2話 アイドル誕生 ラスト☆ボーイズ
「70歳で童貞だと、魔法が一つだけ使えるのじゃ!」
死んだはずのノリは、どこか遠い目をしながら語り始めた。
「部屋で1人でいた時、ふと思ったんじゃ。ワシの人生、ゴミだったなーと。そして、少ない残りの人生もゴミなのはわかりきっておる。泣いたよ。こんなつまらない一生なんて……まぁ、自分のせいだけどな。どうせゴミな残りの人生だったら、これを何かに使えないかと。そこでワシはこの魔女に、自分の残りの寿命をすべて差し出す引き換えに、お前らを20歳の身体に戻してくれと取引したんじゃ」
「それ、魔法ちゃうやん。ただの悪魔との契約やん」
すかさず黄色担当のシーちゃんがツッコミを入れた。
「ワシは1回でいいから、女の子にキャーキャー言われたかった。ワシは金はあったがブサイクだった。だから女の子を避けるように、1人寂しく生きてきた。仮にワシが20歳に戻っても、結局ブサイクでモテない。だが、お前らは若返ったら結構イケメンじゃないかと思ってたんじゃ。――性格のせいでモテないけどな!」
ノリが俺たちに指を差す。
「お前ら、アイドルになれ! そしてワシの代わりに青春してくれ。その手紙にある芸能事務所はワシの会社の関連会社じゃ。すでに話は通してある、お膳立ては全てしておいた!」
ノリの真剣な眼差しに、ワシたちは圧倒される。
「……それから、この魔女から残念なことも聞いた」
ノリのトーンがすっと落ちた。だが、燃えるような眼差しで、
「お前らの寿命は5年以内に尽きる。残った寿命もあと少しだ、ゴミのような人生は捨てろ! もう一度言う。アイドルになれ! 武道館を目指せ!」
「はい、お終い」
魔女がパチンと指を鳴らすと、ノリの姿は煙のように消えた。
「そういう訳で、あの人の残りの寿命と引き換えに、あなたたちを若返らせてあげるわよ」
魔女は妖しく微笑むと、両手を天に掲げた。
「――時間よ止まれ。あなたたちは美しい!」
魔女がそう叫んだ瞬間、激しい黒い煙がワシたち5人を包み込んだ。
煙の向こうで、カサカサだった肌に張りが戻り、曲がっていた腰が伸びていく。みるみるうちに、5人は20歳の頃の瑞々しい姿へと戻っていった。
ただ一つ違っていたのは、髪の毛の色が、ゲームの自キャラと同じ色(緑、赤、青、黄、ピンク)に染まっていることだった。
「あの人の言う通りね。あなたたち、なかなかイケメンじゃない! 髪の毛は契約者様のご希望により、ちょっと派手にアレンジさせてもらったわ。さぁ、ここからはあなたたちの選択よ。あの人の言う通りアイドルを目指すのも良し。嫌なら元の姿に戻して、この話は無しよ。100年ぶりに呼び出されて私、ワクワクしてるのよね。出来たらアイドルしてくれると面白そうなんだけど?」
青担当のリョウが、いつもの冷静な目で魔女を見つめ、口を開いた。
「……ちょっと変だね。ノリから『武道館』という言葉が出たが、ただ青春するだけなら別に武道館を目指す必要はないはずだ。それに、ノリの残りの寿命と、我々5人の若返りでは、取引の釣り合いが合わない。何か隠しているだろう」
「ギクッ! ……勘の良いジジィは嫌いだよ」
魔女はあからさまに顔をしかめた。
「あの人には口止めされてたけど、いいわ、教えちゃう。なんせ100年暇だったから、奴とちょっとした『賭け』を持ち出したのさ。お前ら全員が死ぬまでに武道館でライブが出来なかったら、あいつの魂を頂く。――要するに、私のお家がある地獄へ連れていくってことさ。奴は『アイツらなら絶対にやる』とか言って、簡単に賭けに乗ったよ。まぁ、お前たちが元の身体に戻りたいって言うならこの賭けは無しになるけどね。言っとくけど、奴の寿命はもう戻せないよ? なんせもう死んじゃったんだから。寿命ってのは減らすのは簡単だけど増やすことはできないのさ。さぁ、どうするんだい?」
我々が元に戻っても、ノリは死んだまま。
ノリの最後の希望は、みんながアイドルになって青春すること。
ただし、アイドルになれば「5年以内に武道館」に行かなければ、ノリの魂は地獄に落ちる。
リョウが冷静に分析する。
「こんなに若返っちゃったけど、本当に僕たちの寿命は5年以内なの?」
ピンク担当のヨーくんが、不安そうに魔女に尋ねる。
「そうよ、寿命ってのは決まってるの、寿命の尽きる正確な日にちは私にも分からないわ。神様にでも聞けばわかるかもしれないけど、無理ね。ピッタリ5年後かもしれないし、1時間後かもしれない。ただ確実なのは、5年後にはみんな死んじゃってるってことね」
沈黙が流れる会議室。
それを切り裂いたのは、リーダーである赤担当のキヨだった。
「みんな……ワシたち、70歳で童貞で、この先残された人生に良いことなんて何もないよな。これはノリがくれた、ワシたちへのチャンスだ。ノリのためにも、アイドルやってみようよ!」
キヨが力強く叫んだ。
その真っ直ぐな瞳を見て、他の4人はお互い顔を見合わせ、深く、大きく頷いた。
キヨが魔女に向き直る。
「俺たち、アイドルやるよ。ノリのためにも」
「交渉成立ね」
魔女がニヤリと笑うと、再びノリを呼び出した。
「話は聞いておったぞ! みんな、ワシの代わりに精一杯青春してくれ。お前らなら絶対に武道館に行ける! グループ名はもう考えてあるぞ。お前らは『ラスト☆スターズ』じゃ!」
「ラスト☆スターズ……」
「良い名前やんか。ウチらにピッタリやで」
黄色担当のシーちゃんが呟く。
「それじゃ、決まりね。頑張ってね〜」
魔女はノリの姿を消すと、机の上にあった手紙をキヨに手渡した。
鏡に映る自分の若い姿を見つめながら、ワシは驚きを隠せなかった。
「しかし、本当にみんな若くなったな。ワシは嬉しいよ魔女が見れて、世界にはまだまだ不思議な謎がたくさんあるんじゃのー」
「ゲンちゃん、その見た目で『ワシ』はおかしいやんか。言葉遣いは変えなアカンで。それと服もな」
シーちゃんが苦笑しながら、俺たちを見回す。
「この部屋を出たら……俺たちは20歳だ。そうだよね」
5人は決意を胸に、会議室を後にした。
1人残された魔女が、誰もいない部屋で不敵に呟く。
「おもしろくなったわね。オラ、わくわくするぞ! ……そうだ、良いこと思いついたわ!」
「ラミパスラミパスラララララ〜!」
呪文を唱えると、魔女は青い煙とともに会議室から姿を消した。
葬儀場から20歳の姿に戻った5人が喪服姿で出てくる。ちょうどその前を1人の高校生の女の子が歩いてくる。彼女が何気なく顔を上げると俺と目が合った。




