1-9. 「護聖壮途②」
第九章 「護聖壮途②」
その日の自由都市は陽の光の代わりに大粒の雨が降り注いでおり、昼間にも関わらず仄暗い様は極夜を思わせた。普段は人通りが絶えない目抜き通りも、人影はまばらだ。露店のほとんどは休業しており、街全体が喪に服しているかのような雰囲気を感じさせる。空が泣く曇天の下、ノイシュは目を覚ました。
「…ここはっ!?痛っ…」
勢いよく起き上がったものの、左肩から右脇腹にかけて大きく斬られた傷跡が痛みを思い起こさせる。驚異的な回復力を誇る護聖の身体を以て尚、バアルに斬られた傷は完治には至っていなかった。
傷口に手を当てながらノイシュが周囲を見渡す。石造りの建物の一角に、殺風景な部屋にベッドが4つほど並べられている、見覚えのない部屋だった。ノイシュが寝かせられていたベッドの周囲には、看病用の器具が散見されるが、その他のベッドの周囲は簡素なもので、病院・診療所の類ではないのは明らかだった。
(…生きて…いるのか…俺は…)
気を失う直前の記憶が少しずつ蘇る。少なくとも常若の國や喜びの島でないようだが、どのようにしてあの絶体絶命の状況から生還したのかはわからなかった。
ノイシュが状況を把握するため、激痛を堪えベッドから降りようとした時、部屋の入り口から見覚えの無い少女が水瓶を抱えて入ってきた。
「あーー、起きたー。」
年のころは7、8歳と言ったところだろうか。小柄な体格に不釣り合いな長い黒髪を両サイドで縛り、また年齢を差し引いても随分と間延びした喋り方をするのが特徴的な、肌の白い少女だった。
「ディア姉ー、ごせー起きたよー。」
「…ディア姉?」
何となく聞き覚えのある名を思い出そうとしていると、遠くからバタバタと走ってくる足音が聞こえた。
「ノイシュ!!!良かった、目が覚めたんだね!!」
少し息を切らせた、赤髪の女性が部屋に飛び込んできた。その勢いは先程の少女と危うく衝突しかけ、少女は水瓶を落としそうになる。慌ててそれを抑えながら、少女は頬を膨らませてディアドラを睨んだ。
「こらー、だんちょー。びょうしつでははしらないって言ってるでしょー。」
むくれる少女の頭に手をやり、ディアドラがなだめる。
「ごめんごめん、イゾルデ。ノイシュが心配だったからね、慌てちゃった。看病ありがとね。」
「…いろじかけがきいたのか…?」
イゾルデと呼ばれた少女は独り言を呟き、水瓶を抱えたまま踵を返して部屋を出た。
「ディア…ドラ……?どうしてここに?」
一連のやり取りを見ていたノイシュだが、今一つ状況を把握できないままでいた。
「あー…ごめんノイシュ、突然混乱するよね。かなり色々あったから、こっちも慌ててたんだ。とりあえず、貴方は私たち「赤枝の戦士団」が保護している現状よ。」
「赤枝の戦士団が…?俺は…いや、バアルは?スカアハ姉は?アニラは?知ってるなら教えてくれ…!!」
ノイシュは顔に焦りを浮かべながらディアドラに詰め寄らんばかりであった。ディアドラはノイシュのベッドの側に近づき、壁にもたれながら顔を伏せた。
「うん…もちろん話すよ。まず、ザラットラの女の子、アニラは無事よ。赤枝の戦士団の護衛をつけて、国の関所まで送り届けたわ。ただ…。」
「…っ!」
ディアドラの表情からノイシュは何かを感じたが、未だ混乱する頭ではそれがハッキリと何なのかはわからずにいた。
「……どこまで覚えてる?」
ディアドラの問い掛けに、ノイシュは頭に手をやり記憶の糸を手繰っていく。
「……自由都市でならず者が市民を集団誘拐したんだ。それを追いかけて、奴らのアジトの一つに、連れのスカアハ姉と攻め込んだ。アッハーズと言う首魁を倒して人質を解放したが…バアルが人質に扮していて不意を突かれて斬られた…。そこで気を失ったんだ。てっきり次に目を覚ますのはあの世だと思っていたが…」
手繰られたノイシュの記憶は正確だった。正確だったからこそ、あの絶望的な状況から現在までの過程が想像できなかったのである。
「…その騒動があったのは今から3日前だよ。」
「3日も?」
「ええ。その日、私たち赤枝の戦士団も、自由都市で起きた誘拐事件の噂を聞きつけ、人質達を助けるためにそのアジトに向かっていたの。とは言っても、私たちの人数で正面から特攻をかけるのは無謀だったから、後から来るだろう警護隊と連携してどうにか隙を突こうと考えてたんだ。そしたら大量の死体があってね、先客が居るのは明らかだった。警戒しながら中を進んでいたら、血塗れのアンタを抱える、二人の女の人が奥から走ってきたわ。」
「…。」
「槍使いのスカアハさんは…貴方と幼馴染のようね。」
「ああ…小さい頃からの、俺の姉貴分だ。」
「スカアハさんは、私の眼を暫く見た後、私にノイシュを助けて欲しいって頼んできたわ。」
「それでディアドラが俺を助けてくれたのか……だが、どうやってスカアハ姉はバアルの下から俺を連れて逃げ出せたんだ…?」
「…セタンタという人がバアルと戦っている隙を突いたと言ってた。」
「セタンタが…っ!?」
「その人は、スカアハさんに取ってとても大切な人と言っていたわ。だから、自分は彼の下に戻らなければいけない…と。自分たちは護聖を死んでも助けると誓い合った、今がその時だ、と言ってね…。」
ダァン!!
ノイシュが拳を思い切り壁に殴りつけた。衝撃で建物全体が揺れる。その形相は悲憤とも絶望とも哀しみとも言えないものだったが、ディアドラは彼の顔を直視できなかった。
「…そして、バアルを討つ為に、洞窟全体を爆破して欲しいと言って、貴方を渡しに託して引き返していった。その後は……」
「…二人は……セタンタ達はどうなったんだ!?」
ノイシュの質問へのディアドラの回答は沈黙だった。長い沈黙の後、ディアドラが口を開く。
「…正確に言えば顛末はわからない。私は貴方を連れてすぐ自由都市に戻ってきたから…だけどそこから3日間、少なくとも彼らの情報は入ってきてないわ。」
「なんでだ……セタンタ……スカアハ姉………なんでだ……っ!!!!俺を…俺がっ……お前らを………っ!!!!!」
ノイシュは何度も壁に拳を叩きつけた。
「ッノイシュ!!!やめなよ!!!」
見かねてディアドラがノイシュを止める。ディアドラの顔にノイシュの涙が飛んだ。
「ッ…………!!!すまない…ディアドラ……少しだけ…独りにさせてくれ………」
「………わかったわ。でも自分を傷つけるのは止めて。月並みだけど、二人が貴方に望んでいるのはそれじゃないはずだから…」
ノイシュに毛布を掛け直し、ディアドラは部屋を出て行った。ディアドラの足音が離れる音を聞きながら、ノイシュは石の天上を仰ぎ見て叫ぶ。
それは魂の奥底から絞り出された慟哭だった。雨は勢いを増し、嵐と化した。
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轟々と吹く雨風が自由都市の建物を揺らす。現在は石造りの建造物だから良いが、遥か昔の藁葺きの家であれば集落が崩壊するほどの強さだった。外を出歩く者が居るはずもない悪天候の中、金髪の青年が身体を引きずりながら出口へと向かっていた。
「はぁーっ…はぁーっ…」
ノイシュはバアルと出逢ったあの洞窟へ行こうとしていた。セタンタとスカアハが死ぬ筈はない、あの殺しても死なない筋肉達磨と不屈の魂を持つ戦姫が死ぬわけがないのだ、と縋る思いで自分の身体を引きずっている。一縷の望みにかけて、ノイシュは嵐の中を進んでいた。
他に人影が無いからだろう、自由都市の入り口に佇む傘を差した男の姿が殊更目に飛び込んできた。視界は雨に覆われており、人物の判別はつかないはずであるが、それが誰であるかノイシュは直感的に理解できた。
「………フィネガス…先生……」
フィネガスに、市民の集団誘拐と救出に向かった金髪の青年が瀕死で帰還した情報が入ったのは、ノイシュがディアドラを連れて自由都市に戻ってきてすぐのことだった。
路地裏で八面六臂の活躍をした剣と斧と槍を用いた三人組が、天地郷の三人であることはフィネガスも予想がついていた。紙面を騒がすならず者の集団であろうと、あの三人組が遅れを取ることは考えられない。溜まった書類を処理する前の一息として苦い珈琲を啜っていたフィネガスの耳に、瀕死のノイシュの報が飛び込んできた時、冷静なフィネガスですら危うく重要書類に珈琲を零し掛けてしまった。
護聖であるノイシュだけでなく、天地郷の中でも指折りの戦闘能力を持つセタンタとスカアハが付いていながら、ノイシュが瀕死に追い込まれるとは天耳ですら予想し得なかった一大事である。
用いる情報網を全て使い、ディアドラ達のアジトを割り出し、フィネガスが死にかけのノイシュを見舞ったのはその日の夜だった。瀕死ではあるが一命を取り留めているノイシュの顔を見てようやく安堵したフィネガスであったが、その後ディアドラから聞かされた話は彼の想像を絶する事態を予感させた。
(…天地郷の住人全員が、終末の年を侮り過ぎていたということですね……)
ノイシュが目覚めた報はすぐさまフィネガスの耳にも届けられたが、師である彼はノイシュがどう行動するかなんとなくわかっていた。無二の親友であったセタンタとスカアハを失った弟子の気持ちは痛いほど理解できるが、重傷者を放っておくわけにもいかない。フィネガスはすぐさま換金所を飛び出した。
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ざぁざぁと降り注ぐ豪雨の音が耳を劈いても尚、フィネガスの落ち着いた第一声はノイシュの耳にハッキリと届いた。
「バアルは生きていますよ。」
「……!」
セタンタとスカアハはフィネガスにとっても優秀な弟子である。輝かしい将来を持っていた教え子の未来が閉ざされた絶望はフィネガス自身にも去来していたが、彼が為すべきことは哀しみの共有ではなかった。
「お前のやるべきことは何ですか、護聖?」
「バアルを…殺す………!」
しばしの沈黙のあと、フィネガスはノイシュに近づき、その頬を平手で打った。
パアァン!
「聞き間違いですか?」
「……っ!!!」
パアァン!
「セタンタとスカアハは死にました。」
「……っ!!まだ……わかんねぇだろ………っ!!!!!」
パアァン!
「あの子たちが何を思っていたかは、貴方にわからないはずがないでしょう。」
「……!!!」
「もし彼らのどちらかが護聖で、貴方が彼らの立場だったとしても同じことをしたはずです。」
「………。」
「そしてそんな時、貴方は何を遺された者に託しますか?ちっぽけな復讐のために生きるなら、その額冠を返しなさい。貴方には過ぎた物です。」
「……先……生……」
フィネガスの顔を濡らすのが雨だけでないことに、ノイシュは気付いた。フィネガスはノイシュの顔を真正面に向けさせ、その両肩を掴んだ。
「貴方は我々の、世界の希望なのです、ノイシュ。世界の人々に、今の貴方と同じ思いをさせないで下さい。それが出来るのは、貴方しかいないんだ。」
肩を掴む手に力が入る。
「………痛ぇよ、先生…………。心が痛ぇ…………。先生の言う事……わかってるよ。だけど…だけどよぉ……………」
ノイシュの泣き声は、豪雨の音に掻き消された。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ノイシュ!!!こんな雨の中何処に……!!」
いつの間にかいなくなっていた重傷者は、ずぶ濡れの老紳士を伴って帰ってきた。
「悪い、ディアドラ!迷惑かけっぱなしだったな。」
あっけらかんとした拍子のノイシュに、慰めの言葉を探していたディアドラは気を削がれるように顔に手をやり、代わりに当然の質問を投げかけた。
「いや良いけどさ…なんでフィネガスさんも一緒なのさ?」
「申し訳ありませんね、ディアドラ嬢。ひとまずタオルをお借りしても宜しいですか?」
ノイシュとフィネガスは身体を拭いた後、ディアドラとともに席に着いた。
「礼を言わせてくれ、ディアドラ。アンタがいなかったら俺は死んでた。本当にありがとう。」
ノイシュがテーブルに手を突き、頭を深く下げる。テーブルに頭が勢いよくぶつかり、イゾルデが運んできたお茶が当のディアドラは困惑していた。
「だからそれは全然良いんだって。私も奇岩地帯でノイシュに助けられたしね。それより、フィネガスさんと貴方の関係を教えてよ。ノイシュが寝てる時にも来たけど、なんでこんなお偉いさんが知り合いなの?」
ディアドラの言う通り、フィネガスは換金所の元締めという立場上、自由都市だけでなく全ての都市国家に絶大な影響力を持つ重鎮の一人である。護聖の名声があれば、協力を仰ぐことは当然可能であろうが、ここ数日のフィネガスの関与の仕方はその域を遥かに超えたもので、一協力者どころか親子のような関係性を感じさせた。
ディアドラの当然の質問に、フィネガスは笑顔で答えた。
「自由都市の換金所の支配人は、代々護聖に協力することを義務付けられているんですよ。ただ私の場合、それとは別に小さい頃からノイシュのことを知っているのです。親子ではありませんが、それに似た感情はある。故につい、世話を焼いてしまう癖が抜けないものです。」
天地郷に関する情報は無いものの、フィネガスの話す内容に嘘偽りは一切ない。終始穏やかな調子で続けるフィネガスではあったが、しかしその話しぶりは余人に余計な追及を許さぬ迫力を感じさせた。空気に緊張が走る、などということは一切ないのだが、不思議とそれ以上は聞けない雰囲気を感じさせる。多くの曲者達相手に海千山千の駆け引きを講じてきたフィネガス特有の喋り方だった。フィネガスはそのまま話を続ける。
「実は今日はディアドラ嬢にお話があって来ました。その途中で雨の中彷徨う虚け者が居たのでね、同道してきたのです。」
「私に…話?」
てっきりフィネガスはノイシュに用事があるとばかり考えていたディアドラは意表を突かれた。
「貴女が率いる「赤枝の戦士団」の活動を、私どもに全面的にバックアップさせて欲しいのです。」
「…えぇ!?」
「以前ノイシュを見舞ってる時、そちらの可愛らしいお嬢さんとお話をさせて頂きましてね。」
ふと横を見るといつの間にかイゾルデが席に座っていた。
「げっ、いつの間に…!」
「ふふふ…あたしもせんしだんの一員だからね!」
「「アガデのロード団」からの追撃を避けるために、大々的な活動が出来ないとの話を伺いました。ですので、これからは貴女達の拠点は各都市の警護団と連携して私たちが保証します。活動資金についても、何なりと言って下さい。有能な部下も、必要であれば使って頂いて構いません。」
「ちょ、ちょっと待って…!いきなり何をそんな…!?」
「ならず者の危険性を私たちは軽視し過ぎていました。ノイシュがここまで手古摺る相手が居るならば、彼らと対抗するための集団を補佐することは護聖の助けにもなるでしょう。」
「そ、そりゃそうかもしんないですけど…」
「各都市の警護団は、あくまで自警・自治のための組織なので、余り自由に動き回ることはできません。そこで貴女達にならず者に関する対処や対策を一任できるなら、悪い話ではないですからね。その代わり、一つ大きな頼みがあります。」
「…!ディア姉のからだなら売るぜ…!」
イゾルデの頭に拳骨が飛ぶ。
「…頼み?」
ディアドラの脳裏に、洞窟で出会ったスカアハとの会話が蘇る。
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「…頼み?」
「ノイシュを…コイツを頼む。絶対に死なせないでくれ…!」
「確かにノイシュのことは知ってるけど…貴女とは初対面よ?小さい頃からの連れで死にかけのノイシュを、いきなり私に託すの?」
「…アンタの瞳が善いんだ。」
「え?」
「今、アタシの大事な人がバアルと戦ってる。」
「!?バアル!?バアルが…ここに居る…の!?」
ノイシュほどの手練れがここまでの深手を負う状況がにわかに想像できなかったディアドラであったが、スカアハの答えにすぐに疑問は氷解した。
「だからアタシは戻らないといけない。けど、護聖を死なす訳にもいかない。」
「無茶よっ!バアルの強さは…貴女が行っても、きっとどうにもならないわ!!」
「さっき身を以て知ったよ。…けど、それは関係ない。アタシは行くべきだと、アタシの魂が言ってる。」
スカアハの決意は固かったが、それがどれだけ無謀であるかディアドラには手に取るようにわかった。
「…私のことは聞いてるでしょう?バアルと同じ、旧神主義の人間よ?大事な護聖を、死にかけの護聖を、そんな私に任せていいの?」
「ああ。だから約束して欲しい。アタシとセタンタの代わりに、ノイシュの側に居て欲しいんだ。」
「え?」
「アタシとセタンタは、こいつが護聖に選ばれた時から、死んでもノイシュの為に力を尽くすと決めていた。だから、今がその時なんだ。今、アタシ達はコイツの為に命を懸ける瞬間なんだ。」
「そんな…」
「ディアドラ、初対面でこんなことを言うのは何だけど、アンタと私は似ている気がするよ。…だから、この気持ち、わかって欲しい。一方的で悪いんだけどね…。」
「………。」
「アタシとセタンタは、護聖の…ノイシュの為に生きてきた。ディアドラ、アンタにこいつのために生きてくれとは言えない。でも、こいつの目的とアンタの目的は、きっと同じ道を走ると感じるんだ…。だから、頼む……!」
今度はディアドラがスカアハの黒紫の瞳を見据える。スカアハの秘める強い意志が、ディアドラにも伝わってきた。
「…わかったわ。私の命に代えても、貴女との約束を果たして見せる…!」
「ふっ…いい面だね。もしアタシが生きてたら、また会ってくれ。ラガシュに良い店があるからさ…!」
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フィネガスが口を開く。
「ディアドラ嬢、貴女にはこのノイシュと共に三国を巡って頂きたい。」
「…!」
フィネガスの言葉に意外そうな反応を示したのは、ディアドラよりもむしろノイシュだった。当のディアドラは、スカアハとの会話を思い出し、むしろそのフィネガスの言葉は半ば予想できていた。フィネガスの言葉は冷静沈着であり、およそ感情的とは無縁なものであったが、その底流に流れる思いにスカアハと同じ気持ちがあることを、ディアドラは確かに感じていた。
「…わかりました。」
「ディアドラ!?」
「ノイシュ、以前貴方は言ったわね。護聖は用心棒じゃないって。だから、私が用心棒をしてあげるわ。」
意趣返しとばかりにディアドラが笑う。ノイシュは呆気に取られているようだった。
「フィ…フィネガスせん…フィネガスさん、護聖の旅は守護する対象を決めるまで一人が原則だぜ?連れが居ると情が湧いて判断が歪むか……ぶあっ!?」
ノイシュの顔にお茶がぶちまけられた。イゾルデが不機嫌そうな顔でノイシュを睨む。
「ごせーー、ダサい。アンタ独りだったらとっくに死んでるんだよ?何で独りでやれるとおもってるのー?しゅうまつのとしナメてんのー?」
呆然とするノイシュだったが、しばしの沈黙のあとフィネガスが笑い出した。
「ふっ…ふっふっ、イゾルデ嬢の言う事は至言ですね。」
連られてディアドラも笑う。
「アハハハ!なぁんだ、初めて会った時は付け入る隙の無い男かと思ったけど、こうして見るとあんたも普通の人間なんだねぇ。よくやったわ、イゾルデ。」
バツが悪そうにノイシュが顔を背ける。だが、三人の言う事が至極真っ当であるがことは間違いなかった。
「リーダーであるディアドラ嬢が長期的に居なくなれば、当然赤枝の戦士団も大変でしょうが…」
「いや大丈夫よ、フィネガスさん。うちの組織は元々そういう物だからね、たぶんすぐに慣れるわ。」
「それは頼もしい。ただ、危険も伴うでしょうが…」
「ううん、それも大丈夫。私にも必要だと思うんです…ノイシュと一緒に「神」に会うことが。だから、有難いわ。」
「ふふふ、これはノイシュより余程頼もしい。私の人を見る目も、まだまだ捨てたものではないですね。」
「副団長のトリスタンが明日ここに来ます。彼に引継ぎを終えてノイシュの傷が癒えたら、私はいつでも出発出来るわ。」
外を見ると、あれほど吹き荒れていた嵐が止み、雲間から陽の光が射しこんでいた。
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