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箱庭のテラフォーミング【マーク編】 心折れた農学者が、もう一度土を掴むまで  作者: 大神みや


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第12話 もう一度の土

マ・カレシュに戻った朝。


東区画の、化石水が流れる水路の脇。


柔らかくなり始めた赤い土に、俺はスコップを突き立てた。


部屋から持ち出した素焼きの鉢を割った。


パキン、と乾いた音がした。


麻紐で何度も縛ったあの鉢が、2つに割れる。


中から、クロエの根が現れた。


思っていたより、伸びていた。


あの割れた素焼きの中で、見えないところで必死に生きていたのだ。


根ごと引き抜き、掘った穴に据えた。


根の周りに土を寄せ、手で押さえ、化石水をたっぷりと注ぐ。


水が土に染み込み、黒い染みを残して、土の奥へと沈んでいった。


鉢ではなく、大地に。


もう、割れた素焼きの中じゃない。


「おい、マーク。朝っぱらから何やってんだ」


バシールが、煙草をくわえて歩いてきた。


その後ろにルカと、数人の職人たち。


「リンゴの木を植えてる」


「リンゴ? こんなとこで育つのか」


「育つさ。こいつはテウマの岩場で生き延びた野生種だ。教科書に載ってる品種とは違う」


バシールは鼻を鳴らし、しゃがみ込んで苗木を眺めた。


「ふん。支柱を打ってやろうか。砂嵐で折れたら元も子もねえ」


「頼む」


「おい、ルカ! 鉄棒を3本持ってこい!」


職人たちが動き出す。


頼んでもいないのに、苗木の周りに風よけの石を積み始める者がいた。


俺はその光景を見て、静かに笑った。


ここだ。俺の場所は、ここだ。


夕暮れ時。


東区画の丘から街を見下ろしていると、背後に足音がした。


振り返ると、ジャミーラが立っていた。


GECOの制服はもう着ていない。


マ・カレシュの女たちが着る、深い藍色の布を肩に巻いている。


あの琥珀色の目が、夕陽を受けて静かに光っていた。


「植えたのね。あの苗木」


「ああ」


「帰らなかったのね」


「帰らなかった」


ジャミーラが、ほんの少しだけ口の端を上げた。


2年半の間、一度も見たことのない表情だった。


「馬鹿な男」


「よく言われる」


風が吹いた。


クロエの細い枝が、大地に根を張ったまま、夕陽の中でかすかに揺れた。


俺は木彫りのコップで水路から水を汲んだ。


クロエの根元に注ぐ。 鉢ではなく、大地に直接。


水が土に吸い込まれ、今度は一瞬では消えなかった。


しっかりと、黒い染みを残して、奥へと沈んでいった。


ハドソン渓谷のリンゴジュースの味は、もう思い出せない。


代わりに手のひらに残っているのは、鉄と蜂蜜と、この星の赤い土の感触だった。


それで十分だった。


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