11話 感動の1周年ライブ!
1周年ライブまであと2週間と迫った。
会場の豊洲ターミナルの収容人数は2000人で、現在1500枚が売れていた。佐々木プロデューサーは必死に広告を打っていた。
最後の定期コンサートが終わり、握手会の会場。俺たちのフォロワーはついに1万人を超えた。武道館でライブをやるには到底届かない数だが、1年目にしては上出来だと思う。
これまで俺たちは、死に物狂いで頑張ってきた。
キヨとリョウが出演したBLドラマ『男7人秋物語』は、深夜放送にしては良い視聴率を上げていた。早くも続編の『男7人夏物語』の制作が決定した。
シーちゃんの2.5次元舞台『デーモン討伐株式会社』の雷一閃役はハマり役だった。子供だけでなく、大人の女性にも大人気だった。
ヨーくんは出演した子供向け教育番組『おにいさんといっしょ』で、子供番組ながら、なぜかお父さんと“大きいお友達”と呼ばれる大人たちに熱狂的に支持された。
SNSでは、
「女はもう日本からいらない」
「ヨーくんの笑顔に癒やされます」
「幼児じゃないけど番組に出演したいです」
と、ヨーくんにハマった大人が続出している。
俺はテレビの水曜スペシャル『山口ヒロシ探検隊』の隊員の1人として、宇宙人のミイラを発見したときの号泣シーンが好評だった。歴史的発見に、なぜか周りが笑っていたのが不思議だった。次の日のニュースに一切取り上げられなかったのも謎だが……。
炎上も経験した。80歳のイタコのお婆さんにクレオパトラの霊が取り憑いた番組で、クレオパトラは俺を死んだアントニウスと勘違いして抱きついてきた。俺も感動して、つい泣きながら「クレオパトラ~!」と叫んでハグをしたのだが、リア恋勢の俺のファンが激怒してしまった。
「あの女、なにゲンちゃんに抱きついてんだ!」
と、大炎上になった。
「もう知らない女と浮気なんかしちゃ駄目よ!」
「ごめんなさい……」と、俺はマコに謝った。マコもリア恋勢だ。
「1周年、頑張ってね!」
「うん、頑張る」
◇
1周年、その日が来た――。
チケットは当日、SOLD OUTになっていた。マコを始め、それぞれのファンがチケットが余っているのを知って、SNSなどで必死に宣伝してくれたお陰だった。
「絶対、1周年成功させるんだから!」
マコは毎日ショート動画を作ったり、SNSで発信したりしていた。
そうとは知らない俺たちは、満員の観客を見てただただ緊張していた。思えばノリのお葬式から、あっという間に時が経った気がする。
キヨが俺たちを呼ぶ。体育会系らしく、円陣を組もうと言った。
「みんな、今まで頑張った! ノリのため、ファンの皆のためにも、今日は頑張ろう!」
なんかこのノリはやってみたかったので嬉しい。俺たちに気合が入る。さぁ行こう!
会場が暗くなる。
1曲目、デビュー曲の『僕がおじさんになっても』のイントロが、オープニング用に引き伸ばされて流れる。まばゆい光のスポットライトに照らされて、キヨが最初に舞台に上がり、キレキレのダンスを踊る。
続いてリョウが登場、無駄のない正確なダンスでキヨに絡む。2人がハイタッチを決める。
中央からシーちゃんが現れると、煽りを入れながら元気一杯に飛び跳ねる。そして袖から現れたヨーくんが、輝く笑顔でステージを走り回る。
みんな凄い!
俺の番だ。ステージに上がり、星形のフォーメーションを組む。
会場を埋め尽くす5色のペンライトが激しく揺れる。
俺はありったけの声で叫んだ。
「こんばんは! 僕たちがラスト☆スターズです!」
◇
ライブは終わった……。最後の挨拶のために、全員がステージ中央に並ぶ。
「最後に、メンバーから皆様に一言ずつ伝えさせて頂きます」
とキヨが言い、一歩前に出る。客席が赤一色に染まる。
「赤担当、佐藤清です。今日はお集まりいただき有難うございました。5年以内に武道館に立つという目的を掲げながら、1年が経ちました。完全素人だった俺たちに、これだけの人が集まっていただいて、本当にありがとうございます」
キヨの目が潤んでいる。
「俺たち、今日まで頑張りました。ファンのみんなも、毎日頑張って生きてるよね。頑張ったから……明日が迎えられる気がします、そしていつか夢が叶うと信じて。これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。ありがとうございました!」
会場の赤いペンライトが大きく揺れる。その中で、部活帰りでラケットを足元に置いたアヤカも、ペンライトを大きく揺らしていた。
リョウが一歩前に出る。会場の光が赤から青に変わる。
「青色担当、川上涼二です。今日はありがとうございました」
「………」
声が出ない。あの冷静なリョウが泣いている。
「こうして皆さんと過ごすこの一瞬が、僕にとって人生の輝きです。何年生きていても、この瞬間には敵わない」
「理屈を超えた心の燃焼が、生きている意味を僕にくれました。みんな、ありがとうございます」
青いペンライトの光の中で、あのクールだったアキも泣いていた。今日だけは受験勉強をやめて駆けつけたのだ。
シーちゃんが前に出る。黄色い光の海が広がる。
シーちゃんはすでに泣き過ぎてボロボロになっている。
「黄色担当、星野忍。皆、ありがと」
「ワイ、こんな経験出来て最高や。もし明日が無くなっても、ワシは満足や。本当にありがとう。でもまだまだや、もっとみんなを笑顔にしたいし、みんなと楽しくおしゃべりしたい。これからも頑張るんで、ついて来てください」
「そして、最後に一言」
「みんなの事、好きになってもエエかーー!?」
笑顔のマキを始め、黄色いペンライトの中から「いいよーー!」と大きな声が響き渡った。
ヨーくんが一歩前に出る。ヨーくんも既に頬に涙が伝わっていた。客席がピンクに染まる。
「ピンク担当、大沢陽介です」
「不安だらけの1年でした。みんなに打ち明けたい事があります。実は僕、歌も踊りもやったことなかったんだけど、本当は大好きなんです。一度でいいから、アイドルになってみたいと思っていました。僕には無理だと思っていたけど、仲間やファンの皆さんの支えで、アイドルをやらせてもらいました。本当に自分がやりたい事が出来て最高です。一歩踏み出す勇気を与えてくれて、ありがとうございました」
女子の甲高い歓声に、野太い男たちの声が混じる。その歓声とピンクの光の一部に、ゴスロリファッションのとびきり可愛い格好をしたモモカがペンライトを振っていた。
そして、俺の番だ。もらい泣きなのか何なのかわからないが、俺もボロ泣きしていた。
一歩前に踏み出すと、目の前が鮮やかな緑の光で埋め尽くされる。
「緑担当、山口源三です」
袖に忍ばせたカンペには、奇跡とは何か、モーゼやピラミッドの謎、ビッグバンと自分たちの関連性についてびっしり書いてあった。まずブッダの奇跡から話そうと思ったその時、緑のペンライトを持つマコを客席に見つけた。
彼女が、最初の俺たちのファンだった。
その後もいつも動画にコメントを入れてくれたり、切り抜き動画を作って発信してくれたりしたのだった。握手会にもほとんど顔を出してくれた。
俺は、カンペを見るのをやめた。
「ありがとう……」
「僕はいままで、女の子と付き合ったことがなかったです。これからも彼女が出来るとは思えません」
「でも今なら、僕は魔法の言葉……好きな人に『好き』って、心から言えそうです」
「ありがとう、大好きです!」
俺が深く頭を下げると、メンバーも続いて頭を下げた。
2000人の大歓声が会場に響き渡る。
俺たちは声を揃えて、最後に全力で叫んだ。
「ありがとうございました! 僕たちが、ラスト☆スターズです!!」
人生の最後に、俺たちはまさに最高の青春をしていた。




