第17話 始まりの終わり
激しく燃え盛る炎の中からソレは現れた。
漆黒の闇を全身に纏い、白く輝く大きな双眸と身長と変わらぬ程長い髪だけが雪のように白い。
背丈はオレより少し低いぐらい、長く太い二本の尻尾が生えている。
…アレはなんだ?何が起きている?
突如現れたその生物は辺りを見渡しながら何かを探しているようだ。猫背になり獣のように四足歩行でウロウロと探し物に没頭している。
「なんだコイツは!邪魔しやがって‼︎」
突如現れた異形の乱入者に対して盗賊が向かっていく。
刀を振り上げ斬りかかるもその刀を交わし、盗賊の顔面を鷲掴みすると…
そのまま振り回し他の盗賊に投げつけた。
よける暇もなく激突し…遥か彼方まで吹き飛ばされていく。
なんだよあの威力…人を飛び道具に使いやがった…
そしてそれが開始の合図となり…蹂躙が始まった。
手当たり次第に周りの人間を襲い始める。
攻撃を仕掛けた商隊の兵士の鎧を素手で貫き…
背を向けて逃げ惑う盗賊を尻尾で真っ二つにし…
向かってくる兵士達を黒い雷を放ち黒コゲにする。
あまりにも一方的な虐殺であった。
そしてついに…その殺意がオレ達に向けられる。
死体を蹴飛ばし、馬車を吹き飛ばしながら一直線に向かってくる。
この時には先ほどまで対峙していたネズミ達の事は頭から抜け落ち、迫り来る災害を如何に防ぐかに全神経を集中させていた。
不意にオレを拘束していた縄が解ける。
反射的にセフィを見ると…震えていた。
確かにあんな化け物が迫り来るんだ、そりゃ怖いよな。あれだけのスキルを使いこなせたとしてもそれとこれとは話が別だ。怖いものは怖い。
せめて弾除けぐらいにはなってあげたいと思い勇気を出して一歩前へと歩き出した瞬間、
「悠矢さん‼︎クレアさんとキャスカさんを連れて逃げてください‼︎」
「ユウヤ‼︎テメェは嬢ちゃん達連れて早く逃げろ‼︎」
二人から同時に撤退命令が下された。
「は…⁉︎何言ってんだよオレも戦うよ‼︎」
悔しかった。確かに戦力にはならないかもしれないが足手まといだと言われているようで…
悲しかった。確かに短い付き合いではあるが仲間とは見なされていないようで…
だがそうではなかった。ちゃんと理由があったのだ。
「悠矢さんは知らなくて当然だと思いますが…アレはこの世界の伝説の災厄…おとぎ話の世界の生き物のようなものなんです」
「まさか人族の土地で遭遇するとはな…ついてなさすぎて笑いがこみ上げてくるぜ…」
よく見るとラルフも怯えているようだ。
「生きて会えたら…またどっかで会おうぜ‼︎」
縁起でもないことを言い放ち、黒い異形に向けて駆け出す。
「ラルフさん、援護します‼︎」
セフィも羽を広げ飛び上がる。上空から光の雨を降らせる。先ほどとは違う局部集中型だ。本気で倒しにかかっているのだろう。
だがセフィのスキルは大してダメージを当てられず、ラルフの槍も通用していない。相当な実力差があるのだろう…
軽く腕を振るっただけで地面を抉る膂力、その場に黒い残像を残し移動するスピード、突如発生する黒い稲妻、あらゆる面でセフィとラルフを凌駕していた。
先ほどまでのネズミ達との闘いで圧倒的なコンビネーションを見せていた二人を子供扱いしている。
ラルフの高速の連続突きを片手で止めながら尻尾で殴り飛ばし、黒雷でセフィの意識を逸らした瞬間距離を詰め吹き飛ばす。
盗賊達とは違い一撃でやられる事はないようだがそれでも時間の問題だろう、既に相当なダメージを負っている。
「キャスカ、なんなんだよあのバケモンは…実力差ありすぎだろ…」
「あれは遥か古来、この世界に神より遣わされた破壊神と言われている存在だ。『獄雷姫』『終焉の巫女』など様々な呼び名がある。全てが謎に包まれているが一説ではこの世のあらゆる事象を操る存在と言われている」
なんだそれ。チートすぎるだろ…無敵じゃねぇかよ。
「何故いきなりこの場に現れたのかは不明だが…遭遇したらまず生き残る事は不可能だ…」
キャスカもクレアも怯えきっているようだ。
だが…だがそれでも…
「クレア、悪いけどオレに全力でバフかけてくれよ。二人を助けに行かないと」
逃げろと言われて、じゃあそうします、って訳にはいかねぇよな。
「何を言っている!貴様ごときが太刀打ちできる相手ではないのだぞ‼︎」
「そうだよやられちゃうよお兄ちゃん‼︎」
二人が必死に説得してくる。
お姫様キャラ忘れてるぞクレア。
「確かに今アイツらが戦ってんのはオレらを逃す為なんだろうけど…だからってあとヨロシクって訳にはいかないだろ…」
「ダメだよ!だからって…グスッ」
「別にただ殺されに行く訳じゃないんだし…泣くなよクレア。うまいこと隙を見てみんなで逃げてくるからさ」
「すまないが私の反支援魔法はアイツには通用しないだろう…役に立てそうもない」
「気にすんなよキャスカ。クレアも一回だけ全力でバフかけたらすぐにキャスカと一緒に逃げてくれ。三人で直ぐに追いつくからさ」
なんとか二人を納得させ、いよいよオレも参戦する。
ラルフとセフィには逃げろって言われてたから行ったら怒られてしまうかもしれないが…まぁそん時は甘んじて怒られるとしよう。
また縛り上げられちゃうかもしれないけど…二度と会えなくなるぐらいなら吊るし上げられた方がマシだよな。
「クレア、頼む」
身体強化と魔導闘衣を手足にのみ全力で展開する。どうせ相手にならないんだ、一気に距離を詰めて思いっきり殴り飛ばす。そしてその隙に全員で脱出、それしかないだろう。
クレアが泣きながらバフをかけてくれる。心の底からオレの事心配してくれているのだろう…良い子だな。
優しく頭を撫でてあげる。
流石にこんだけやれば吹き飛ばすぐらいは出来るだろう…出来ると信じたい。
ラルフとセフィはまだ何とか食らいついてはいるがかなり追い詰められている、二人とも動きにキレがなくなってきている。
そしてついに、ラルフの槍が折られた。
トドメを刺すべく腕を振り上げたその瞬間、一気に突っ込む。
「え?悠矢さん⁉︎」
セフィの脇を駆け抜け敵へと詰め寄る。
だが流石は伝説の怪物、不意打ちの予定だったがすぐに感づかれる。
ターゲットをオレに変え、反撃すべく待ち構える。
本来ならば太刀打ち出来る相手ではないのだろう。
遠目に見ててわかってはいたが、改めて近くで見るとその異常なまでの禍々しさは逆立ちしたってオレが敵う相手ではなかった。
それでも引く訳にはいかない、持てる力全てを出し切り一撃お見舞いしてやろう。
振り上げた拳を思いっきり叩き込む。
その瞬間、オレにはハッキリとわかった。
普通に反撃されていたらオレの攻撃は当たらなかっただろう、ヤツとの差は天と地ほどある。
だがオレと目があった瞬間、明らかに動揺していた。
殺戮本能しか持ち合わせていないと思われる狂気をはらんだその瞳に一瞬理性が戻った事がわかる。
アレ?なんか驚いたような喜んでるような…
そう思った時には既にオレの拳がヤツの顔面を捉えていた。
関係ねぇ。思いっきり吹き飛ばす…‼︎
そう思い振り抜こうとした瞬間…
辺りが闇に包まれ、一瞬で世界が黒一色に染まる。
オレやラルフ。セフィにクレア、キャスカ…商隊の人達や盗賊達まで巻き込みその闇は広がっていた。
中にいたオレ達は知らなかったがその闇はヤツを中心にドーム状に広がっていた。
そして次の瞬間…
闇が消滅し取り込まれた人々は忽然と姿を消していた…
馬車の残骸と無残な跡を残した死体だけがその場に残された。
第一章がこれにて終了です。次回から新たな冒険が始まります。これからも応援宜しくお願いします‼︎




