第22話 謁見。獣王『レクスティア』
新章『魔都編』突入です。
魔都「トレイゾン」
この世界に存在する数少ない「都市」である。
戦争は無くとも種族間の小競り合いは絶えず、集落が大きくならないという特徴を持つこの世界にある大都市。
魔族領の中で最大規模であると同時に人族領や獣族領との交易は勿論ありとあらゆる物が行き交う場所。
同時に闇も深く、奴隷制度や無法者も数多く滞在している正に無法地帯である。
その中で唯一絶対の掟『実力主義』
基本的に魔族は好戦的な種族が多い。だが進んで戦争を起こしたり見境なしに他人を襲うという事はしない。
では魔族達はどのようにその欲求を満たしているのか。その答えがトライゾンで頻繁に開催されている武闘大会である。
皆こぞって参加し闘争欲を満たしているのであった。
そんな魔都の一角にある寂れた宿屋。
ユウヤ達はとある一室の前にいた。
「こちらにわが主人がいらっしゃる。粗相をしたら即刻その首切り落とすぞ。」
「初対面で失礼な事なんかしねぇよ。つーかなんでオレにだけ言うんだよ。」
「フンッ。貴様が信用ならんからに他ならん。」
「よく言うよ。『助けて〜』とか言いながら泣きながらすがりついてきたくせに。偉そうにしてるお前の方が信用できないよ」
『フィンッ‼︎』
ちょっと言い返した瞬間、首元に短剣が突きつけられる。オイちょっと刺さったぞ‼︎
「イテェな‼︎何すんだよ‼︎」
「その態度を主人の前でするなと言っているのだ‼︎」
その時中から声をかけられる。
「ロイド。何を騒いでいるのです。お入りなさい。」
凛とした品のある喋り方だ。
高貴な方なのだろう。何故か緊張してきた。
「チッ…主人がお呼びだ。いいかくれぐれも…『わかったよ。んじゃおじゃましますよー」
「きっ、貴様っ‼︎」
古びた扉を開けた先に…
絵画から抜け出たかのような美しい白狐が座っていた。
顔こそキツネだが背筋を伸ばし椅子に腰掛ける姿勢や膝下で上品に揃えた指先、頭のてっぺんから尻尾の先まで真っ白な毛並みは完璧に洗練された美貌を備えていた。
「遅くなりまして大変申し訳ありません。ただ今戻りました。」
片膝をつき深々とロイドが頭を下げる。普段からこれぐらい大人しいとまだ可愛げがあるのだが…
「無事に戻られて何よりです。お怪我はありませんか?」
優しく微笑みながら狐が問いかける。ロイドの無事を心から安堵している顔だ。顔良しスタイル良し性格良し。麗しのセフィと並び三冠王達成だ。
「勿体ないお言葉にございます。」
「…してロイドよ。こちらの方々は?」
帰還の挨拶も終わり次の話題は見知らぬオレらに移った。
「は、はい。この者達はかの魔族の襲撃にあった際に助太刀してくれた者達にございます。左の女子がシヴァ、その奥がユウヤと申す者でございます。」
紹介したくないオーラ全開でロイドが答える。
お前の命の恩人なんだ。しっかりと紹介しやがれ。
「シヴァじゃ。会えて光栄じゃぞ獣王。」
ロリババァが軽く会釈をしながら答える。
王族って聞いてんのに態度は変わらないのね。
「レクスティアと申します。若輩ながら獣王を冠しております。この度は家臣の窮地をお救いいただきありがとうございます。主人として御礼申し上げます。」
レクスティアと名乗った狐が椅子に腰かけたまま深々と頭を下げる。しかし一挙手一投足優雅だな。
「ユウヤっす。宜しくお願いします。」
『ブンブンブンブン‼︎』
「「「…???」」」
ロイドともシヴァともまだ会って日が浅い。
だがオレ達3人はこの時初めて完璧に同じ事を考えていた。即ち…
(なんだ今の???)
である。
オレが挨拶した途端、凄い勢いで尻尾を振っている。
床が綺麗になったな。綺麗な尻尾の先端が埃で汚れているぞ。
「レ、レクスティア様…?」
ハッとなり慌てて取り繕うレクスティア。さっきまでの優雅さを慌てて顔に貼り付けるがもう遅い。
「ユ、ユウヤさんですね。この度はありがとうございました。」
お礼はされたがもうこの違和感は拭えない。
ロイドもどうしたものかとトラなのに狼狽えている。
恐らくこんな姿見た事ないんだろうな。
「ロイドよ。私はこの者に用があります。しばし席を外しなさい。シヴァさんも申し訳ありませんが外していただけますか?」
唐突に出てけと言い出す白狐。慌てるロイド。
「お、お待ちください。今しがた会ったばかりの者と二人にさせる訳には…『ロイド?二度は言いませんよ?』」
途端に威圧感を出しロイドを制する。
「か、畏まりました…」
有無を言わさぬ態度に引き下がるしかないロイド。
コイツの困った顔でご飯三杯はいけちゃうね。
「何じゃワシもか…ユウヤよ。話が終わったら声をかけてくれ…(覚悟した方が良いぞ?)」
最後に小声で不吉な事を言いながら部屋を後にするババァ。ニヤニヤしたツラが気に入らない。つーか何オレ食われちゃうの?魔導闘衣展開した方がいい?
「万が一主人に何かしてみろ?細切れにして魔物の餌にしてやるからな」
本気の殺気を放ちながらすれ違いざまに捨て台詞を吐き退室していくロイド。中身は違うが不安を煽る点では共通している。
パタンとドアが閉まりレクスティアと二人になる。
閉ざされたドアを見ながら、さてどうしたものかとレクスティアの方に向き直った瞬間…
「転生者様〜お会いしたかったですぅ」
先ほどまでのレクスティアはどこかに行ってしまったようだ。
代わりに甘えんぼ全開の狐が飛びかかり抱きついてきた。予想外の展開に受け止めきれず床に押し倒される。
「うわっ、どーしたんだよいきなり⁉︎」
スンスンと鼻を鳴らしながら頬擦りしてくる。いい匂いとシルクのような毛並みと女性特有の柔らかさ。
全てが理性に総攻撃を仕掛けてくる。
心の中の理性城は一瞬で陥落した。
「お会いしたかったですぅ。運命の転生者様〜。私この瞬間を心待ちにしておりました〜」
発情期さながらに抱きついてくる。何をしても許してくれそうだ。胸元に感じる片手では収まらない柔らかい二つの物質が陥落した理性城に追い打ちをかける。
バカな‼︎乳神キャスカ様と互角だと…っ⁉︎
(このままではマズイ…初めてがキツネってどうなんだ⁉︎有りか⁉︎…有りかもなぁ)
崩壊した理性には最早抵抗する手段も無く亡国は目前となってしまった。…だがそこに救国の一手を見出す。
「運命の転生者…って何?」
純粋な疑問だった。初対面のエロギツネはオレを転生者と見抜いたようだった。それはシヴァにも言われた「魂が馴染んでない」とかいう中二設定。
それはそーゆーものと納得するとしてレクスティアは、はっきりと『さだめのてんせいしゃ』と言った。
初めて聞く単語である。
転生者は珍しくないというのがこの世界の常識。
だが『運命の転生者』なんて二つ名は聞いたことがない。一体なんなのだろう?
この時、雄矢は初めてシヴァにあった際に言われていた事は覚えていなかった。
「ご存知ないのですね?私が教えて差し上げますわ。運命の転生者とはこの世界が滅亡の危機に瀕した際に異世界より現れる救世主様のことです。我らが獣族のしきたりに『女王は運命の転生者の伴侶となり世界を救う力添えをせよ』と遥か昔から言い伝えられているのです。」
なるほど…さっきの床掃除はその転生者様とやらが目の前に来て興奮抑えきれず尻尾ブンブンしちゃったってわけね。それにしても…
「その運命の転生者がなんでオレだと思うの?悪いけど世界を救えるほどの力はないよオレ。」
ちょっと前まで野良ウサギに負けていた男である。
今でこそドラゴンスレイヤー(自称)となったが世界を救う勇者様などとてもとても…
だが真面目な顔をしてレクスティアは答える。
「運命の転生者とは実力で選ばれるわけではありません。この世界の創造神様がお選びになられるのです。全員とはいきませんが一部の者にはそれが自然と感じ取れるのです。」
出たソーゾーシン。異世界転生物の定番よね。
ある日事故に遭い目覚めると神様と対峙、異世界を救う為にチート能力を授けられ無双するやつ。
事故に遭ったのは一緒、世界を救う的な設定もここに来て一緒になった。後はチートとハーレムだ‼︎
最も必要な要素が揃って欠けている。なんて無能な神なんだ‼︎もし会えたら引っ叩いてやる‼︎
内心激しく憤りを覚えていると再び獣王改め乳王に引き戻される。この感触は反則や…ボク悪いスライムじゃないよ。だと?こっちがスライムに悪さしちゃいそうだわ。
「と、とりあえず離れてよ。その色々とさ…ホラ。」
「何を恥ずかしがっておるのですか。ユウヤ様がお望みとあらば如何なる事でもいたしますわ。」
ハイ来た。キタコレ。いただきました。
言われたいランキング第1位『なんでもしてあげる。』
死ぬまでに生で拝聴出来るとは思わなかった。生きてて良かった……一回死んでるけど。
「ユウヤ様の為とあらば私…アラ?」
マズい…隠し続けていた『魔剣』の存在がレクスティアにバレた。
オレの意思とは無関係に特定の条件下でのみとてつもない硬度となる魔剣『ユウヤジュニア』
この状況下での魔剣解放は同意と見なされてしまう。
和姦アカン。
徐々にはだけながら迫りくる獣王の脅威から逃れるようとするも部屋の角に追い詰められる。
母ちゃん…今度会うときは父ちゃんかもしれません。
諦めかけたその時、
『フィンッ‼︎』
風切り音がしたかと思った瞬間、ドアが百分割ほどに分かれ、白い塊が飛び込んで来た。
真っ白な顔に黒い独特の柄が入ったトラ顔の若き戦士。
その白い顔は親の仇にあったのかと思うほど怒りで真っ赤に染まっていた。
「き、き、貴様ぁ…主人に何をしておるかっ‼︎‼︎」
コイツさては盗み聞きしてたな。
「お前オレが何かしてるように見えるのかよ…どうみても被害者『問答無用‼︎‼︎』」
聞く耳持たずとはこの事か。
一瞬で距離を詰め至近距離で双剣を構える。
はっきり言ってロイドの速度には全くついていけない。
刀を抜くより先にドアの仲間入りだろう。
『ガガガガガガガガガガキンッッッッッ‼︎‼︎』
瞬く間に叩き込まれた連撃。
これが恐らくロイドの全力なのであろう。
構えたまま微動だにしていないようにしか見えないが凄まじい手数を叩き込まれたと思われる音がした。
激しい金属音がしてオレは細切れに…
なっていなかった。
「あ、主人‼︎何故ですかっ‼︎何故このような男に…⁉︎」
その瞬間。部屋の空気が一瞬で下がったのがわかった。
背後から感じる凄まじい殺気に寒気を感じてしまった。
「ロイドよ。妾は席を外せと申したはずじゃが…何故貴様そこにおるのじゃ?」
この部屋の空調を限界まで下げました、重力は倍にしてあります。そう言われたら信じてしまいそうな威圧感を覚える。
先程までの高貴な獣王も甘えまくりの乳王もそこにはいなかった。
ロイドを見ると…完全に怯えていた。
耳は無くなったのかと思うほど垂れ下がり、小動物のようにプルプルと震えていた。アラヤダ可愛い。
『おおおお恐れながらも、申し上げあげます。でででであるってまままもないおとおとおとここにせせせせまるなどあ、あ、あ、あってはなりませせせせぬ」
恐怖のあまり何を言っているのか意味不明である。
キーボードの故障かと思ってしまった。
流石にかわいそうだったので助け舟を出す事にした。
『な、なぁレクスティアさん。今のスキル?ひょっとして助けてくれたの?」
ロイド感謝しろよ。オレだって怖いんだから…
だがオレが話しかけた途端、狐なのに豹変した。
「はいっ‼︎今のが獣王のみ使える奥義です。この技を会得出来るのは獣族で常に一人、体得者が死んだ時に次に会得した者が獣王を名乗ることが許されるのです。この技こそが私が獣王である絶対の証なんです。」
腕に絡みつきながら説明してくれる。後半はスライムのせいで頭に入ってこない。
つーかコイツのキャラが崩壊してから話が間延びしすぎてるな。
「と、とりあえず離れてよ。それからロイドも許してあげて。悪気は無いんだろうから。」
「ユウヤ様がそう仰るのであれば従いますぅ。」
「…ロイドよ。ユウヤ様の寛大なる処置により今回は不問といたす。……次はないぞ。」
空気がお花畑から氷点下まで目まぐるしく変化する。
風邪引くどころか寿命が縮む。
すっかり縮こまってしまったロイドがすごすごと退室していく。こうなるとわかっていても乱入せずにはいられなかったのだろう。生意気だが悪いやつではないんだろう。
意外すぎる展開にすっかり忘れてしまっていたがオレには魔都に来た目的があるんだった。
「ねぇレクスティア。お願いがあるんだけど。」
そうオレには帰らねばならないとこがある。
その為に転送装置を使わなければならないのだ。
「ユウヤ様の為ならばなんなりと。それから私の事はレクスとお呼びください。」
「ありがとう。宜しくなレクス。」
言われた通り呼んだ途端にまた抱きつかれる。
転送装置の事を聞くまでに何度抱きつかれた事か…
しかしすげぇなアレ。キング◯ライムや。
その後何とか情報を引き出し全員で転送装置へと向かう。その間もスライムに誘惑され続けるのであった。
アプローチが積極的なレクスティア。果たしてメインヒロインに昇格できるのか?これからも応援宜しくお願いします




