第15話。乳神様。水浴び。命を賭ける時
長らく拠点としていた村を今日旅立つ。
感慨深い気もするが…オレ達の冒険はここからだ‼︎
「行っちまうのかい。寂しくなるねぇ…」
宿屋のおばちゃんが話しかけてくる。
すっかり常連になっていた。
「ちょっと大森林まで行ってくる。今までありがとね」
「お世話になりました」
「…え?だ、大森林まで行くのかい⁉︎」
なんか驚いてるな…
とにかく挨拶を済ませいざ出発。
目的の大森林はここから遥か南の地だと言う。
今回は運良く行商の一行に乗せてもらえる事になった。
万が一盗賊や魔物などと戦闘になったら手伝うという条件付きで馬車に乗せてもらう。キャラバンみたいな感じの中々の大所帯だ。
「大森林に行くまでに比較的大きな街が3つほどあります。この行商の方々も一番近い街まで向かうようなので基本的にそこを中間目的地と考えて向かいましょう。」
セフィの提案である。本日も異論はない。
「金策も同時に行ってくぞ。多少進路を逸れてでも依頼は受けてかねぇとな。」
ラルフの提案。ごもっともだがお前はまず酒を飲むな。
「私達は戦闘面では正直お役に立てません。皆様の意向に従います。」
「エルフの方々は生まれつき風系のスキルに秀でてると聞いた事がありますが…お二人も得意なんですか?」
風系か…オレの魔導闘衣と相性いいかもな。
「私とキャスカでは系統は異なりますが概ね仰る通りです。私は支援系、キャスカは反支援系スキルをそれぞれ得意とします。」
おぉ、バフとデバフか‼︎
「なぁクレア。ちょっとオレにバフかけてくれよ」
「ばふ…?支援スキルの事ね。いくよお兄ちゃん」
もはや自然とお兄ちゃん呼び…最高かよっ‼︎
クレアと目が合う。するとすぐに変化を感じた。
「敏捷性と筋力を上げたよ。感覚でわかる?」
「スゲェなコレ。他人に魔導闘衣を纏わせる感じか‼︎」
バフやばくね⁉︎クレアがいれば魔導闘衣の練習いらないじゃん。
と、思ったが世の中そんなに甘くない。
「いや恐らく条件付きだ。見た感じ…弱点は2つ。時間と範囲だな。」
ラルフが指摘をする。どうやら正解のようだ。
「ラルフさんの仰る通りです。ただ支援するだけであればある程度可能なのですが激しい動きをされるとそれに比例して魔力を消費してしまいます。また目視出来る範囲であったり至近距離であればこれも長時間行けるのですが見失ったりするとかなり効果は落ちてしまいます。」
なるほど延々使える訳ではないのか。
などと考えていると途端に身体が重くなる。全身に重りをつけた状態で魔力切れを起こしたようだ…
何事かと戸惑っていると犯人を見つける。パイパイだ。
「姫様に色目を使うとは何事だ。これが反支援だ。そこで這いつくばっているがいい」
ドSだ…ドS痴女がいるよ…
だが確かにこれは強烈だ。戦闘なんかとてもじゃないが無理だろう。更に馬車から突き落とそうとしてくる。
今落ちたら死んぢゃうっ‼︎
それを見てラルフがニヤリと笑う。バカモノ主人を助けんか‼︎
「なるほど…キャスカ、そのまま反支援かけ続けてくれ。ユウヤ、その状態でも魔導闘衣を常時展開できるようになれ。馬車の中でできる修行なんて限られてくるからな。」
え…?これ修行?新手の嫌がらせじゃなくて⁉︎
ニヤリと悪い笑みを浮かべ頷くキャスカ。
嘘だろ。乳神様が悪乳神様になってしまわれた…
やがて一行を乗せた商隊は大きな湖へと到着した。
その間、座禅を組みひたすらデバフをかけられながら魔導闘衣を展開し続けた。オラァ耐えきったぁ‼︎
「お、どうやら今日はここまでのようだな。野営の準備を始めてるな」
何とか乗り切った…キャスカがデバフを切ると同時に崩れ落ちる。
「お疲れ様です悠矢さん」
「大丈夫お兄ちゃん?」
女神と天使の癒しのコラボ。素晴らしすぎる。
「良く私の反支援に耐えながら魔導闘衣を維持したな。これならもう少し強めにかけても問題なさそうだな。」
え…デバフって強弱つけられんの?あれ以上は耐えられやん…
早くも魔王とエンカウントしてしまったようだ…
実はダークエルフなのではと思わせる笑顔を浮かべるキャスカ。一体何故ここまで嫌われているのだろう…
悠矢はそれがお兄ちゃん呼びというクレアからの信頼を得ている事に対する妬み嫉みである事など露知らず魔力切れをおこし力尽きた。
そして夜…
皆が寝静まり、闇と蒼月の光と風の音だけが支配する世界に於いて…悠矢は一人目を覚ます。
彼には確信があった。
それ自体はただの勘だが悠矢は微塵も疑わない。
間違いなく『ソレ』はあると確信している。
この地球よりも命が軽い世界において…
敗北は死を意味する事を理解しながらも…
彼は行かねばならなかった。
全てを捨てても挑まねばならない闘いが彼を戦場へと誘う。
キャンプから離れた湖畔の一角にちょうど死角になる場所がある。『ソレ』の気配は確実にそこから感じる。
初獲得スキル『隠密』
素人とは思えない完璧な気配遮断であった。
気配を殺し完璧な『無』となり獲物との距離を詰める。
世界と一体となったハンターが獲物に近づく。
今の悠矢に狩れない獲物など存在しないに等しい。
そしてターゲットを視界に捉える。
この世界に来て初めて目にした『芸術』
その完璧な美しさは色褪せる事なくあの日と変わらぬまま悠矢の前に姿を現わす。
だがあの時とは決定的に違う事がある。
悠矢の知る『芸術』。
それとは違う有無を言わさぬ圧倒的な破壊力を持つもう一つの芸術。
いまだかつてない強敵との邂逅に悠矢は動揺を隠しきれないでいた。
あれほどの破壊力…最早災害レベルである。
圧倒的な存在感を放ちながらも決して驕る事なく常に高みを目指し上を向き続ける…高貴な意思を秘めた戦女神の様であった。
時が止まればいいのに…心の底から悠矢は願う。
だがいつの時も至福とは永遠ではない。
唐突に声をかけられる。
「お兄ちゃん?何やってるのこんな所で」
バカなっ‼︎背後を取られただとっ⁉︎
そういやつい夢中になり、周囲への警戒を全くしていなかった。
その為、クレアの接近にも全く気づかないでいた。
そしてそれが…悠矢の地獄の始まりであった。
「悠矢さん…また懲りずに覗きに来たんですね…」
ヤベェガチギレしてるよこれ…
だがセフィは優しい。なんだかんだ怒られて終わりになるはず。そう、セフィだけなら…
「ユウヤ…貴様には地獄すらなまぬるい」
振り向くとそこにキャスカが仁王立ちしている。
一糸纏わぬ姿で…あのぅ、色々見えてますけど…
つーかそれ知ってんの?読んだことあるの⁉︎
出来の悪い兄貴に対して言い放った伝承者みたいな事をキャスカが言い放つ。多分オレもう死んでるんだな…
そしてその瞬間デバフを叩き込まれる。
その瞬間崩れ落ちる。
あ、これ本気のやつだ…
昼間とは段違いの威力のデバフをかけられ立ち上がる力も出せない。全身に麻酔をかけられたような感覚。力も入らずスキルも発動できない。
地面に這いつくばるオレの体に光の紐が巻きついてくる。しかもなんかピリピリする。
「スキルの応用です。光に干渉し私の魔力と混ぜる事で具現化させて縄を作ったんです。」
なんでこんなに優しく教えてくれるんだろう?
「下劣な覗き魔には…絞首刑がお似合いです」
天使の笑顔で死刑宣告。むしろ笑顔が怖い。
翌朝…
キャンプを出発し目的の街まで向かう商隊の一行。
その馬車の群れの一つでセフィ達は地図を見ながら今後の方針を相談している。
「恐らくこのまま進めば夕方には街に着くと思います。そこでまた商隊の方々に乗せてもらえるといいんですけどね。」
「なぁ」
「そこそこデカい街だからまた転生者探しするんだろ?」
「そうですね。有力な情報が得られるといいんですが…」
「ねえってば!」
「まぁ気長に探すしかないな。転生なんてスキル聞いたこともないが来たからには戻れるのが通りだろ。」
「なぁ‼︎おいってば‼︎」
「私もお手伝いいたします。頑張って聞き込みしましょう」
「お〜い…助けてくれよぉ…」
「私も微力ながら力になろう。セフィが元の世界に戻れるよう全力を尽くすよ。…アイツはどうでもいいがな」
セフィの作った縄でグルグル巻きにされながら絶賛引き摺られ中…魔導闘衣使えなかったら今頃カツオ節だ。
「ホント反省してますから‼︎マジ勘弁して下さい‼︎」
心の底からお詫びをするも届かない。
クレアだけはオロオロしているがやはり女性サイドは強い。あのラルフが何も言えないでいる。
「ユウヤ、悪いけどオレには力になってやれねえや。そこで反省して許してくれるのを待つしかないな。」
チキショウ飼い主を裏切るたぁなんて犬だ‼︎
次こそは絶対見つからずに覗いてやる‼︎
そのままひきづられる事小一時間…もうすぐ街に着く頃…事件は起きた。
「襲撃だぁー‼︎盗賊が出たぞー‼︎」
見張りが叫ぶ。一瞬にして辺りに緊張感が立ち込める。
すかさず皆飛び出していく。
え、オレの縄ほどいてよセフィ。
既に先頭では戦闘が始まっていた。
…シャレじゃないよ事実だよ。
そして俺たちのいる馬車にも敵が近づいてくる。
デブとチビと普通のネズミ人間。獣族だ。
「同族が盗賊崩れたぁ悲しいねぇ。」
そう言いながらも凶暴な笑顔を浮かべる。
暴れられる事に対してなのか…その姿に戦慄を覚える。
「おいっ、兄者‼︎見ろよ女がいるぜ‼︎」
「捕まえて奴隷にするか…金目の物は全て奪うぞ。」
「オ、オンナ…オンナホシイ」
かくしてネズミ三兄弟とのバトルが始まった。
次回は真面目な戦闘…になるはず。応援宜しくお願いします




