7 調査1日目(1)
夜が明けて目を覚ました私は、王都へ調査へと赴くために色変魔法で髪を茶色に染めて一つに括り、瞳の色も緑から目立たない青に変えた。
青だって目立つだろ、そう思った人もいるかも知れないが、この国は、アルバート様のように碧眼を持つ人が多いので、こちらの方がより周りに馴染むことができるのだ。
度の入っていない丸い眼鏡を掛け、白衣を着たらもう、私はどこからどう見ても「無害な魔法学校の教師」だ。
準備を終え、私は王都に向かった。
王都に着くと、私はすぐにあの路地裏のバーを探しに辺りを散策したが、なかなか見つからないでいた。
なにぶん、あの時は逃げるのに必死だったのでどの道を通ってあそこにたどり着いたのかまったく覚えていないのだ。
街の人に聞いてみようかと思っていた時、前を見ていなかった私は、目の前から歩いてくる人物に気づかずそのままぶつかってしまった。
「すみません、私の不注意でした。……!?」
「いや、大丈夫だ。こちらこそすまない」
なんと、偶然ぶつかったのはアルバート様だった。
変装をしているので私だとは分からないだろうが、声や顔自体は元の私と同じなので万が一がありうる。
驚きを悟られないように、かつ自然に私はアルバート様から離れようとした。が、
「少し待ってくれ」
彼に背中を向け歩き出そうと一歩踏み出した時、ちょうどアルバート様に腕を掴まれ引き止められてしまった。
「君、シャルルだろう」
「………人違いでは?私はしがない、ただの教師ですよ」
なんで分かるんだこの男は?眼鏡で顔もはっきり見えないはずだし、声だって普段より高い声を出すよう意識したのに。
取り敢えず、ここでアルバート様に私の変装が見破られるわけにはいかない。
よし、なんとかして誤魔化そう。
「それに、彼女は今、自由に動ける身ではないはずです。街を歩いているとは考えにくいですが」
「なぜシャルルが捕まったことを知っている?そのことはまだ世間には公表されていない。昨日教室にいた者以外は知らないはずだが」
はい秒でボロ出ました。
昔から嘘をつくことだけは苦手なんだ。
そんな私が、アルバート様相手に完璧に嘘を突き通すことができるはずもない。
しょうがない、ここは正直に白状するとしよう。
「……なぜわかったんですか?」
「僕が君の顔を見間違えるとでも?それに、明らかに声が上擦っていたからね」
バレないように無理やり声を変えたのが裏目に出てしまったか、しくじったな。
次からは気をつけるとして、なぜアルバート様が王都にいるんだ?今はまだ授業を受けている時間のはずだが。
「なぜここに、という顔をしているね。君のいない学校なんてつまらないから、今日はサボることにしたんだ」
「……そうですか」
第一王子がそれでいいのか?
というか、前にも思ったがこの方は時々私の心を読んだような発言をする。
はっきり言ってちょっと怖い。
精神に干渉する魔術などはあっても、直接心を読む魔法なんてこの世界にはない。
一体どうやっているのやら。まぁ、偶然かも知れないし、何より相手はあのアルバート様だ、こっそりそんな大魔術を開発していてもおかしくはない。
「君が無事なようでよかった。しかし、なぜそんな変装をする必要が?」
「それはですね――」
目立たないように適当な路地裏に入り、アルバート様に私が嵌められたこと、「不破の契約」を結んだことなど、昨日あったことを一通り説明した。
「…………」
しかし、なぜかアルバート様は顔を顰め、不機嫌そうに黙ってこちらを見つめてきた。
彼の機嫌を損なうようなことなんてした覚えはないが、取り敢えず謝っておけば良いだろう。
「……すみません?」
「まったくだ、君が濡れ衣を着せられたことも腹立たしいが、「不破の契約」を結んだだって?君は自分の命をなんだと思っているんだ?」
なんだと思えば、そんなことか。
犯人は目星がついているし、あとは証拠を探すだけだから契約の不履行で私が命を落とす可能性は低いと思うが。
仮に証拠を見つけられなくて契約不履行で私が命を落としたとしても、アルバート様には関係ないと思うんだけどな。
「それしか方法がなかったんです。それに、貴方に関係ないでしょう」
「関係大アリだ。はぁ、君はもう少し、自分を大切にした方がいい」
「……善処します」
なんだか納得いかない理由で怒られてしまったが、アルバート様の機嫌も治ったようだし良しとしよう。
それよりも、もう行ってもいいだろうか。
バーへ行く時間がなくなってしまう。
そう考えていると、アルバート様がこんなことを言ってきた。
「それで、僕は何をすればいい?」
「……?何もしなくて結構ですよ?これは私の問題ですから」
「僕が自分の意思で君の役に立ちたいと思っているんだ。教えてくれ、君のために僕は何ができる?」
そんな風に言われてしまっては、断れないじゃないか。
正直、アルバート様からの申し出はとてもありがたいので、今回は彼に頼ることにした。
「それなら、私たちが通っている学院に勤めている、ある教師の動向を窺ってきて欲しいです」
「その教師の名は?」
「―――魔法科学担当、シェルード・イヴェリッチ先生です」
シェルード・イヴェリッチ。
横柄な性格で生徒からの評判も悪く、学会でも問題を起こして学院を解雇寸前の人物だ。
一度校内で彼を見かけたことがあったが、その時確かに、彼の耳元に赤いイヤリングがあるのを見た。
事件が起きた日も学院に来ていなかったらしいし、彼が犯人である可能性は高いだろう。
「あぁ、あの教諭か。わかった。明日、学院へ行き彼の様子を観察するよ。ちょうど明日は、魔法科学の授業があったしね」
「ありがとうございます」
「君はこれからどこへ?」
「私を嵌めたローブの男が入って行った、バーへ行こうと思っていたのですが、肝心のバーがどこにあるか見つけられなくて……」
「もしかして、あの店じゃないか?」
アルバート様が指を差した方をみると、そこにはあの時私が見たバーがあった。
アルバート様に事情を話すために、たまたま入った路地裏にあるなんて。
アルバート様は運までいいのか。
「そのようです。それでは、私は行ってくるので、また明日の夕方、広場の噴水で会いましょう」
「あぁ、わかった。シャルル、気をつけてくれよ。君に何かあったら、僕はどうにかなってしまう」
「はぁ、言われなくても、自分の身は自分で守ってみせますからご心配なく。アルバート様も、お気をつけて」
そうして私はアルバート様と別れ、例のバーへと入店した。




