第15話 俺は憎き悪魔の命を自ら守らねばならない
あの不気味な地下室での処置から数日。俺の肉体は完璧な状態を保っていた。
食事の味は鮮明で、耳に入る音もクリアだ。
夜になれば赤ん坊のように深く甘い眠りに落ち、朝は底なしの体力とともに目が覚める。
だが、俺の心は今までで最も重く、黒い絶望に支配されていた。
須藤から突きつけられた条件は「毎月、五千万円の維持費を払うこと」。
もし数億と言われれば会社ごとすぐに破滅していたが、五千万という数字はひどく現実的で、だからこそ悪辣だった。
役員報酬を削り、裏帳簿を操作し、下請けへの支払いを渋れば、決して払えない額ではない。
須藤は俺の会社の財務状況から、「宿主を殺さずにギリギリ吸い続けられる血の量」を正確に計算していたのだ。
社長室のデスクに座り、俺は応接ソファで書類に目を通す須藤の背中をねめつけた。
胸の奥底で、ドス黒い殺意が煮えたぎっている。
裏社会の伝手を使えば、腕の立つ始末屋を雇って事故死に見せかけることなど造作もない。
いや、この無尽蔵の体力を持つ俺の両手なら、今すぐ背後から歩み寄り、あの細い首の骨をへし折ってやることもできるはずだ。
(殺してやる……。俺の財産を食い物にする寄生虫め、絶対に殺してやる……!)
だが、殺意の炎が燃え上がるたび、俺の脳裏にあの「地獄」の記憶がフラッシュバックするのだ。
味が消え、音が遠のき、世界から色が抜け落ちていく恐怖。
そして何より、肉体は元気なまま、脳の芯だけが焼け付くように熱を持ち、永遠に意識を手放すことが許されないあの「眠れない拷問」。
闇医者すら匙を投げたこの一億円の作り物の体だ。もし須藤を殺してしまえば、あの地下室の機械を動かせる人間はいなくなる。
特別な薬液を手に入れるルートも永遠に失われる。
須藤の心臓が止まるということは、俺への「保守作業」が完全に途絶えるということだ。
それはすなわち、俺が再びあの眠れない無機質な地獄へと叩き落とされ、今度こそ狂い死ぬことを意味していた。
(……駄目だ。こいつを殺すわけには、いかない)
憎悪で血の滲むほど強く握りしめていた拳を、俺はゆっくりと解いた。
俺を騙し、毎月五千万という大金をゆすり取っている憎き男。
本来なら何百回殺しても飽き足らないその男の命を、俺は自分の命を懸けて守らなければならないのだ。
この男が病気や事故で死ねば、俺も道連れにされるのだから。
これほどの屈辱があるだろうか。
「……どうかされましたか、社長? 私の顔に何か」
不意に須藤が振り返り、あの氷のように冷たく、すべてを見透かしたような目を俺に向けた。
「……いや。何でもない。次の会議の資料を出しておいてくれ」
「かしこまりました。ただちにご用意いたします」
恭しく頭を下げる「部下」に向けて、俺は引き攣る頬を必死に抑えながら、曖昧に頷くことしかできなかった。
続く




