第20話 巨大な要塞を内側から崩すため、ひとりの男を地獄へ引きずり込む
俺は社長室のデスクで、ハッカーから送られてきた分厚いデータを睨みつけていた。
国家権力が絡む巨大な冷凍施設。
まともにぶつかれば、一瞬で俺の会社ごと消し飛ばされるだろう。
だが、どんな鉄壁の要塞にも、必ず「人間」という脆い穴がある。
俺が探しているのは、正義感に溢れた内部告発者ではない。
金に困り、弱みを握られ、脅せば簡単に裏切る「クズ」だ。
数日後の夜。俺は寂れた雑居ビルの地下駐車場で、一人の男を待ち伏せていた。
男の名は中田。
あの冷凍施設の地下フロアの空調とシステム管理を任されている中堅エンジニアだ。
表向きは真面目な家庭人だが、裏では重度のギャンブル依存症で、複数の闇金から首が回らないほどの借金を抱え込んでいる。
「うっ……! 誰だあんた! 金なら無い。来月必ず……!」
暗がりからぬっと歩み寄った俺を見て、中田は悲鳴を上げて後ずさった。
俺は無尽蔵の力を持つ右腕で男の首根っこを掴み、コンクリートの壁に力任せに叩きつけた。
「ぐぅっ……!」
「静かにしろ。お前の借金取りじゃない。むしろ、お前の汚い借金を全額チャラにしてやる神様だ」
俺は男を壁に押し付けたまま、反対の手で分厚い札束の詰まった鞄を開いて見せた。
薄暗い駐車場に、帯封のついた一万円札の山が鈍く光る。
中田の目が、恐怖から一瞬にして強欲な色へと変わったのを見逃さなかった。
「……な、何を……すればいいんですか?…」
「簡単なことだ。お前が働いているあの施設の、地下の完全な見取り図と、警備システムのパスコードを持ってこい。それから、深夜の搬入口から俺を中へ手引きしろ」
「そ、そんなことしたら、俺は会社に消されちまう! あそこがどれだけヤバい組織か……!」
「なら、今ここで俺に首の骨を折られて死ぬか?」
俺が右手の力を少し強めると、ミシリと骨が軋む音が鳴った。
中田は顔を紫に染め、涙と鼻水を流しながら必死に首を縦に振った。
「や、やります……! 手引きしますから……命だけは……!」
俺は男を床に放り投げ、札束をいくつか投げ落としてやった。
地べたに這いつくばって札束をかき集める中田の姿は、須藤に命乞いをしていたかつての俺自身を見ているようで、ひどく虫唾が走った。
だが、これでいい。俺は自分の命と体を取り戻すためなら、何人でも地獄へ引きずり込んでやる。
(待っていろ須藤。お前が作り上げたこの完璧な檻を、内側から食い破ってやる)
俺は暗い駐車場で、ひさびさに獣のような荒々しい笑みを漏らしていた。
続く




