第19話 同類の怪物と薬の正体。俺の保険は最初から首輪だった
須藤個人の経歴が完全なダミーだと知った俺は、別のアプローチに打って出た。
毎月奴の指定口座に振り込んでいる「五千万円」の金の流れだ。
裏社会の腕利きのハッカーを雇い、いくつもの海外のダミー会社を経由したその終着点を暴き出した。
金が行き着いた先は、表向きは難病治療の研究を行っているという、巨大な「低温睡眠医療施設」だった。
(あの施設に、俺の金が流れているだと……?)
疑惑が膨らんだ数日後。
俺は資金繰りのため、財界のVIPが集まる非公開のパーティーに出席した。
そこで、情報屋の写真に写っていたあの男――与党の重鎮である政治家と対面した。
「氷室社長。最近、ずいぶんと調子がいいようですな」
にこやかに差し出されたその手を握った瞬間、俺は背筋が凍りつくのを感じた。
ん!?脈がない。
まるで上質なゴムのような、人間ではない無機質な感触。
こいつもだ。この巨大な権力者も、俺と同じ「一億円の安物」なのだ。
俺が息を呑むと、政治家は周囲の目を避けるように、耳元で低く囁いた。
「……金の流れを追って、あの『冷凍施設』に行き着いた口ですか。無駄な足掻きはよしなさい。須藤に消されますよ」
「あんたも、奴らの言いなりなのか……! 国家権力すら動かせるあんたが!」
俺が睨みつけると、政治家はかつての俺と同じような、生気の抜けた絶望の笑みを浮かべた。
「権力など無意味だ。我々が定期的に打たれているあの『特別な薬』が、どうやって作られているか知っていますか?……我々の『元の肉体』から抽出されているんですよ」
「な……に……?」
「奴らは、我々が『念のために』と冷凍保存を頼んだ元の体を、生かさず殺さず氷漬けにして、そこから定期的に適合エキスを搾り取っているのだ。あの施設を攻撃し、俺たちの元の体が腐敗すれば、専用の薬は二度と作れない。この作り物の体は崩壊し、一生眠れぬまま狂い死ぬ。だから我々は、彼らに金を払い続けるしかないのだよ」
頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。
一億円の安物を選んだあの日、俺は万が一の保険として、須藤に「元の体は冷凍保存しておけ」と命じた。
俺は自分の狡猾なリスク管理を鼻にかけていたが、それこそが最大の罠だったのだ。
須藤は最初から、俺に「冷凍保存」を選ばせるよう誘導していた。
俺が金を払って維持させていた俺自身の体が、俺を永遠に縛り付けるための人質であり、薬を搾り取るための家畜だったのだ。
そして、その保管場所は俺の息のかかった倉庫などではなく、国家権力すら絡む手出し不可能な巨大施設だった。
吐き気がした。だが、同時に俺の胸の奥底で、黒く煮えたぎるような野心と怒りの炎が燃え上がった。
(俺の元の体は……あの施設にあるんだな)
このまま毎月五千万を搾り取られ、一生飼い殺しにされてたまるか。
あの巨大施設から「俺の本体」を奪い返せれば、俺は須藤の支配から完全に抜け出せる。
あの忌まわしい首輪をへし折り、俺の本当の人生を取り戻してやる。
底なしの絶望の中で、俺は反撃のための「究極の標的」を明確に見据えていた。
続く




