第20話。魔族『ジェノス』との闘い
魔導闘衣と身体強化を展開、お馴染みのスタイルだ。
相手の魔族は怒りの余りすぐにでも襲いかかってきそうな形相をしている。
「舐めた態度とりやがって…くらえっ‼︎」
両手を前に突き出し炎の球を作り出しスイカほどの火球を高速で打ち出す。
作り出すが早いかこちらに向けて放たれた火球を慌てて回避し距離を取る。回避した紅蓮の球が地面に当たった瞬間…大爆発を起こした。
数メートルに渡り地面が抉れている。
オレの火球とは桁違いの威力である。火球を生み出すスキルに関してはヤツの方が数段上だ。
「上手く避けるじゃねえか…ならこれならどうだ⁉︎」
さっきと同じ大きさの火球を…今度は片手に一つずつ作り上げる。そしてその片方をこちらに向けて放つ。
相手の狙いはわかってる。躱した隙を狙う魂胆だろう。
そうはさせるか。躱しつつランダムに移動を続ける。
これなら簡単には当てられないだろう。
狙いを絞らせないように動き回る。
…だが相手の方が一枚上手だったようだ。
オレの行動を先読みされ背後に回り込まれてしまう。
マズいと思った瞬間…蹴り飛ばされた。
かろうじて防御するも踏み止まらず吹き飛ばされる。
魔導闘衣のお陰でダメージはないが衝撃を吸収する事は出来なかった。
数十メートル飛ばされようやく体制を整える。
そしてその瞬間…火球が目前に迫る。
ダメだ躱せない…‼︎とっさに両腕の魔導闘衣を全開にする。腕に着弾し何とか踏みとどまり火球をほぼ無効化する事に成功した。
その事に安堵し…致命的な隙を見せてしまった。
思えばラルフと修行している時も手加減をしてもらってばかりであった。殺意のこもった攻撃というものを経験した事は前世も含め一度もなかった。
敵の第二波が来るのは当然…戦闘経験の差が露呈した瞬間である。
今度は側面に回り込まれ…わき腹に強烈な一撃が打ち込まれる。鉄の塊をぶつけられたようなその衝撃にあばらが軋み、一瞬息が止まる。
体をくの字に折り曲げられ無防備な状態にさせられる。
そして…視界の端に再び火球が映る。
アレはもらったらマズい…ガードしないと…
頭ではわかっているが間に合わない。
わき腹の衝撃で魔導闘衣もほぼ解除されてしまった。
展開するのにも意識していないと霧散してしまうのか…
初めての経験が多く最早戦闘を継続できる状態ではなかった。確実にトドメをさされてしまう。
次の瞬間…一瞬閃光が走り、ピュンッと鋭い風切り音の後…魔族の首が地面へと落ちる。
獣族の少年の完全なる意識の外からの攻撃。
オレへの攻撃に意識が向き周囲への警戒を怠ったのか全く反応出来ていなかった。
いや、警戒を怠ったのではなく仕留める瞬間の一瞬の隙を突いた完璧な不意打ちだったのだろう。
斬り落とされた首は何が起きたかわからないと言った表情を浮かべたまま地面に転がっていた。
作り出された火球が霧散し、残された身体がゆっくりと傾き崩れ落ちる。
「ようやく隙を見せたか…おいお主。命拾いしたな」
コイツ初めからオレを囮にするつもりだったな‼︎
完全に見下しながら言い放つ…良かろう相手になってやる。
この小僧に世の中の厳しさを教えてやろう。
「コヤツの言う通りじゃ。あのままだと確実に殺されておったのぅ」
ウルセェぞロリババァ。つーかお前何もしてないだろ。
「何はともあれご苦労であった。このまま何もせぬのは
オレ様の沽券に関わる。ここから少し行ったところに魔都がある。褒美に飯でも食わせてやろう」
もはや上から目線を通り越している。
…よかろうならば戦争だ。
泣かしてお尻ペンペンしてやる。
「我らも魔都へ向かうところだったのじゃ。ちょうどよい、同行するとしよう」
何故子供達で勝手に話を進めていくのだろう?
目上を敬う文化はこの世界にはないのか?
いやクレアはいい子だった。妹にしたい女の子No. 1だ。
コイツらがおかしいに違いない。ここは大人の威厳を取り戻すべくガツンと言ってやろう。
「テメェらさっきか『魔都に行けば人族の領地まで一瞬で行ける転送装置がある。それを使えれば仲間と合流するのも容易かろう。』ら……マジ⁉︎」
それを早く言ってくださいよぉ。戦争?何の話?
「そっかそんなのがあんのか‼︎そうかそれを使えば元の場所に…セフィ達に会えるかもしれないのか」
希望が見えてきた。こんな荒地に一人でどうしたものか正直途方に暮れていたが…上手く行けば何とかなるかもしれないな。
「よしじゃあ行こうぜその魔都ってとこに‼︎」
「オレ様も一刻も早く戻り主人に報告しなければならんのでな。貴様らのペースに合わせるつもりはない。ついてこれないなら置いてくからな」
生意気の極みの様な小僧だ。財布にしてやろうか?
「ユウヤよ。我はお主達には追いつけん。おぶってくれ」
「嫌だよ頑張れよ。つーかそこに関してはあのガキと同意見だ。後から頑張って追いついてくれ。じゃあな」
直後にまたしても金縛りにあう。あ、これさっきのヤツだ…再び非常口の人の気持ちを味わう。
「おぶらぬと言うならば仕方ない…ここでお別れじゃな。短い間ではあったが達者でな」
いやふざけんなって。こんなとこで非常口に転職できるわけがない。シヴァの野郎…足元見てやがる。
どうやらオレには交渉の余地は無いのかもしれない。まんまと小娘ババァに乗せられているがここは乗るしか無いのだろう。
「…わかったよ。その魔都ってとこまでな」
「わかればよいのじゃ。…では出発じゃ‼︎」
いそいそとオレの背中によじ登りシヴァが号令をかける。武士を乗せた馬の気分が今ならよくわかる。
オレと同じでさぞ不愉快だったに違いない。
「茶番は済んだか?行くぞ」
「待てよクソガキ。ちょっとは空気読め」
不機嫌そうな顔で振り返る。
「オレ様の名はクソガキではない、ロイドだ」
かくして一行は魔都へと向かう。
…
………
………………
「無様ねジェノス。あれだけ大見得切っておいてそのザマ?」
突如、闇より現れた女が生首に問いかける。
「…うるせえな。油断しただけだ。まさかあそこであのガキがしゃしゃり出てくるとは思わなかったんだよ」
ジェノスと呼ばれた魔族は首を斬り落とされたにも関わらず平然と答える。
「言い訳は結構。貴方の遊びのせいで獲物は逃すわ計画に支障が出るわで散々よ?」
着こなし、佇まい、顔立ちと一見すると完璧な美貌だがどこか冷酷さを漂わせている。
「うるせぇな。次会った時はキッチリ仕事するからよぉ、とりあえず直してくれや」
魔族が頼んだその刹那…女の口が大きく裂け、首と身体を飲み込んだ。
大人1人を悠々と飲み込めるほど巨大化した口は先ほどまでの美貌は微塵も感じさせない悍ましい姿であった。
魔族を一飲みにし再び吐き出すと何事も無かったかのように首と身体が繋がっていた。
「何度経験しても気持ち悪りぃな。食われるなんて経験するもんじゃねぇ」
「あら、そこは素直にお礼を述べるところよ」
「わかってる。助かったよ…次に会ったらアイツらただじゃおかねぇ」
獰猛な笑みを浮かべ魔族が苛立ちを口にする。
比喩ではなく殺意を隠す事なく撒き散らす。
周囲の気温が下がったかと思うほどの殺気だが女は気にも留めない。
「貴方がどこで何をしていようと勝手だけど…目的は忘れないでちょうだいね?」
「わかってんよ。我らの目的は『蛇』。あの野郎をぶっ殺す為だけに。オレらはその為だけに集まってるわけだしな」
「わかっているなら次はしくじらない事ね。今度無様な姿を見せてももう助けてあげないわよ?」
「チッ…うるせぇな。わかってんよ」
捨て台詞を吐きながら再び闇へと消えていった女を見送りながら舌打ちをする。
(言われなくても目的は遂行するさ。それにしても……最高だな『異世界』は)
獰猛な笑みを浮かべながらジェノスも闇へと消えていく。この男もまた転生者であった。




