第17話 裏社会の男が青ざめた報告。須藤の背後に蠢く国家の影
数日後の夜。
俺は再び歓楽街の路地裏に車を停め、情報屋からの報告を待っていた。
ほどなくして、助手席のドアが乱暴に開き、男が滑り込んできた。
だが、その顔を見て俺は眉をひそめた。
数日前、札束を見て下劣な笑みを浮かべていたあの余裕は完全に消え失せ、男の顔は脂汗で濡れ、ひどく青ざめていたのだ。
「……どうした。あの地下施設の場所は突き止めたのか?」
俺が尋ねると、情報屋は震える手で分厚い茶封筒をそっと、返してきた。
俺が前金として渡した札束だ。
「社長……。あなた、俺達を殺す気ですか?」
「何だと?」
「あの須藤って男、一体何者なんですか! こいつは俺たちみたいなチンピラが手を出していい相手じゃありません。この仕事は降りさせてもらいます。お金は全額返しますから、もう二度と俺に連絡してこないでください」
パニックを起こしたように捲し立てる男の胸ぐらを、俺は無尽蔵の力を持つ右腕で乱暴に締め上げた。
「落ち着け! 喚く前に、お前が見たものをすべて話せ。奴はどこの暴力団と繋がっていた? あー、どこの組だ!」
「違うんですよ! ヤクザなんかじゃない!」
情報屋は俺の腕から逃れようともがきながら、喉から絞り出すように叫んだ。
「あいつが……須藤が通い詰めていたのは、ヤクザの事務所なんかじゃない。永田町だ! 与党の重鎮、あの民友党の幹事長の個人事務所に、まるで自分の家みたいに堂々と出入りしていたんですよ!」
「……なんだと?」
俺は思わず男の胸ぐらを放した。
情報屋は震える手でスマートフォンを取り出し、数枚の隠し撮り写真を俺に見せた。
そこには、高級料亭の奥座敷や地下駐車場で、テレビで見慣れた大物政治家と密会する須藤の姿が写っていた。
しかも、驚くべきことに、須藤は政治家に向かって頭を下げるどころか、まるで飼い犬に指示を出すような冷酷な目で見下ろしていたのだ。
「あいつのバックには、国家権力そのものがついている。いや……下手したら、あいつ自身が権力の中枢を裏で操っているバケモノかもしれない。あんな奴の研究所なんか探り当てて、ばれたら、俺たちなんか一瞬で『消され』てしまいます!」
情報屋は車を飛び出し、夜の路地裏へと逃げるように走り去っていった。
俺は暗い車内に一人取り残され、ダッシュボードに投げ出された札束を呆然と見つめていた。
裏社会の始末屋を雇って、須藤を消す?
俺自身の傲慢な計画が、音を立てて崩れ去っていくのを感じた。
一億円の人工肉体、完全にシステム化された地下施設、そしてそれを管理する特別な薬。
ただの闇医者やヤクザに、そんなオーバーテクノロジーが用意できるはずがないのだ。
須藤は、俺が想像していたようなケチな詐欺師などではなかった。
この国全体を巻き込む、とてつもない巨大な闇の一部だったのだ。
俺は絶望的な寒気に襲われ、暖房の効いた車内で一人、ガタガタと震えを止めることができなかった。
続く




