8 調査1日目(2)
バーへ入ると、カウンター席とテーブル席があり、テーブル席には既に冒険者が10人ほど座ってビールを飲んでいた。
「聞いたか?あのクスリの売人先週捕まっちまったってよ」
「マジかよ!あそこが1番安かったのにな」
「まぁそのうち新しいのが出てくるだろ。それまで他のとこで代わりのやつやつ探そうぜ」
「それもそうだな」
ギャハハ!
大声でそんな会話をしていいものなのか、なんにせよ、マトモな冒険者でないことは確かだ。
見たところ彼らはこの店の常連というわけではなさそうだし、なんだか気も立っている様子なので私は1人カウンター席に座ることにした。
やはりここは店主に聞くのが1番手っ取り早いだろう。
店主らしき人物は見当たらないが、おそらく裏のキッチンで作業をしていると考えた私は、店主が来るまで後ろの冒険者達の会話を聞きながらしばらく待つことにした。
30分くらい経っただろうか、そろそろ冒険者の話を聞くのにも飽きてきた。
ちょうど、カウンターの端に呼び鈴があるのが見えたので、私はそれを取ろうと手を伸ばした。
「おいおい、学校のセンセーがこんなとこで昼間っから飲んでていいのかよぉ?」
「お姉さんキレーだから特別にオレ達が遊んでやってもいいぜ?」
あぁ、本当に運が悪い。
酔っ払った冒険者達に絡まれてしまった。
ここはなるべく相手を刺激しないよう控えめに断ろう。
「すみません、人を待っているので…」
「あ?オレ達の言うことが聞けねーのか?」
「痛い目に合いたくないなら大人しくオレ達に従っといたほうがいいぜ?」
うーん、これは無理そうだな。
今にも殴りかかってきそうな感じだし、上手いこと言って帰せないかな……
私がどうやって対処しようか考えあぐねていると、とうとう胸ぐらを掴まれてしまった。
「めんどくせーな!ぐずぐずしないでお前は黙って頷いてれば良いんだよ!それとも、痛いのがお望みか?」
「いいぞいいぞ、やっちまえ!」
周りは仲間であろう冒険者に囲まれていて逃げれそうにもないし、仕方ないが、ここは一発喰らうしかないようだ。
防御魔法を展開して攻撃を防げば良いと思ったそこの君、残念ながら、防御魔法はパンチやキックなどの物理的な攻撃を防ぐのには使えないのだ。
殴られた程度でできたケガなら後で治癒魔法で治せるが、できるだけ痛いのは避けたかったんだけどな……
殴られる覚悟を決めて私が目を瞑ったとき、突然、前からゴキッ!と痛々しい打撃音が聞こえた。
「おいっ………!?」
「ちょっと、ウチの店では揉め事は禁止よ!」
目を開けると、私を殴ろうとしていた男は殴られて気絶しており、代わりに私の前には屈強な"黒髪"の男性が立っていた。
急な展開に呆然としていると、男性は後ろを向いて私に「大丈夫?怖かったでしょう、でももう安心して頂戴ね」と言った後微笑んで再び前を向いた。
「しかも寄ってたかって1人の女の子をいじめてるなんて、アンタ達、覚悟はできてるんでしょうね?」
「い、いや、オレ達は……っ!?」
ドコッ!バキッ!ドゴッ!
冒険者達は仲間の酷い有様を見て怖気付いて逃げようとしたが、黒髪の男性はそんな隙すら与えず一瞬にして彼らをボコボコにしてしまった。
「ヴッ!?」
「二度とウチの店に入れると思わないでちょうだい。いいわね?」
「ひ、ひぃ!化け物だ!」
「クソッ、おい、お前らさっさとずらかるぞこんな店!」
「こ、これで終わりだと思うなよ!」
バタバタバタッ……
なんともまぁお手本のような捨て台詞を吐いて、冒険者達は逃げ帰って行った。
「もう、まったく最近の冒険者はみんな乱暴な子ばっかりなんだから!」
頬を膨らませてプリプリと怒っている様子からは、さっきまで冒険者達をばかすか殴っていた人と同一人物だとは考えられない。
何はともあれ、とりあえずお礼は言っておかねば。
「あの、ありがとうございました」
「あら、気にしないで良いのよそんなこと!それよりも怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
「それなら良かったわ!でも、あんな風に囲まれて怖かったでしょう、少し待っててね!今ハーブティーを入れてあげるから」
そう言って男性はまたキッチンへ行ってしまった。
どうやら彼がこのバーの店主らしい。
なんだかとてもフレンドリーな人だ。
少々口調が特徴的だが、それも含めて彼の魅力なんだろうな、そう思いながらカウンター席に座って彼を待つこと数分、男性がハーブティーを持ってキッチンから出てきた。
彼はティーカップを私の目の前に置くと、そのままハーブティーを注いでくれた。
注がれた瞬間、ティーカップから甘い花の香りが漂ってきて、飲まなくても美味しいのがすぐにわかった。
「はいどうぞ!うちはバーだけど、お茶なんかにもこだわってるのよ!」
「いただきます」
うーん、美味しい。
なんだか実家に帰ってきたかのようなホッとする味だ。
そのままグイグイ飲んでいると、あっという間に全部飲み干してしまった。
おかわりが欲しいなと思いつつ、出会ったばかりの人に要求するのも図々しいと思った私は、それとなく男性に視線を送ってみた。
「あら、おかわり?いいわよいいわよ、じゃんじゃん飲んじゃって!」
「ありがとうごさいます……」
まさか気づいてくれるとは思っていなかったので、少し恥ずかしさの混ざった返答をしてしまった。
「それにしても災難だったわね、でも女の子がこんなところで1人でいちゃダメよ?」
優しさが身にしみる……
いけないいけない、本題に入らないと。
私にこんなに良くしてくれる人なんて今まで出会ったことがないので、つい感動してしまった。
まぁ変装してるからだろうが。
「実は、貴方に聞きたいことがあって今日はここにきたんです」
「あらそうなの、聞きたいことって?」
「一昨日の昼頃、ここに紺色のローブを着た、赤いイヤリングをした男が来ませんでしたか?」
「来てたわよ。店でも騒いでて迷惑だったから、よく覚えてるわ」
ビンゴだ。
「その男、何か言ってませんでしたか?石がどうとか中央騎士団についてとか」
「うーん、特にそんなことは言っていなかったと思うわ。ずっと自分の自慢話ばっかりしてたし」
「自慢話とは?」
「確か、私は偉大な発見をした、これで学会のスカした奴らも見返すことができる、って言っていたわ」
学会か…決まりだな、倉庫から黒魔石を盗み、私に罪をなすりつけた犯人はシェルード・イヴェリッチ先生だ。
彼は学会のメンバーともあまり仲が良くなかったと聞くし、話し方も男性が言った通りのものなら一致する。
しかし、偉大な発見とはなんだろう?
……もしかしたら黒魔石に何か関係があるのかもしれない、少し遠いが、明日図書館に行って黒魔石について調べてみるとしよう。
時計を見ると、もう短針は13時を指していた。
こうしてはいられない、早く倉庫に行って周辺を調べないと。
「ご馳走様でした、そろそろ出発します」
そう言って、カウンターに代金を置いて出て行こうとすると、
「ねぇ、待って」
なんだか最近呼び止められることが多いな、まぁいいけど。
「どうしましたか?」
「お名前、なんて言うの?」
困ったな。
別に本名を言っても、彼が私のことを周りに言いふらすことはないだろう。
でも、彼に私がレインコート家の人間だとバレてしまうのが、少し嫌だった。
だってきっと、私がシャルル・レインコートだと言ったら、彼は私を助けたことを後悔し、他の人みたいに怯えたような態度で私に今すぐ出ていくよう催促するだろうから。
そうやってどんどん離れていって、二度と関わることは無くなってしまうだろう。
だって私は、『女神様に見放された一族』だから。
「………ローズ、ローズです」
「ローズちゃん!素敵なお名前ね!アタシの名前は、ジファール・ド・キュールよ。また、暇な時にでも店にいらっしゃい!暖かいハーブティーを用意して待ってるわ」
「えぇ、また」
今はまだ、思い出を思い出のままにしておきたい。
店の外を出て、私は国有倉庫へ向かった。




