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終活アイドル ラスト☆スターズ ~アイドルの寿命は短い!~  作者: 水鳥 いつき


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4/20

4話 レッスン開始 アイドル活動は大変!

ここは練習スタジオ。

俺たちの、地獄のレッスンが始まった。


「これがあなたたちのデビュー曲よ」


佐々木プロデューサーから手渡された歌詞カード。

そこには、太文字で――『僕がおじさんになっても』とタイトルが書かれていた。


「これ、アイドルソングですか――っ!?」


5人の声が見事にそろった。


「そうよ。年をとっておじさんになっても好きでいてほしい、っていう願いを込めたいい歌じゃない」


佐々木さんはフフンと胸を張る。


(おじさんというか……俺たちおじいさんなんだけど……)


「さぁ、発声練習から始めるわよ! 午後からはダンスレッスンだからね。気合い入れなさい!」


そこからは文字通り地獄だった。

ボイストレーナーと佐々木さんの容赦ない怒鳴り声が、スタジオ中に響きわたる。


「演歌唄ってるんじゃないんだから!」

「そこ、それじゃあ盆踊りよ!」

「もう一回やり直し!」

「シーちゃん! これくらいで泣かないの!」

「ちょっと……トイレで吐いてきていいですか……」

「先生! リョウが立ったまま気絶してます!」


「はい、今日はここまで! 明日はもっと厳しく行くからね。振り付けと歌詞は、明日までに完璧に覚えてくること!」


俺たち5人が這うようにしてスタジオを去る後姿を佐々木さんが見つめている。


(ダメだこりゃ……やっぱり完全な素人ね。3週間でどこまで伸ばせるかしら。でも、ちょっと厳しくしすぎたかな。明日、誰か逃げ出さなきゃいいけど……)



こうして地獄の初日レッスンが終わり、俺たち5人は命からがらシェアハウスに戻った。

玄関をくぐるなり、全員がそのままリビングのソファーへと倒れ込んでしまった。


みんなはソファーの上で、まるで金縛りにあったように動けなくなっていた。

覚悟はしていたが、アイドルになるのがこれほど過酷だとは。だが、全身の凄まじい筋肉痛のおかげで、自分が20歳の身体に戻ったことだけは痛いほど実感できた。もし元の70歳の身体でこんな運動をしていたら、確実に今頃救急車の中だ。


「今日のレッスン大変だったけど……久しぶりに、生きてる実感がわいたなぁ。ねえ、僕たち本当に5年以内に寿命が尽きちゃうのかな? 70歳って、そこまでおじいちゃんってわけでもないじゃない?」


うつ伏せのまま、ヨーくんが消え入るような声で呟いた。


それに答えたのは、俺たちの中で一番体力のないリョウだった。

「現在、この日本において、独身男性の平均寿命は約65歳と言われている。……僕たちは、統計上はもういつ死んでいてもおかしくない年齢なんだよ」


リビングに、重い沈黙が流れる。

「……明日も、頑張ろうね」

俺は、絞り出すようにその言葉しか思い付けなかった。


すると、リョウがゆっくりと上半身を起こし、疲れているのに不敵に微笑んだ。

「みんなに、僕の『記憶術』を教えよう。明日までに歌詞と流れを覚えなきゃならないからな。若い人は闇雲に暗記しようとするだろうが、僕たちには70年分の人生経験という強い武器がある。効率良く行かないと、本当に武道館へ行く前に寿命が尽きてしまうからね」



次の日の朝。練習スタジオにて。


「おはよう。みんな、まさかとは思うけど歌詞と振り付けは覚えてきた?」

佐々木プロデューサーが恐る恐る尋ねる。


「なんとか、頭に入れてきました」

リョウが答える。その目は寝不足のはずなのに、ギラリと知的に光っていた。


(えっ……あんなにボロボロに疲れてたのに。意外にやるわね……!)


佐々木さんは少し驚いてるように見える。


「凄いわね! じゃあ今日はレッスンが終わったら、さっそく衣装に着替えて動画を撮るわよ。普通はMVの撮影が終わってからお披露目なんだけど、まずはグループの紹介動画をアップして、それから日々の練習風景を上げていくわ。そうやってファンを巻き込んでから、満を持してミュージックビデオ完成、観てね!……みたいなカウントダウン方式でいくわよ」


「さぁ、今日もガンガン行くわよ!」


またしても丸一日しごかれ、日が暮れた頃。

俺たちは初めて、用意されたステージ衣装へと着替えた。人生で一度も着たことのない、キラキラとした派手な服。最初は猛烈に照れ臭かったが、お互いの姿を見回すと、みんな以外にさまになっていて格好良かった。


だが、目の前に大きなカメラが据えられると、陰キャの俺は激しい緊張感に包まれた。

心臓がバクバクと鳴る。なんとか引きつった作り笑いを浮かべ、カメラの向こう側で佐々木さんが掲げるカンペを必死に読んだ。


「初めまして! 僕たち、ラスト☆スターズでーす!」

「僕たち、5年以内に絶対、武道館を目指して頑張ります!」



同じ頃。

放課後のチャイムが鳴り、吉見マコは高校を後にした。

別に学校生活に不満があるわけじゃない。だけど、なぜか毎日が信じられないくらい空虚だった。


(やっぱり、何か部活でもやれば良かったのかな……)


いまさらな後悔を頭の中でこねくり回しながら、自宅の部屋に着く。

制服のままベッドにどさりと横たわった。

「なんか、つまんないな……」

ポツリと呟き、スマートフォンを取り出す。


SNSのショート動画をなんとなくスクロールしながら、ふと、数日前のあの不思議な出来事を思い出した。

(あの人の名前……山口源三だっけ。やけに古くさい名前だったな……)


からかうような気持ちで、検索窓に「山口源三」と打ち込んでみる。

すると、最新のネットAIが即座に答えを出力した。


『山口源三さんは、新人アイドルグループ「ラスト☆スターズ」のメンバーです。イメージカラーは緑。』


(えっ……!? あの人、アイドルグループだったの!?)


マコは跳ね起き、リンク先の動画を思わずタップした。

画面が切り替わると、そこには確かに、あの日お葬式の前ですれ違った青年が、どこか不自然で初々しい笑顔を浮かべてカメラを見つめていた。


――5年以内に絶対、武道館を目指して頑張ります!


その真っ直ぐな目が、なぜか胸に刺さる。

気づけばマコは、画面にある青い「フォロー」ボタンを押していた。

それが、世界でいちばん最初の『ラスト☆スターズ』のフォロワーになった瞬間だった。



「さぁ、行くわよ。ラスト☆スターズ、記念すべき最初の動画投稿! インスタや他のSNSの連動もバッチリ仕込んどいたわ。――アップロード開始!」


佐々木さんが、パソコンの画面を勢いよくクリックした。

「さぁ、自分たちの初陣を観てごらん」


画面の中では、元気に自己紹介をする20歳の俺たちが映っていた。

しかし、こうして画面越しに見ると、どうしても自分自身だとは思えなくて不思議な感覚になる。


「なんか……すごく照れるね」

俺はつい本音を漏らしてしまった。


「照れてる場合じゃないの! これからいろんな練習風景を上げて、ファンを増やしていかなきゃ。これは大事な仕事なんだから……あらっ!?」

佐々木さんが突然、画面を凝視して声を上げた。


「ちょっと観てごらんなさい! フォローが1人ついたわよ! まだ10分も経ってないのに! やったわね、記念すべき初めてのフォロワーよ!」


「えっ!?」

俺たちは慌てて画面に顔を寄せ、初めてのフォロワーの名前を確認した。


そこには――『maco』の文字。


(maco……マコ……あれ。どこかで、聞いたような……)


頭の中に、あの葬儀場の前で出会った女子高生の顔がフラッシュバックする。

「あの、佐々木さん……この人に、俺から直接コメントを返してもいいですか?」


「良いんじゃない? 初めてのフォロワーだし、そういうファンへのマメさは大事よ」


俺は震える指先で、画面のキーボードを叩いた。


【macoさん、フォローしてくれてありがとうございます! あなたは僕たちの、世界で初めてのフォロワーです。これから死ぬ気で頑張りますので、応援よろしくお願いします!】


打ち終わって送信ボタンを押した瞬間、心臓がどくんと大きく跳ね上がった。

俺たち『ラスト☆スターズ』の物語が、今、本当に始まったのだ。



ベッドの上で寝そべりながら、マコはスマホの通知画面に表示された返信コメントを読んでいた。


(私が……最初のフォロワーなんだ……)


画面を見つめるマコの胸の奥が、トクンと小さく高鳴る。

(なんか、ちょっと運命感じちゃうな……)


マコは静かにスマホを胸に抱きしめ、窓の外の夜空を見上げた。

「ラスト☆スターズか……。うん、頑張ってね」









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