常的な光景に言葉を失い、全員がデハンと目を大きく開けて硬直していた。
「おい、嘘だろ……あの炎から生き残るなんて……」
「彼は悪魔なんかじゃない、神々から遣わされた『天使』に違いない!」
「いや、あの禍々しい威圧感を見ろ、本物の化け物だ……!」
群衆の中にいたキライと仲間たちの顔は、もはや紙を通り越して死人のように青ざめていた。ガタガタと全身の骨を震わせながら、キライが狂ったように呟く。
「あり得ねえ……夢だ、俺は最悪な悪夢を見ているんだ……! あの野郎、死ななかったばかりか、空中に浮いてやがる……っ!」
天空に していたリョウガは、冷酷かつ な眼差しを、地を這う修道僧へと向けた。
「……お前に言ったはずだ。今日のこの日のことを、一生忘れるな、とな」
リョウガは静かに右腕を伸ばし、その手のひらを修道僧へと向けた。そして、伸ばした手を力強く『握りしめる』と同時に、冷徹な死の呪言を紡いだ。
「――『消滅(Extinction)』」
ドゴォッ!!!
一瞬だった。
一百分の数秒の狭間、修道僧の肉体は内側から全魔力を爆発させ、血飛沫を上げることもなく、一瞬にして塵の粒子となって虚空へ粉砕され、消滅しやがった。
広場全体が、まるで墓場のような絶対の静寂に包まれた。誰もがリョウガの放った異次元の力に、魂の底から恐怖したのだ。
事態を察知した領主ガレス様は、リョウガの復讐の矛先が街全体へと向かうのを阻止するため、直ちに王宮騎士団へ大声を張り上げた。
「総員! 直ちに偽証を働いたキライの一味、 そしてあの守備兵の男を拘束しろ! 英雄の怒りを鎮めるのだ!」
だが、リョウガは冷酷な目を崩さぬまま、次に証言台にいたキライたちへと右腕を伸ばした。
その時、キングラッドが凄まじい風のマナを纏ってリョウガの前に立ちはだかり、命懸けの叫びを上げた。
「リョウガ! 正気に戻れ、頼む! 今は復讐に我を忘れる時ではない! お前の無実の証明は、領主様が今しがた果たしてくれたはずだ!」
リョウガの瞳には、一切の感情が宿っていなかった。冷徹な のまま、彼はキングラッドを見下ろした。
「どけ、キングラッド。……それともお前も、その を庇った罪として、ここで同時に処刑されたいのか?」
「ひ、ひぃぃっ! 助けてくれ! 悪かった、俺たちが悪かったあぁぁっ!!」
キライと仲間たちは涙と鼻水を流し、地面に傷つくように見苦しく命乞いを始めた。
その時、ドワーフのタリン、そしてギルドマスターのイーゴリまでもがキングラッドの隣へと並び立ち、空中のリョウガへ向かって頭を下げた。
「頼む、リョウガ! 怒りは最もだが、こいつらは王国の法によって合法的に地獄へ叩き落とされるべきだ! 今ここで手を汚すんじゃねえ!」
広場から少し離れた場所で、エナリルはリョウガの放つ、これまでとは比較にならないほど凶暴で黒いマナの波動に し、怯えた瞳でその凄惨な光景をただ見つめることしかできなかった。
――その時だった。
ズズズズズズズズッッ!!!
昨夜の大侵攻の時を遥かに凌駕する、大地を割る凄まじい地響きが広場を襲った。
「な、何事だ!?」
民衆が悲鳴を上げて逃げ惑う中、街の石畳を突き破って、あの悪魔の系譜『岩食い蟲』が、なんと同時に二頭、大地の底から姿を現したのだ!
一頭は驚異的な速度で周囲の聖殿騎士団へ牙を剥き、そしてもう一頭は――不運にも、広場の隅で立ち尽くしていたエナリルの真真下から突き上げてきやがった!
「きゃああああああっ!?」
凄まじい衝撃により、エナリルの華奢な身体が虚空へと数メートルも高く弾き飛ばされた。
地面から飛び出してきた岩食い蟲は、その三層に重なり合った巨大な顎を限界まで広げ、空中を落下するエナリルをそのまま一口で呑み込もうと牙を剥く!
空中を落下しながら、エナリルは涙に濡れた瞳で、遥か天空に浮かぶリョウガを見つめた。彼女は最期の力を振り絞り、悲痛な声を張り上げた。
「リョウガ―――ッッ!! 私を……助けて……!!」
その悲鳴が耳に届いた瞬間、リョウガの右目の魔眼が、これまでにないほど激しく紅蓮と蒼氷の二色に跳ね上がった――。




