6 容疑者(2)
「シャルル・レインコートだな?公的結界損壊罪及び国家保管物窃盗の罪で逮捕する」
「…………え?」
教室が騒めく。
逮捕?公的結界損壊罪?
心当たりのない言葉ばかりを並べられて頭が混乱してしまう。
隣に座っていたアルバート様も、これには目を見開いて驚いている。
「待ってください、彼女は――」
「弁解なら後ほど、尋問室でじっくり聞くとしよう。おい、この女を連れて行け」
アルバート様が何か言おうとしていたが、途中で遮られてしまった。
拘束魔法をかけられた私はそのまま、クラスメイトからの心底軽蔑したような視線を受けながら、教室から連れ出された。
その中でただ1人、アルバート様だけは悔しそうな顔して、私が教室を出る直前に口パクで
「し ん じ て る ぞ」
そう言ったように見えた。
それが、少しだけ嬉しかった。
国内で起きた事件に関する調査、容疑者の尋問、受刑者の収容まで全てを管轄する、『不可出の監獄』ソーン塔。
その塔の中にある尋問室にいる私は今、自白を迫られていた。
「だから、私はやっていませんと何度もお伝えしているでしょう?」
「しらばっくれても無駄だ。貴様の邸宅からは既に、侵入時に着ていたであろうローブと、盗み出された黒魔石が見つかっている。潔く自分の罪を認めろ!」
事件の概要はこうだ。
昨日の早朝、国有倉庫にかけられた防御結界が破られていることに気づいた衛兵が倉庫に入ると、保管してあった物がいくつかなくなっていた。
その同時刻に、門の外を警備していた衛兵が、ローブを着た何者かが塀を飛び越えて走っていく姿を目撃したらしい。
その人物が倉庫へ侵入した犯人だとわかった管理局は、すぐに中央騎士団へローブの男を探すよう通達した。
そんな時、"不運にも"犯人と同じローブを着て王都で買い物をしていたのが私だったというわけだ。
「本当に心当たりがないんです、ローブは街へ行く時いつも着ているものだし、黒魔石?なんてもの知りません」
「黒魔石は、高密度の魔力を含む手のひらほどのサイズの黒い希少な宝石だ。自分が盗んだものも覚えていないのか?」
「だから、盗んでないと――」
尋問官の説明を聞いて、ひとつ引っ掛かることがあった。
黒い、手のひらくらいの大きさの宝石?
私が王都へ行った時に路地裏で拾った石と特徴が一致している。
しかもあの時、中央騎士団は"ローブの男"を見つけたと言って私のことを追いかけてきていた。
私と同じ路地裏にいた、あの人物が事件の真犯人だとするなら、あの時、似たような背格好で自分と同じ色のローブを着ている私を偶々見つけて、罪をなすりつけようとわざと黒魔石を落として私に拾わせた?
推測の域を出ない仮定だが、そうだとしたら辻褄が合う。
しかし、男が店に入って行く時、耳元に赤い短冊形のイヤリングをつけているのが見えた。
偶然なことに、赤い短冊形のイヤリングをした男なら1人、最近見たことがある。
そう考えていると、段々腹が立ってきた。
私の休日を台無しにし、私に罪を被せようとした不届き者め……絶対に証拠を見つけ出して私の無罪を証明してやる……!
ローブの男を吊し上げるという明確な決意をした私は、さっきとは打って変わって晴れやかな笑顔で尋問官にこう言った。
「3日。3日くれれば、必ずや確実な証拠と共に真犯人を見つけ出してみせます。」
「……何を馬鹿げたことを言っている。犯人は貴様なんだから、真犯人なぞいるはずないだろう」
「中央騎士団は昨日、"ローブの男"を探して王都を走り回っていました。なのに、今日は女である私を逮捕した」
「ローブで顔がよく見えなかったんだろう。性別くらい間違えることもある。それに、昨日王都にある古本屋の店主からローブを着て買い物をしていた貴様を見たとの目撃情報が入った。それが逮捕の決定打になったのだ」
「けれど、倉庫の周辺に私の魔力の残穢は検出されなかったでしょう?」
「それは……」
「私を信じられないのであれば、「不破の契約」を結んでも構いません」
「なっ!?「不破の契約」だと!?」
「不破の契約」で結んだ約束を違えると、破った方は契約の女神ミトラスの呪いによって命を奪われてしまう。
ニアルースに古くから伝わる契約の一つだ。
本来なら国家間で条約を結ぶときや騎士が国に忠誠を誓う儀式など政治的な場でしか使われないが、このくらいの覚悟を見せた方がこの尋問官も納得してくれるだろう。
「そこまで言うならば、良いだろう。ここに「不破の契約」をたてる。「シャルル・レインコートは3日後の日没までに、事件の真犯人を見つけてここに連れてくること」」
「その「不破の契約」を受け入れます」
私達が握手を交わすと、部屋中に紫色のオーラが溢れ、体内に得体の知れない魔力が流れ込んでくるのを感じた。
「いいか?捜査は許可したが、貴様は既に、国中に今回の事件の容疑者として知れ渡っているのだ。くれぐれも国民に貴様だとバレぬよう行動しろよ」
「わかりました、それでは3日後の日没に」
「おい、ちょっと待っ――」
そう言って足早に尋問室を出て行き、取り敢えず私は今後の方針を立てるために家へ帰った。
さて、これからどうしようか。
取り敢えず、明日は王都へ行ってあの路地裏のバーでローブの男について聞き込み調査をしよう。
上手くいけば犯人の目的についても何かわかるかもしれない。
私を嵌めた事件の真犯人については心当たりがあるが、一体なぜ、あの人が中央騎士団に捕まるリスクを冒してまで黒魔石を盗んだのかだけが謎だ。
調べてみたところ、あの石は確かに希少な物だが、膨大な魔力が含まれているため人体に有毒で、闇市で高値で取引されたりするようなこともない、ただの魔法石なのに。
まぁそれについてはおいおい考えるとして、事件の起きた現場である国有倉庫にも行きたいところだが、警備の目が少し厄介だな……
しかたないが、ここは"あれ"を使って倉庫に潜入するとしよう。
できれば使いたくなかったのだが、事態が事態なので致し方ない。はぁ、本当に嫌だ……
そういえば、アルバート様は今頃どうしているだろうか。
思えば彼は、入学して間もない頃から私のことを庇うような発言を何度もしている。
今日だって、私が騎士団員に連れ去られる時、彼だけは私の逮捕に納得いっていない様子だった。
他の生徒はみんな、騎士団員の言葉に私が犯罪者だと信じきって失望したような目で私が連れて行かれる様子を見ていたというのに。
彼がなぜ私にしつこく関わってくるのか、なぜ私を庇ってくれようとするのか、なぜこんなに私を信頼してくれているのかは分からない。
アルバート様は前に、私と一度会ったことがあると言っていたけれど、その時に何かあったのだろうか。
また彼に会って聞いたら、教えてくれるだろうか。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
一刻も早く、証拠を見つけ犯人を見つけ出さなければ。
今日一日で完全に疲れきった体を癒して明日に備えるために、私はベッドに入って眠りについた。




