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終活アイドル ラスト☆スターズ ~アイドルの寿命は短い!~  作者: 水鳥 いつき


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7/20

7話 MV撮影! ヨーくんのお菓子

今日は、ついにデビュー曲のミュージックビデオ(MV)撮影日になった。


俺たちは墨田区にある『昭和座スタジオ』に朝から入った。

そこにはカメラや照明、さまざまな小道具が広々とした空間にセットされていた。


初めて入る異世界に圧倒される。スタジオ内の一角はすでに南の島になっていた。

まず俺たちは派手な水着に着替えた。


「この歳になってこんな水着を着るとは思わなかったよ」俺は呟いた。


「いや、俺たち20歳だし」キヨが答える。


鏡に映った自分の水着姿を見ると自分が若返った実感が湧いてくると同時に、自分の寿命がもうすぐ尽きるという不安感が軽く襲ってくる。だが、とにかく今日は頑張ろう。


撮影監督さんはこだわりの人らしく、俺たちへのダメ出しは容赦なかった。特に全員ミニスカートを履いてクラブで踊るシーンで俺たちは何度も同じ演技やダンスを繰り返した。やっとお昼休み。既に俺たちはヘトヘトだった。



後藤桃香モモカ、24歳、大工。父の工務店が人手不足のため、大工家業を継ぐことにした。


運動が得意で、色黒な肌のせいか昔からよく男の子に間違えられた。父は男が欲しかったらしく、服も男みたいな服ばっかり買ってきた。周りからは可愛いよりカッコいいと言われ続け、そのせいでモモカも男の子っぽい振る舞いをするようになった。女の子にモテて、バレンタインのチョコはもらってばかりであげたことがなかった。


今日の現場は昭和座スタジオ。入り口の修理に来ていた。


「ごめん、コンクリの材料足りなかった」


「おいおい、何やってんだよオヤジー! ったく、しょーもねーな」

モモカはガシガシと短い髪を掻いた。


昼休み。これじゃ今日中にこの現場終わらないな……。


入り口横の地面に座り、休憩に入る。ふと目に入った張り紙には『ラスト☆スターズ MV撮影』と書いてあった。


「ふーん、アイドルね……」


何気なくスマホを取り出し検索する。


モモカが気になったのはヨーくんの料理動画だった。実はモモカは料理やお菓子を作るのが何よりも大好きだった。周りのみんなには似合わないと言われるのが嫌で隠しているのだった。ずっと秘密だった、本当は女の子っぽいことが好きなのに。


ヨーくんは、とても20歳の男の子と思えないほど料理が上手だった。特にケーキ作りの手際の良さにはビックリした。


(この子、本当に男の子? 女の子みたい……)


そこへお昼休憩に入ったヨーくんが外へ出てきて、モモカの横で飲み物を飲み始めた。


ドキッとして、ついジッとヨーくんを見てしまうモモカ。ヨーくんと目が合うと、ヨーくんはニコッと笑顔で返した。


(近くで見るとめちゃくちゃ可愛いな……)


「あんた料理上手だね。ケーキ、メチャクチャ美味そうじゃん」


「動画観てくれたの、ありがとう。長いことお店やってたから」


「その歳で?」


「あ、いや……その……あ、そうだ!」そう言うとヨーくんはスタジオに戻っていった。数分後、ヨーくんはモモカの所へ戻ってきた。手には何やら持っている。


「これ、僕が作ったお菓子なんだけど、よかったら食べてください」


そう言ってモモカへパウンドケーキを差し出した。一切れ口に入れると、絶妙な甘みと食感が広がり、最高に美味しかった。


「すげー美味いよ。これ普通と違うね。米粉か何か混ぜてるの?」


「すごーい! よくわかりましたね。料理やってるんですか?」


「あ、い、いや、たまにね……」


「でも、見た目もそうだけど、あんたこれじゃ女の子に間違えられないの?」


「間違えられます。けど僕は料理とか大好きなんで」


モモカは少し笑う。


「変わってるよな、アンタ」


するとヨーくんは首を傾げた。


「え? 料理好きなのって変ですか?」


「いや、男で料理だけならいいけど、お菓子まで作っちゃうの珍しいだろ」


「そうですか?」


ヨーくんは不思議そうな顔をする。


「好きなものを好きって、普通じゃないですか?」


「女みたいって言われたら嫌じゃないの?」


ヨーくんは少しだけ考える。


「あの、お名前は?」


「モモカ。……こんな見た目だけど、名前だけは女っぽいだろ」


「モモカさん、女の子らしいと思いますよ」


「どこがだよ。小さい頃から色黒で、野球と空手ばっかりやってきて、周りからはオトコオンナってよく呼ばれたよ。まぁ慣れたけどね」


「本当です! だって甘い物好きだし、ケーキ食べたときも笑った顔、すっごく可愛かったです!」


「か、かわ……」


耳が真っ赤になる。

ヨーくんは気づいてない。


「それに」


ヨーくんが少し笑う。


「モモカさん、頑張ってる人って感じでカッコいいです、大工さんのカッコも素敵です」


「じゃ、午後の撮影頑張ってきます!」


ヨーくんは走って戻っていった。残されたモモカは呆然とした。



翌日。

昭和座スタジオ、MV撮影二日目の朝。


ヨーくんがスタジオに入ると、入口でモモカが待っていた。


「お、おはよう」


少しぎこちない。

手には小さな紙袋。


「これ……昨日のお礼」


ヨーくんが受け取る。


「えっ」


丁寧に包まれている袋の中には、星型やハート型の手作りクッキーが入っていた。


ヨーくんの目が輝く。


「すごい!! モモカさん作ったんですか!?」


モモカが照れる。


「まぁな」


ヨーくんが一枚を手に口に入れる。


「おいしい!!」

「お店開けますよ、これ!」


モモカが吹き出す。


「大げさだろ」


「いや、本当に!」


ヨーくんはキラキラした目で続ける。


「モモカさん、絶対かわいいお菓子作ると思ってました!」


モモカの思考がピタリと停止する。


「……え?」


「なんかそんな感じします!」


モモカの耳がまたもや真っ赤に染まる。

ヨーくんは嬉しそうにクッキーを見ながら言う。


「あ、そうだ!」


「今度、僕達路上ライブやるんです!」

「よかったら来てください!」


モモカが少し笑う。


「作業着で行っていいのか?」


ヨーくんは少し考えて。


「うーん……」

「せっかくだから、かわいい服で来てください!」


「……は?」

モモカは完全にフリーズした。


ヨーくんはいたって真顔だった。


「モモカさん、絶対似合うと思うんです!」

「見てみたいです!」


モモカの人生で、そんなことを言った男はいない。


「そんなカッコしたこと無いよ、じゃー何かリクエストあるかい?」


「いいんですか~」

「それじゃあ~、モモカさんは目元が可愛いのでアイラインは軽くで、それからモモカさんは唇が可愛いので絶対ピンク、ちょっとラメも入れると良いです。顔の輪郭が可愛いのでチークは薄いピンク。手が可愛いのでネイルもピンクかな? それから、それから、可愛い、可愛い、可愛い……」


モモカは一生分の可愛いを言われている気持ちになってきた。


(こいつ本当に男か……?)


「あんた彼女はいるのかい?」


「えっ、いません……というか付き合ったことないです」


「好きになった女の子とかいなかったの? 割とイケメンだけどね」


「高校生の時、好きだった子がいて、思い切ってアタックしたんです。そしたら」

「ヨーくんの事好きだけど、私、彼女とか欲しくないので……と言われてふられました。いまだに意味がわからないのですが……」


(意味、わかるだろ……)


「それ以来、恋愛が怖くて……」

「モモカさんは彼氏はいるんですか?」


(えっ……いるわけないだろ……)


「いないよ、何度かいいよってくる男もいたけどね。なぜかマッチョばっかりでね」


「マッチョはダメなんですか?」


「ダメ……でもないけどタイプじゃないね。もしかしたらあんたみたいのが私には合ってるのかもね」


「僕、モモカさんみたいな人、すっごくタイプです」


(えっ!?)


モモカは少しドキドキした。


「もっと若い時にモモカさんと出会ってたら、絶対告白したかも」


(いや……若いだろ……)


「こんなに可愛くて美味しいクッキー焼けるひと素敵です! 女子力高すぎですよ!」


「とにかく、ライブ頑張るんで来てください! モモカさんの可愛いカッコ期待してますよ」

「お待ちしてまーす! クッキーありがとうございます!」


ヨーくんは笑顔でスタジオへ走っていった。

残されたモモカの心臓がバクバク鳴った。


「……なんなんだよ、アイツ」


その日の帰り。

親方やみんなには内緒で、モモカは人生で初めてスカートを買いに行った。


後日、モモカはヨーくんの推しになってからモモカの乙女が爆発した。と言っても誰にも内緒だが。

編み物や縫製をやり始め、茶道教室にも通い始めた。押し入れにはピンクのビーバー人形のコレクションがこっそり増えていった。化粧品も増えていくと、モモカの部屋は家族から立ち入り禁止区域と呼ばれるようになった。

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