4 第一王子との邂逅(2)
訓練場に着くと、もう既にたくさんの生徒が私たちより先に到着していた様で、中央にいる先生達の周りに集まっていた。
アイーダ教諭を含めて5、6人ほどの先生がいるが、どの先生も魔学会などで輝かしい実績を残してきた著名人ばかりだ。
私とアルバート様も周りに倣って中央へ集まると、タイミングよく教師の1人が口を開いた。
「全員集まりましたね?それでは、これより実技魔法テストを始めます。試験内容は簡単です。今の貴方達の全力の「得意魔法」を披露してください。ただし、周りへの影響も考えて魔法を撃つこと。」
得意魔法か……
魔法を扱う者は皆、自分の好きな魔法か他よりも適性の高い魔法を一つ極めることに生涯をささげている。
その魔法が「得意魔法」と呼ばれるものだ。
中でも攻撃魔法や防御魔法、治癒魔法といった三大魔法を極める人が多いが、この学院は多才な生徒が集まっているためか他クラスのどの生徒も個性のある得意魔法ばかり披露している。
しかし困ったな。
私の得意魔法は人前で見せていいものではないし、そもそも"今は"使うことができない。
ここは無難に防御魔法でも選んでおくか。
そう考えたところで、アルバート様が私に話しかけてきた。
「シャルル、君の得意魔法は何なんだ?」
「防御魔法ですよ。何の面白味もない魔法です」
「ふーん?」
納得いかない様な顔でこちらを見つめてくるが、別に嘘はついていない。
防御魔法"も"私の得意魔法の1つなのだから。
「まぁいい。それより、君は覚えているかい?僕と君は前に――」
「これより試験を始める!1人目、アルバート・サニーサイド様、前に出てください!」
アルバート様が何か言いかけていたが、アイーダ教諭が彼を呼ぶ声と重なってわからなくなってしまった。
そんなことよりもアルバート様の名前が呼ばれた瞬間、場の雰囲気が一変し誰もがアルバート様に注目していた。
好奇、期待、嫉妬など、様々な感情の視線を向けられていたが、アルバート様はまるで気にしていないかのように魔法の展開を始めた。
「光閃よ、闇を払い我が道を照らせ
――光華の烈雨」
アルバート様が詠唱を終えた瞬間、辺り一面に赫々たる光の雨が降り注いできて訓練場の地面が跡形もなく抉られてしまった。
これが稀代の天才、アルバート・サニーサイドか。
私を含め周りの生徒と教師は全員、アルバート様の放った魔法の凄まじさに愕然としている。
まぁそれとは対照的に、当の本人は涼しい顔をしているが。
「文句なしのS評価です。次!」
アルバート様の番が終わり、その後も試験は続いたが、アルバート様の魔法が尾を引いているのか、みんなどの生徒の得意魔法を見てもそこまで盛り上がる事なく、ついに私の番が来てしまった。
「次、シャルル・レインコート!」
「はい」
「得意魔法を述べてください」
「防御魔法です」
「属性は?」
「どの属性でも」
「では、今から私が攻撃魔法を撃つので、水属性の防御魔法を展開する様に」
「わかりました」
水属性か……強度を保ちながら、どれほど薄く水を張れるかが鍵になってくるので全属性のなかでも1番魔力コントロールが難しい。
先生もきっとわかっていて水属性を選んだのだろう。
「準備はできましたね?緑の洗礼」
「水の鉄壁」
何とか防ぐことはできたが、水と相性の悪い木属性の攻撃魔法を撃たれたせいで、展開した防御魔法が少し揺らいでしまった。
しかし、相手は元宮廷魔導師だ、しかも伝説級の。
攻撃を防げただけマシだろう。
「素晴らしい!貴方は基礎がしっかりしているようですね。私の魔法を防ぎきれただけでも十分なのに、不利な属性の攻撃魔法を受けても崩れないほどの強度と練度、S評価を差し上げるに値します」
「……ありがとうございます」
S評価はアルバート様以来か、少し嬉しいな。
ホクホクしながら元の場所に戻ると、そこにはアルバート様が立っていた。
「お疲れ様、シャルル。S評価おめでとう」
「ありがとうございます、ですが、アルバート様に比べれば私なんて大したことはありません」
「謙遜しなくていい、君ならさっきの僕の魔法だって防ぐことができるだろう?」
「ご冗談を、あんな数の攻撃を受けては、誰だってひとたまりもありませんよ」
正直、アルバート様の放った魔法を見た時に、防げそうと思わなかったといえば嘘になる。
しかし、それはあくまで私が一度あの攻撃を見たからであって、初見であの技を使われては対処することは不可能だっただろう。
素直に称賛されておけばいいのに、わざわざ防げるか聞いてくるあたり、まったくいい性格をしている。
こうして、私にしては珍しく、何事もないまま試験は終わった。
山吹色の美しい夕陽が国中を照らしている夕方、私はいつものように落とし穴に嵌りかけたり子供の撃った魔法が偶然飛んできたりと命の危険に晒されながら帰宅していた。
試験が終わった後、アルバート様に一緒に帰らないかと誘われたが、絶対に嫌だったので迎えが来ていると言って1人で帰った。
嘘をついたことについては悪いと思っているが、あの人と今日1日一緒に行動していたことだけでも問題なのに、その上一緒に帰るだなんてことをしたらただでさえ酷い女子生徒達からの評判が地に伏すどころか地中を突き抜けてマントルまで突入するだろう。
学院で同性を敵に回すほど怖いことはない。
私が一応公爵家の人間であり、尚且つ『呪われた一族』の末裔だからまだマシなだけで、男爵家だったりしたら一発アウトだろう。
これに関しては、私はがレインコートの人間として生まれてよかったと心から思う。
いやけど、私の不幸体質が原因でアルバート様が構ってくるのだから、結局は私の不幸体質がなければ平和な学校生活を送れたのでは??
何にせよ、明日以降アルバート様が私に関わってこないことを祈ろう。
「やぁ、シャルル。馬車で帰ると言っていたが、気分でも変わったのかな?」
近いうちに御百度参りに行こうか、いや、そんな生ぬるいものじゃ私の不幸に勝てないだろう。
ここは、王都の聖職者を呼んで祈りの儀式を――
「シャルル、聞こえているか?」
「!!??」
顔を上げると、目と鼻の先にアルバートの顔があったので不覚にも驚いてしまった。
「すみません、少し考え事をしていて…」
「どんな悩みだ?僕に教えてくれ」
「アルバート様にお聞かせするほどのものではありませんので大丈夫です。では、ごきげんよう」
そう言って私は足早にアルバート様から離れる。
が、しかし、
「待て、せっかくだからこのまま一緒に帰ろう」
「嬉しい申し出ですが、アルバート様と帰る方向が真逆なので――」
「レインコート家の邸宅は、王都の城下町の近くにあったと記憶してるけど、違ったかな?」
何で覚えているんだそんなこと、言い逃れできなくなってしまったじゃないか。
「いえ、その通りです」
「じゃあ問題ないな、一緒に帰ろう」
問題大有りだから1人で帰らせてくれ……!
というか、一国の王子が徒歩で帰宅?馬車は来ていなかったのだろうか。
「もしかしてと思って、馬車置いて帰ってきてよかった。だが次からはちゃんと伝えてくれると嬉しいな。迎え人の手間が減る」
「……善処します」
心まで読むことができるのか?この性悪王子は。
それと次がある前提で話さないでほしい、次はないぞ、絶対、多分、きっと…!
不本意にもアルバート様と帰ることになってしまった私は、時折突き刺さる女性からの嫉妬の目線に耐え、アルバート様の話を聞きながら城下町まで向かった。
「城下町に着いたな。本当は家まで送っていってやりたいが、なにぶん家に帰ってやるべきことがあるんだ。名残惜しいだろうが、すまない」
「いえ、全くもって無問題なので、どうかお気遣いなく。それでは、さようなら」
やっと離れられると思い、素早く会話を切り上げ踵を返すとアルバート様が私の腕を引っ張って私を引き留めた。
「待ってくれ、帰る前に一つだけ、言っておきたいことがある」
「……?」
「君は僕と初めて会ったと思っているだろうが、僕達は昔、一度だけ会っているんだ」
アルバート様と私が?王家の人間と会う機会なんて今までなかったし、それらしい夜会にも出席した覚えはない。
きっとアルバート様の記憶違いだろう。
「人違いでは?少なくとも、私にそのような記憶はありません」
私がそう答えると、アルバート様は少し寂しそうな顔をしたが、すぐにいつもの笑みを浮かべた顔に戻った。
「いや、覚えてないならいいんだ。また明日、気をつけて帰るんだぞ、シャルル」
「さようなら、アルバート様」
何だかひっかかるが、アルバート様といることで一日中好奇の目にさらされて精神的に疲れていた私は、よく考えないことにした。
また明日……か……ん?
もしかして明日も私と一緒にいるつもりでいるのか???
あぁ、頼むから早く私への興味を無くしてくれ……!




