1話 パンドラの箱 70歳で童貞だとどうなる?
こんにちは水鳥いつきです。
アイドルソングを聴いていた時に思いついたので書いてみました。笑いあり涙ありドキドキありで楽しいお話になりましたので読んで頂けると嬉しいです。
ここはお葬式。思ったよりたくさんの人が集まっていた。
ワシの名前は山口源三、70歳。――童貞だ。
元公務員で陰キャ。女の子と話すのが苦手なせいか、それとも都市伝説や超常現象が好きなせいかはわからないが、この歳まで童貞だ。
今日はゲームで知り合った仲間たちと来ている。
なぜなら、ワシたちゲーム仲間の『ノリ』こと酒井紀之のお葬式だからだ。
独身のくせに葬儀が立派なのは、ヤツが金持ちの息子で会社役員だったから。恵まれた環境でゲームばっかりやっていた陰キャのせいか、結局ヤツも童貞のまま死んだ。
ワシたちは全員、70歳で童貞という共通のスペックを持っている。
女にモテない代わりに、比較的ゲームやパソコンには年のわりに詳しくて、俺たち6人でチームを作って遊んでいた。ちなみにワシのパーソナルカラーは緑担当だ。
「本当にノリが死んじゃったんだね」
ワシたちは式場の隅っこのテーブルに座っていた。
呟いたのは、ピンク担当の『ヨーくん』こと大沢洋介。
この歳になっても何故かちょっと女の子みたいな雰囲気をかもしだしている。おじいちゃんというよりおばあちゃんだ。元カフェ経営で料理が上手、優しくて女子力が高いのだが、高すぎてモテずこの歳まで童貞だ。
すると、腕章をつけた黒服の男(みんなどこを見ても黒服だけど)が、ワシたちのテーブルにやってきた。
「あの、失礼ですが酒井様のゲーム仲間の方たちでよろしいでしょうか?」
「あ、はい、そうですが」
「ちょっとよろしいでしょうか」
案内されたのは、ひっそりとした会議室だった。
男はいかにも中二病的なデザインの『黒い箱』と、一通の手紙をワシたちに手渡した。
「酒井様の遺言で、こちらを渡してほしいと。皆さんそろった場所で手紙を読んで欲しいとのことでした。では、私はこれで失礼します」
男は一礼して会議室をあとにした。
「ノリちゃん、最期までゲームみたいなことさせるやねんな」
そう言って笑うのは、黄色担当の『シーちゃん』こと星野忍。
関西弁の元アパレル。服のセンスは抜群に良いのだが、いくつになっても子供っぽい。その精神年齢の低さのせいで童貞なのだろう。
「資産の分配に関する書類だろう」
冷静に分析するのは、青担当の『リョウ』こと川上涼二。
元会計士。哲学好きで分析が得意だが、あまりにも理屈っぽすぎて女の子に煙たがられ、やっぱり童貞だ。
「よし、ワシが開ける!」
そう声を張ったのは、赤担当のリーダー『キヨ』こと佐藤清。
元会社員の営業職。スポーツ好きの元ラガーマンで、筋トレでムキムキになりすぎて女の子に引かれ、やっぱり童貞。だが、その真っ直ぐな性格はいつもみんなを引っ張っていた。
ワシたちはその箱から漂う、ネトゲの「ラスボス戦」のような不穏な嫌な予感を感じ取っていた。
「まずは手紙からだな」
キヨが手紙を開ける。
そこには『エンジェル芸能事務所』という名前と住所、そしてプロデューサー『佐々木若菜』という名前が書かれていた。
その下に、こう書き添えてある。
――誰もいない所で5人揃ったら、この箱を開けて。
「なんだかわからないな。よし、箱を開けるぞ!」
キヨが意を決して箱のフタを開けた、その瞬間。
「で〜び〜る!」
けたたましい叫び声と共に、箱から煙が噴き出し、誰が見ても「魔女」としか言いようのない姿が現れた。
魔女がホイと軽く手を振ると、なんとその横に、さっきまで祭壇の遺影の中にいたはずのノリが姿を現したのだ。
「ノリ!?」
全員がパイプ椅子をひっくり返さんばかりに声を上げた。
「みんな、ワシのお葬式に来てくれてありがとうな。まず説明しなくちゃならんな。世間では30歳で童貞だと魔法使いになれると言うが、アレは嘘なんじゃ」
死んだはずのノリは、広い会議室を見渡しながら、ニヤリと不敵に笑った。
「……実は、70歳で童貞だと、魔法が一つだけ使えるのじゃ!」




