19話 唄に思いを乗せて
佐々木さんお願いがあります!
事務所で俺は佐々木さんに何枚かの紙を渡した。
「これは…」
「曲を書いたんです、2曲。シーちゃんへの思いの曲に僕達の決意の曲です」
タイトルは『幸せの黄色いハンカチーフ』と『星を向いて歩こう』。
「いいわ、アレンジはこっちでやるから次のシングルはこのカップリングで行きましょう」
「私も本当は4人で続けてほしいの。だから、絶対負けないでね」
俺達は定期公演を死に物狂い頑張った。新曲も好調でこの曲を聴いたシーちゃん推しのファンが俺達のライブを観に戻って来てくれるようにもなった、お客さんもだんだんまた増えていった。
そしてついにストームとの共演の日になった。
場所は代々木体育競技場8000人のキャパだ。俺達が今までやってきた最も大きい箱の倍の収容人数だ。
今回は4グループが出演しラスト☆スターズは3番目。大トリは勿論ストームだ。
来ているお客さんはほとんどストームのファンだ。なにしろ8000人キャパはストームにしてはかなり小さい箱なので、たくさんのファンが申し込みをしてしまいチケットを当てるのが大変になってしまった。
アイドルフェスが始まった。
ストームはまだ来ない。リハーサル無しでいきなり本番をするそうだ、売れっ子アイドルは大変だ。最初のグループが最後の曲を歌い始めた頃ストームは現れた。
日本一の売れっ子のオーラをまといながらストームは礼儀正しく楽屋にはいって来た。
彼らは俺達を見つけると挨拶にやって来た。
「遅れてすみません。よろしくお願いします」
俺達はオーラに圧倒されそうになりながら挨拶を返した。だが、よく見るとリーダーでボーカル担当のオノくんの様子がおかしい。なんか苦しそうだ。
ストームの他のメンバーも気づき熱を測ってみると39度もあった。 ストームのマネージャーも焦った様子でなにやらメンバーと話し込んでいた。そして佐々木さんと俺達のほうへ歩いてきた。
「オノくんが調子が悪いので順番を変えて頂いてもよろしいですか?」
「せっかくなので、ライブはやりたいとメンバーが言っているのですが、つらそうなので早くやらせてあげたい」
アイドルフェスは普通のライブより曲数もすくないとはいえ6曲は歌わなければならない。大丈夫かしら。
佐々木さんはOKを出した。
まばらな会場の中、2番目のグループが終わり、会場に順番が入れ替わるとアナウンスが流れた。外で油断していたストームのファンが急いで戻ってくる。急な変更にファンも大混乱をしていた。
ストームのライブが始まった。
「ねえ、オノさん、39度の熱なんだよね」 ヨーくんが呟く。
「凄いね。さすが日本一のグループだ」
「素晴らしいよ」
ストームのライブパフォーマンスは圧巻だった。 代々木体育競技場が熱狂の渦で埋まる。
悲鳴とも歓声とも思えない声援が会場を包む。
だが、3曲目の途中でオノくんの声がまったく出なくなった。そしてそのまま座り込んでしまった。 曲は中断しメンバーの愛馬くんに肩を担がれて楽屋に戻ってきた。 続行は不可能だった。
そしてストームのライブ中止のアナウンスが流れるとファンは落胆の声を上げた。
多くのファンは帰り支度を初めた。
すると、ストームのサンノくんと桜くんがマイクを持って現れた。
「メンバーが体調不良でライブが出来なくなってしまいした。ごめんなさい、でももし良かったらライブ最後まで観ていってください。ラスト☆スターズさんに順番まで変えてもらったんです」
アイドルのお願いに推しは弱いもので帰る人はほとんどいなかった。
俺達の番だ。ライブが始まる前にキヨがマイクをもってステージに上がって行った。
「ストームがライブ出来なくなっちゃって本当に残念です。僕達はストームから渡されたバトンをつなぎたいです。僕たちは、いつ死んでもいいと思ってここに立っています。今日、この瞬間のために命を削っています。……僕たちにあなたの人生をください!」
そういうと、オープニング曲が始まった。
シーちゃんのいない4人でのパフォーマンス。けれど、俺達はその空白を埋めるのではなく、「シーちゃんの分まで今を生きる」という凄まじい気合で踊り、歌った。
最後の曲になった。
「この曲は、僕たちの大切な仲間へ贈ります」
「幸せの黄色いハンカチーフ」
歌いながらキヨが泣く。
ヨーくんも泣く。
リョウも声を震わせる。
ゲンちゃんも途中で歌えなくなる。
でも会場から自然に手拍子が始まった。ストームのファンもラスト☆スターズのファンも全員で。
ステージが終わる頃、会場はストームのファンだったことを忘れたかのような、地鳴りのような拍手と歓声に包まれていた。
アンコールの声が止まない中、佐々木プロデューサーが涙を拭いながらステージ袖に現れた。
「あんたたち……最高だったわ」
ステージ袖でストームの待順くんがつぶやく。
「ラスト☆スターズかやられたね」
「次のライブは俺達もあのぐらい心を燃やそう」




