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孤狼の転生~最速スキルでゼ 口から始める〜  作者: Ebi
(第一章:孤狼の覚醒と王の盾要塞 - Daiisshō: Korō no Kakusei to Ō no Tate Yōsai)
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第31話~第33話

第三十一話:漆黒の救い手と、軍議の不協和音


夜も更け、静まり返る戦場に、冷たい雨が静かに降り始めた。


漆黒の外壁の向こう側は、無数の魔物の屍骸と、鼻を突く強烈な血と死臭が辺りの空気を窒息せんばかりに満たしている。


俺――ハナシ・リョウガは、凍てつく大地に倒れ伏していた。肉体の限界を超えた魔力の解放、そして二つの複合魔法を同時に強制駆動させた代償はあまりにも重く、全身の骨は砕け散り、筋肉はズタズタに引き裂かれていた。マナは完全に枯渇し、指一本動かすことすらできない。


冷たい雨粒が頬を叩き、俺は辛うじて重い瞼を開いた。


(……動けねえ。足も、身体も、完全に感覚が消えてやがる。やはり、あの二つの魔法を同時に使った代償か……。クソッ、ここで終わりなのかもしれないな。だが、後悔はねえ。たとえ誰も助けに来ない、この絶望の地だとしても、俺は諦めない。俺はリョウガだ、もう二度と、理不尽に屈して終わるものか……!)


商己の魂に言い聞かせるように心の中で叫んだが、急速に意識が遠のいていく。薄れゆく視界の向こう、暗闇の先から、こちらに向かって近づいてくる「一つの不気味な黒い影」が見えた。


それが何者であるのかを確かめる前に、俺の意識は再び深い闇へと沈み、完全に気絶した。


一方、その頃。城内の軍事作戦室では、領主ガレス様の「リョウガの力を防衛に利用する」という提案を巡り、激しい議論が続いていた。


数人の将軍は領主の方針に賛同した。周辺の隣国に弱みを見せて救援を乞うくらいなら、あの規格外の少年の力を借りる方が遥かに現実的だからだ。しかし、猛烈に反対の声を上げる者たちもいた。


「正体も分からぬ一人のガキに、我がアラマンドン王国の命運を委ねるなど正気の沙汰ではない! 我々はあいつが何者なのかすら知らんのだぞ! 到底信頼などできん! 直ちに他国へ救援を求めるべきだ、手遅れになる前にな!」


そう声を荒げたのは、反対派の筆頭である**『ルシアン・ヴェイル公爵(Duke Lucian Vale)』だった。

ルシアン公爵は、宮廷魔導士団長である『アリスター・フェイド男爵(Baron Alistair Fade)』**に向き直り、鋭い口調で問いかけた。「アリスター男爵、お前の意見はどうだ?」


アリスター男爵は静かに顎を撫でながら、冷静な声で応じた。


「私はあの少年を直接目にしてはおりません。しかし、彼が冒険者ギルドの測定で『虹色の指輪』を発現させたという報告は受けております。あれは、未知の、そして絶大な魔力を秘めている証拠。私としては、まずは彼を直接見極めたいところですが……何しろ、彼は今も壁の外。そもそも、**魔物の大群の侵攻(モンスターの侵略)**を前に、まだ生きているかどうかも分かりませんからな」


彼はそう言うと、「これ以上の議論は明日にしましょう。今夜は休息をとるべきです」と言い残し、自身の屋敷へと帰っていった。会議は結論を破らぬまま散会となった。



深い夜の静寂の中、あの戦場に現れた漆黒の影は、倒れていたリョウガの身体を静かに抱え上げ、岩壁の奥深くに隠された秘密の「避難所(隠れ家)」へと連れ去っていた。


影はリョウガを簡素なベッドの上に横たわらせた。リョウガは意識を失いながらも、砕けた身体の激痛に苦しげな呻き声を漏らしている。


黒い衣装を纏ったその人物は、手際よくリョウガの治療を開始した。


どこからか取り出した貴重な薬草を調合して傷口に塗り込み、清潔な包帯でリョウガのズタズタになった身体を丁寧に包み込んでいく。さらに、冷え切った洞窟の空気を暖めるために小さな焚き火を起こすと、冷たい水で濡らした手ぬぐいをリョウガの額の上にそっと置いた。


高熱にうなされる少年の看病を、その謎の救い手は、夜が明けるまで一言も発さず、ただ静かに、献身的に続けたのだった。


第三十二話:王の到来と、隠れ家の異邦人


朝が訪れたが、キングラッド、タリン、エナリルの三人は、昨夜から一睡もできずにリョウガのことばかりを考えていた。


皆で朝食の机を囲んだものの、誰一人として喉を通る気配がない。その沈痛な様子を見かねたヴァリックが、静かに声をかけた。


「皆さん、リョウガ君のことが心配なのは私も同じです。ですが、私はあの少年の圧倒的な強さと、鉄の意志をこの目で見てきました。あの激戦を生き抜いた彼の力を信じましょう。リョウガ君が戻ってきた時、皆さんがそんなに暗い顔をしていたら、きっと彼も悲しみますよ」


その言葉に、タリンが自慢の髭を震わせて声を張り上げた。


「おうよ! その通りだ! 俺様としたことが、なぜこんなに弱気になってやがったんだ。あいつはドワーフの血の宿敵をわずか数秒で粉砕した本物の戦士だぜ! 英雄がそう簡単にくたばるはずがねえ。すぐにひょっこり戻ってくるさ!」


キングラッドもフッと笑みを浮かべ、言葉を繋いだ。「ああ、そうだな。もっとあいつの力を信じようじゃないか」



三人が少しだけ笑顔を取り戻したその瞬間、街中に鳴り響く重々しい鐘( ベル)の音が響き渡った。

「何事だ!?」


エナリルがマントのフードを抑えながら、緊張の面持ちで呟く。「また……敵の襲撃なの?」


ヴァリックは首を振り、耳を澄ませた。「いや、これは警告の鐘ではありません。どこかの高貴な身分のお方が、この街へ入城された合図です」


彼らは真相を確かめるべく、急ぎ街の中央広場へと向かった。広場はすでに身動きが取れぬほどの民衆で埋め尽くされていた。壁の上に立つ領主ガレス様や、指揮官ドレイヴンをはじめとする軍の高官たちが、厳格な姿勢で整列している。


やがて、白と青の軍旗を掲げた大軍勢が広場へと行進してきた。その旗の中央には、盾に刻まれた『翼を広げた大鷲( 翼のあるワシ)』の紋章が神々しく輝いている。それに導かれるように、同じ紋章をあしらった壮麗な馬車が広場へと滑り込んできた。


アラマンドン王国の最高権力者――国王陛下とその直属の近衛軍の平定だった。


「国王陛下万歳!」「陛下が、我らをお救いくださったぞ!!」


民衆から割れんばかりの歓声と地鳴りのような叫びが沸き起こる。馬車の扉が開き، 目の眩むような豪華な衣服と外套を纏った男が姿を現した。


彼こそが、アラマンドン王国の統治者**『オーレリウス四世(King Aurelius IV)』**だった。


オーレリウス四世は集まった民衆へ向けて力強く手を振ると、深く威厳に満ちた声を響かせた。


「我が勇敢なる兵士たち、そして最前線で耐え抜いた民よ! 私は皆の傍らで共に戦うため、自らここへ馳せ参じた! 今回の大侵攻を防ぎ切り、見事に勝利を掴み取った皆の不屈の闘志に、心から感謝の意を表する。多大なる犠牲を払うこととなってしまったが、皆の果敢なる戦いは、歴史に深く刻まれ、後世に語り継がれるであろう。愛する者を失った遺族たちへ、私は国家を代表して深き哀悼の意を捧げる」


民衆は涙を流し、あるいは声を詰まらせながら国王の言葉に聞き入った。陛下は続けて、同行させた大量の軍備品、防衛兵器、そして膨大な食糧の配給を約束し、「我が国に、勝利あれ!」と告げた。広場は歓喜の怒号(ハラ)で包まれ、王はそのまま領主の城へと入っていった。


それを見送ったキングラッドが、小さく息を吐いた。


「フム……これは朗報だな。王宮の精鋭部隊がこれだけの装備と物資を運び込んでくれた。これで防衛力は格段に上がり、兵や民の士気も救われた」


しかしタリンは複雑な面持ちで顎を擦った。「確かに良い知らせだがよ……もし昨夜のような大侵攻の『第二波』が来たら、これだけの戦力でも足りるかどうか分からねえ。昨夜防壁を守り抜けたのは、偏にリョウガのおかげだからな」


エナリルが真剣な目をヴァリックに向けた。「ヴァリックさん……あなたから領主様に直接話をして、リョウガを捜索するための部隊を出してもらうことはできないかしら?」


ヴァリックは少し考え込んでから、重い口を開いた。


「……分かりました、善処してみましょう。ですが、軍の上層部や将軍たちの賛同を得る必要があるため、必ず許可が下りるという保証はできません。しかし、私の人脈のすべてを賭けて、全力で交渉してみます」


――その頃。大壁から遥か遠く離れた、静かな岩壁の隠れ家。


俺――ハナシ・リョウガは、ゆっくりと意識を取り戻し、その眼の瞼を開いた。激しい魔力枯渇の反動による、酷い眩暈と頭痛が襲ってくる。


しかし、身体の感覚を確かめると、不思議なことに、全身の激痛は残っているものの、失われていた感覚が戻り、身体を動かせるようになっていた。


(……確か、俺が最後に記憶しているのは、冷たい雨に打たれながら戦場に倒れ伏していた瞬間だ。あのまま気絶したはずなのに、なぜ俺はこんな場所にいるんだ?)


その時、かすむ視界の向こうから、何者かが自分に向かって歩み寄ってきたあの最後の「黒い影」の記憶が脳裏をよぎった。俺は警戒し、高鳴る鼓動を抑えながら無理に身体を起こそうとした。


「動くな。まだお前の身体の再構築(回復)は完全には終わっていない」


暗闇の奥から、低く、驚くほど冷静で 冷静な な声が響いた。


俺が音のした方へと視線を転じると、そこには衣服を纏った一人の男が座っていた。その頭部には、明らかに人間とは異なる『獣の耳(あるいは、狐や狼のような耳)』が生えており、彼は手にした一本の『カタナ(刀)』を静かに、入念に手入れしていた。その佇まいは、前の世界で読んだ「忍者(ニンジャ)」そのものだった。


男はカタナを鞘に収めると、鋭い眼光を俺に向けた。


「これほどの致命傷を負いながら、生きて意識を取り戻すとはな。お前、本当に特異な戦士だ。……名を名乗れ」


俺は右目の魔眼を微かに輝かせ、その不気味な異邦人の姿を睨みつけながら、短く答えた。


「……リョウガだ。リョウガ・ハナシ」


三百年の時を超えた要塞都市に王が君臨する中、壁の外の暗闇では、孤独な 狼 と新たな異族の運命が交錯しようとしていた。



第三十三話:日出ずる国の亜人と、最強への飢餓


自己紹介を終えた後、俺――ハナシ・リョウガは目の前に座る「亜人(アジン)」の男を鋭い眼光で睨みつけ、問いかけた。


「お前は誰だ? なぜ俺を助けた?」


その亜人の男は、カタナを鞘に収めると、静かに口を開いた。


「俺の名はシン・カツ(Shin Katsu)。遠く離れた『日出ずる東の国』から、ある任務のためにここへ来た。魔物どもの活動が異常に活発化している原因、そしていくつかの新種の魔物の出現について調査するのが目的だ。昨夜、この『王の盾』の街が襲撃されたと知り、奴らの戦闘スタイルと戦略を間近で推し量る絶好の機会だと思ってな」


シンは俺の右目をまっすぐに見つめ、薄く笑みを浮かべた。


「だが、魔物どもが文字通り無残に粉砕されていくのを見て、一体どこのどいつがこんな真似をしているのかと戦場に近づいてみれば……お前がいた。見たこともない妙な魔法を使い、まるで飢えた魔狼の如く、すべての獲物を喰らい尽くしていた。実に見事、そして圧倒的だった。だが、魔物どもが退散した途端、街の連中は防壁を閉ざし、お前を助けに来る者は誰一人としていなかった。だから、俺の身体が勝手に動いてお前を救い出したのさ。一人の孤高なる戦士に対して、俺がしてやれる最低限の敬意だ」


彼は焚き火に薪をくべながら、冷徹な声で言葉を繋いだ。


「お前は確かに強い。だが、覚悟もなしに己の魔法を暴走させれば、肉体が内側から崩壊して今回のように自然な状態を保てなくなる。今のままでは、まだまだ特訓が必要だな」


「お前も、そんな危険な調査任務を単騎で任される以上、相当な手練れなのだろうな」俺は痛む身体を押さえながら問い返した。「だが、それほど近くにいたのなら、なぜ街の防衛に手を貸さなかった?」


シンは一瞬、冷酷で不気味な眼光を俺に向け、鼻で笑った。


「なぜ、俺が面識もない弱者どものために我が命を危険に晒さねばならんのだ? 俺の任務は、何よりも優先される。……それより、お前はなぜそれほどまでに命を懸けて戦う? 見る限り、お前はこのアラマンドン王国の人間ではないな。まさか、金のために戦っているのか?」


「金、か……」俺は喉の奥で低く笑った。「そんなもののために、俺は命を懸けたりしない。俺が求めているのは、ただ一つ。『圧倒的な力』だ」


「ほう……力、か」シンは興味深そうに目を細めた。「面白い男だな、リョウガ。……よし、まずはこれを食え。その鍛え上げられた筋肉の肉体を再生させるには、とにかく栄養が必要だ」


は、とにかく栄養が必要だ」シンから差し出された干し肉を受け切ろうとした時、俺は自分の身体を見て驚愕した。衣服の隙間から見える筋肉は、以前よりも遥かに強固に引き締まり、完璧なまでに造形( 分離)されていた。俺は即座に脳内のシステム画面を開き、自身のステータスを確認する。


(……レベル42。やはり、あの戦いで確実に強くなっている。この限界を突破するやり方こそが、俺が最強へと駆け上がるための確実な道だ)


俺は胸の内で冷酷な笑みを浮かべ、渡された食事を口へと運んだ。


食事をしながら、俺はシンの隙を突いて、右目の【分析の魔眼(レベル5)】を発動させ、奴のステータスを見通そうとした。だが――。


「わざわざ俺をスキャンする必要はない。俺はゴールド・Bランクの戦士だ」


シンの言葉に、俺は息を呑んだ。レベル5に達した俺の魔眼による解析を、奴は一瞬で察知したのだ。だが、(もしこいつが敵なら、俺が気絶している間にいつでも殺せたはずだ。助けてくれた以上、今は信用するしかない)と俺は思考を切り替えた。


一方、その頃。『王の盾』の城内の大軍事作戦室。アラマンドン王国の国王オーレリウス四世は、集まった指揮官たちを前に、軍の現状と防衛線の精査を求めていた。


領主ガレス様が進み出て報告する。


「陛下、我が軍の騎士たちの奮戦、そして『リョウガ』という一人の少年の異次元の活躍により、辛うじて第一波を退けることに成功しました。しかし、その少年は激戦の末に防壁の外へと連れ去られ、現在の生死は不明にございます。現在、防壁の再構築と強化を急がせており、次の襲撃にも耐えうるよう万全を期しております」


指揮官ドレイヴン・バルカンもこれに続いた。


「軍の被害についてですが、王宮の治癒魔術師部隊の迅速な治療により、多くの負傷兵が戦線へと復帰しております。陛下の本隊がもたらした潤沢な最新の武具と装備により、兵たちの士気は最高潮に達しております。……しかし、死傷者の数も決して少なくはありません」




国王オーレリウス四世は深く重い声を響かせた。

「この現状では、もしこれ以上の大侵攻があれば、完全に街を守り切ることは極めて困難だな。我らはどう動くべきか」


すると、領主ガレス様が深く頭を下げ、発言の許可を求めた。

「――陛下。この危機を乗り越えるため、我らは何としてでもあの少年、リョウガを捜索し、我がアラマンドン王国の直属の『王宮軍』へと組み入れるべきかと存じます。あの規格外の力があれば、我が国の勝利の確率は跳ね上がるでしょう。他国や帝国の力を借りて軍事的弱みを晒すよりも、あの少年の力を利用する方が遥かに賢明です。……しかし」


ガレス様のその言葉の途中で、作戦室の空気が張り詰めた。少年の力を巡る、王国の次なる思惑が動き出そうとしていた。




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