第18話 底なしの沼。調べれば調べるほど深まる須藤の不気味な正体
国家権力すら裏で操る巨大な闇。
情報屋が残した言葉と隠し撮り写真は、俺の心に重い鉛のような恐怖を植え付けた。
だが、俺はまだ完全に心を折られたわけではなかった。
俺は他人を蹴落とし、どんな汚い手を使ってでもこの地位まで這い上がってきた男だ。
正体不明の化け物に毎月五千万円を吸い取られ、一生飼い殺しにされるなど、俺のプライドが絶対に許さない。
国家規模の闇だろうが何だろうが、須藤個人の過去や弱点を丸裸にすれば、必ず交渉の余地、あるいは奴を排除する糸口が見つかるはずだ。
翌日から、俺は会社の裏金と独自の人脈をフルに使い、政財界の裏事情に精通したトップクラスの調査機関を複数雇い入れた。
ターゲットは須藤。奴の生まれ、学歴、交友関係、金銭の流れ。
そのすべてを徹底的に洗い出せと命じた。
金に糸目はつけない。俺はただ、須藤という男の「人間としての弱み」が欲しかったのだ。
しかし、一週間後に調査機関から上がってきた報告書を見て、俺は背筋に氷を当てられたような悪寒を感じた。
「……なんだ、これは?」
分厚いファイルには、須藤の輝かしい経歴が詳細に記載されていた。
有名大学を首席で卒業し、一流企業を経て、俺の会社にヘッドハンティングされてきた有能な男。
だが、調査員が直接足を運んで裏を取った結果は、常軌を逸していた。
『須藤の卒業した大学に、彼の在籍記録は存在しません。同級生を名乗る人物たちにも接触しましたが、誰一人として須藤の顔を覚えていないのです』
『過去に勤務していたとされる企業も同様です。書類上は在籍していたことになっていますが、彼と一緒に働いたという人間が、ただの一人も見つかりません』
『実家の住所にあったのは、何十年も前に更地になった空き地でした。戸籍も、経歴も、すべてが後から完璧に捏造された偽物です』
俺は報告書を握りしめ、震える息を吐き出した。
須藤という人間は、最初からこの世に存在していなかったのだ。
完璧すぎる偽造経歴。一切の痕跡を残さない徹底した隠蔽工作。
調べれば調べるほど、須藤という男の輪郭がぼやけ、得体の知れない黒いもやのようなものが立ち上ってくる。
「……社長。調査員の一人が、昨日から行方不明になっています。これ以上は、我々にも手が負えません」
電話越しの調査機関のトップは、明らかな怯えを含んだ声で一方的に契約の打ち切りを告げてきた。
俺は社長室の椅子に深く沈み込み、虚空を見つめた。
探れば探るほど、須藤の背後にある暗闇の深さに足がすくむ。
俺は一体、どんな恐ろしい箱の蓋を開けてしまったのだろうか。
無尽蔵の体力を持つ一億円の体が、今はただひどく冷たく、無力なものに感じられた。
続く




