第6話:スイートルームの夜と甘い誤解
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人生終わったと思ったら、また何かの役割を持たされて転生してしまった方々は、案外少なくないのかもしれません。もしかしたらあなたのお隣にも、あるいはあなた自身も……?
覚えていないだけ、あるいは気がついていないだけで、人類の未来を決定してしまうような人生の指針が、勝手に未来からやってくることだってあります。
ギフトなんかなくても、やりようによっては工夫次第で難なく乗り越えられる。
「俺なんか……」と思ったらそこでおしまいです。
コーチングの現場では、まず「自分自身が何者なのか」から始めます。すべては思い込みから始まるのです。
「俺はこの世界を率いるリーダーだ」と思うのも自由。「俺が出しゃばったところで何も変わらない」と思うのも自由。
未来を引き当てるのは、果たしてどちらなのか?
というわけで今回は、過去の未練を整理し「俺はこの世界で生きていく」と決意したバニラ男・航と、天才技術者フィアの甘く(?)不器用な夜をお届けします!
ボリゾフ商会との「産学官連携協定」というビッグプロジェクトを一本化させ、怒涛のスケジュールを駆け抜けた俺とユーリアは、フォースメル星系の最高級リゾートホテルの一室にいた。
広大な窓からは、星々が宝石のように輝く星雲の夜景が一面に広がっている。
「ふぅ……生体波動の調整とDW-QCSの初期同期、ひとまず完了したわよ……!」
ソファーに倒れ込むように腰掛けたフィアが、白衣の胸元を少し緩めて息を吐いた。
連日の徹夜作業と大立ち回りで、さすがの天才技術者も疲労困憊のようだ。
「お疲れ様、フィア。君の並列処理能力がなかったら、あのボリゾフ会長とのスキームもここまで綺麗には組めなかった。最高のサポートだよ」
俺が温かいハーブティーを淹れてテーブルへ置くと、フィアは少し驚いたように目を見開き、それから嬉しそうに頬を緩ませた。
「べ、別にお世辞なんて言わなくてもいいわよ。……でも、ワタルに褒められるのは、悪くないわね」
グラスを手に取ったフィアは、窓の外の星空を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……ねえ、ワタル。あなたは本当に『バニラ(ただの人間)』なの?」
「ん? 急にどうしたんだい?」
「だって可笑しいじゃない。魔法も使えない、サイバネティクスも受けていない、遺伝子調整すらされていない生身の人間が……一万の星系を統括する調律院の神々や悪魔を口八丁で黙らせて、銀河最大の商会を味方につけちゃうなんて」
フィアはソファーから立ち上がると、すっと俺の目の前まで歩み寄ってきた。
その瞳は、電脳モードの青い光を帯びて、真剣に俺の顔を覗き込んでいる。
「あなた……本当は何者なの? どこから来たの?」
俺は少し困ったように苦笑し、静かにティーカップを置いた。
「ただの……過去を置いてきた男さ。前世では、60年の人生を全うして、それなりに人に教える仕事をやっていた。……だが、あの地球にあった俺の体も過去も、もう戻る術はない」
俺は自分の両手を見つめた。
「ギフトなんて最初から持っていない。だがな、フィア。『俺なんかが出しゃばったところで何も変わらない』と思って諦めるのは自由だ。だが『俺には前世で培った知恵と工夫がある。この役割を果たしてみせる』と思い込んで行動するのもまた自由なんだ」
「思い込み……?」
「そうさ。未来を引き当てるのは、いつだって『自分はこう生きる』と決めて行動した奴なんだよ。俺はここで、四条 航として生きると決めた。ただそれだけだ」
前世の未練をすべて昇華し、大人の包容力と揺るぎない覚悟を込めた俺の言葉。
フィアは息をのむように俺を見つめ、やがてその顔を真っ赤に染めていった。
「っ……な、何よそれ……! めちゃくちゃ格好いいこと言わないでよ……!」
「え?」
「私……私ね、ワタル! 実は……男性とお付き合いしたこともないし、その……『生娘』なんだからねっ!?」
「……はい!?」
唐突すぎるカミングアウトに、俺は思わず素の声を上げた。
「フォースメル星系の研究所ではずっと研究漬けで、恋愛なんて興味なかったの! でも……でもね! ワタルになら、私の全部を預けてもいいって……そう思っちゃったんだから!」
上目遣いで、顔をリンゴのように赤くしながら俺のスーツの胸元をキュッと掴んでくるユーリア。
(待て待て待て! なんで『自分は何者かというコーチングの話』から『生の私を受け止めて』みたいな甘い展開に飛んだんだ!?)
脳内のDW-QCSが、前世の妻への貞操観念と、目の前の可憐すぎるヒロインの魅力との間で狂ったような計算エラーを弾き出し始める。
「ふ、フィア……? 一旦落ち着いて温かいお茶を——」
「落ち着かないわよ! 今夜は絶対に部屋から出してあげないんだから!」
過剰すぎる知的知恵と大人の余裕で銀河を整頓してきた元コンサルタント・四条航。
人生最大の「予測不能なハプニング(ヒロインの猛アタック)」に、今夜一番の冷や汗を流すことになるのだった。
第6話をお読みいただきありがとうございました!
前書きにあった「自分自身が何者なのかという思い込み」についての問いかけ。
腹を括って「この世界で生きる」と覚悟を決めた航でしたが、その大人の格好よさがユーリアに深々と刺さってしまい、まさかの甘すぎるハプニングへ発展してしまいました!
「朝食を食べただけなのに既成事実ができる宇宙の不思議」を描く次回、第7話へ続きます!
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