5 容疑者(1)
――王都サニーサイド
ローズウッドで1番栄えているこの都市は、朝から夜まで一日中国外からの商人や観光客で賑わっているため『陽の沈まない都』として大陸中で知られている。
通常、国の名前は王家のファミリーネームと一致しているが、この国ローズウッドを含め、ニアルース、ルヴァンターレの3国は神話の時代に女神様によって建国されたため、王都の名前に王家の名字が使用されている。
そんな場所に訪れている私は今、何故か中央騎士団に追われて路地裏の物陰に身を隠している。
「おい、いたか?」
「いや、途中で撒かれてしまった…!だがおそらくあっちの方へ逃げたはずだ」
「よし、追うぞ!」
タッタッタッ……
……ふぅ、何とかバレなかったか。
何故こんなことになっているのか、それは、およそ30分前に遡る。
「よし、こんなもんで大丈夫かな」
入学式も終わって初めての休日、髪を一つにまとめ、紺色のローブに身を包んだ私は、王都へ買い物に向かう準備をしていた。
たかが街に行くだけで何でこんな格好をする必要があるのか、それは私の家系が関係している。
この国は金髪や茶髪の人間がほとんどで、黒髪をもつ人間はレインコートの血筋にしかいない。
他国を探せば他にもいるだろうが、黒髪となると黒翼の血を持つルヴァンターレ人くらいしかいない上、ルヴァンターレは現在他国との国交を断絶している。
そのため、ローズウッドにいる黒髪の人間=レインコート家の人間の方程式が成り立ってしまう。
知っての通り、この国大抵の人間はレインコート家を恐れ避けているので、市場なんかに行くと商人とまともに会話することさえままならない。
まぁ、ごく稀にアルバート様のような物好きもいるが。
とにかく、それを回避するため、私は髪を括りローブを着ることでこの黒髪を上手く隠しているのだ。
本当は色変魔法で髪の色を変えても良いが、魔力の消費が多いし長時間それを維持するとなると疲れるので、この方法が1番手っ取り早い。
準備を終え、王都の市場へと着いた私は、学院で使うための魔法薬や魔導書をじっくり吟味していた。
興味深いものをいくつか見繕い、購入しようと店主に声をかけようとしたその時だった。
「いたぞ!紺のローブの男だ!」
「おいお前、そこを動くな!大人しく投降しろ!」
大声で叫ばれ、大勢の中央騎士団の団員が私に向かって走ってきた。
追われるようなことをした覚えはないし、何より鬼気迫った表情をした大男達が走ってこっちに向かってくる様子が恐ろしかったので、取り敢えず私はその場から離れ、騎士団を何とか撒こうと適当な路地裏の物陰に身を潜めた。
……と、いう感じで現在に至る。
これからどうしようか。
欲しかった魔導書は結局買えなかったし、面倒臭いが、今日のところは一旦帰ってまた別日に来るとしよう。
周囲に騎士団がいないか注意しながら路地裏から出ようとした時、私と似たような色のローブを着た人物が、路地裏のバーに入って行くのが見えた。
(……何か落とした?)
近づいて拾ってみると、それは黒曜石のような手のひらサイズの石だった。
さっきの人物に届けるべきかと思ったが、ちょうどその時騎士団の声が近くに聞こえたので、石をポケットに入れ急いで家に帰ることにした。
今日から通常授業が始まる。
1限目は大陸史だから、第一講義室に行けばいいな。
教室に着いた私は試験の日同様1番後ろの端っこの席に座った。
相変わらず、同級生達は皆私を避けて前の方に集まっている。
こちらとしても静かに授業を受けられるのはありがたいので、別に気にしないが。
「1限目は大陸史か、幼い頃に家庭教師からひと通り教わったから退屈だな」
「……何故当たり前のように隣に座っているのですか?空いている席はいくらでもあるでしょう?」
じゃあ何で大陸史を選んだんだ。
案の定、今日もアルバート様は私の隣に座ってきた。
一体何が面白くて私に関わってくるのか、皆目見当もつかない。
「君といると退屈しないんだ。それに、他の生徒は皆、僕を色眼鏡でしか見ていない奴らばかりだ」
確かに、王家の人間、しかも第一王子のアルバート様と懇意になりたい人は多いだろう、人気者は大変だな。
アルバート様に少し同情した私は、アルバート様を追い返すのを諦めそのまま授業を受けることにした。
1限目が終わり、続く2限目の基礎魔法学でも、アルバート様は変わらず私の隣で授業を受けていた。
私が何も言わないからって味を占めてるな?
貴方が何を言っても聞かないからもう説得を諦めているだけで、私は別にこの状況を受け入れたわけではないんだが??
次の授業こそは、何としてでもボッチ席を確保するぞ…!
そう心の中で決心し、2限目の授業に臨んだ。
授業の内容は、属性の異なる魔法間の相性についてだった。
私達が使う魔法には、大きく分けて炎、水、木、雷、土の5属性があり、この5つの属性の基礎魔法をどれだけバランスよく使いこなせるかが魔法使いとしての資質を見る一つの指標になる。
他にも、5つの属性を応用した展開魔法も存在する。
例えば、水なら氷や雪、木なら草や花などに形質を転換させた魔法を使うことができる。
しかし、展開魔法を使うには前提としてその属性の基礎魔法の構造を完璧に理解しておく必要があるので、大抵の見習い魔法使いは基礎魔法を中心に練習を積み重ねていく。
言い忘れていたが、通常資格を持っていない無免許の魔法学校に通っている学生のことを見習い魔法使い、資格をとっているか魔法学校での教育課程を修了した者のことを一般魔法使いという。
また、魔法使いとしてでなく騎士としての道を選んだ者は、魔法学校ではなく騎士養成アカデミーに入学するのがほとんどだ。
話を戻そう、さっき言った5つの属性以外にも、光属性と闇属性の2つの属性が存在する。
アルバート様が試験の時に披露した魔法も光属性のものだった。
ただ、この二つの属性は魔力コントロールが他と比べて格段に難しく、それぞれの属性に対する高い適性が必要になるので使用できる魔法使いは少ない。
そんな属性の魔法をあれほどの規模で使えるアルバート様は、やはり天才なんだろうと改めて実感する。
光属性"は"私も使うことができないからな……
魔法に関して言えば、間違いなくこの国でもトップの実力を持っているだろう。
これで性格さえああでなければ本当に完璧人間だったのに。
そんなことを考えていると、いつのまにかもう授業が終わっていた。
その後もアルバート様の隣を回避することができず、しょうがなく授業を受けていた4限目のことだった。
突然、教室に中央騎士団の団員が入ってきて、私の前に立ってこう言った。
「シャルル・レインコートだな?公的結界損壊罪及び国家保管物窃盗の罪で逮捕する」
「……………え?」




