3 第一王子との邂逅(1)
入学式の翌日、再び登校した私は、自分のクラスの教室の適当な席に座って窓の外を眺めながら担任が来るのを待っていた。
好きな場所に座って良いようで、私以外のクラスメイトはだいたい、友達と一緒に座ったりしてグループで固まっている。
教室が異様に広い分、机の数も多く、一台を二人で使っても余りが出るほどだ。
それなのに、大半の生徒が前の方の座席に隙間なく座っているせいで随分と窮屈そうにしている。
理由は単純、私が後方の席に座っているからだ。
大方、不幸が伝染するなんてくだらないことを怖がっているんだろう。
別に他人にどう思われようが興味ないが、私が座っているのは1番後ろの席だぞ?何も、前2列の席に集中しなくても十分私との距離はあけられる。
くだらないことに横着している暇があるならもっと有意義なことに時間を割いたら良いのに。
ま、私には関係のないことだが。
それに、周りに人がいなければ煩わしいことに悩まされることもない。
私は一人でひっそりと学院生活を謳歌したいのだ。
これからの学校生活は快適に過ごせそうだと思ったとき、頭上から声が降ってきた。
「隣に座ってもいいかい?」
声の主の正体は、例の第一王子であるアルバート・サニーサイドだった。
私に話しかけただけでなく、あまつさえ隣に座ろうとするなんて、珍しい物好きもいたものだ。
『初恋キラー』様の隣なんて女子からの嫉妬しか生まない状況は避けたかったが、なにぶん相手は王族様なので公爵家の私が逆らうこともできず。
「構いませんよ」
私がそう答えると、例の人物は笑みを浮かべて私の隣に座った。
「ありがとう。君は確か、シャルル・レインコートさんだったね。僕の名前はアルバート・サニーサイド。これからよろしく」
「アルバート様に名前を覚えていただいているとは、幸甚の至りです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
よろしくなんてしたくない!!!
お願いだから金輪際関わらないでくれ、貴方と話しているだけで女子生徒達からの視線が痛すぎて胃に穴が空きそうなんだ。イケメン恐るべし。
「堅苦しい口調はよしてくれ。敬称も不要だ。僕のことはアルバートと呼んでもらって構わない」
「わかりました、アルバート様」
「わかっていないだろう、面白い人だな」
こっちはまっっっっっったく面白くないですけどね。
この人を気安く「アルバート」なんて呼んだら最後、女子達から妬まれ恨まれ嫌がらせのオンパレードになることは火を見るより明らか。
どうせ怖いもの見たさで私に話しかけたんだろう。
私と関わったところで不運は貴方に訪れないし、何も面白いことはないから興味をなくして帰ってくれ…!
そんな私の思いとは裏腹に、担任教諭が来るまでの間アルバート様は私に何度も話しかけてきた。
「好きな色は?」
「黒です」
みたいな普通の質問から、
「今まで経験した不幸で1番大変だったものは?」
「今この瞬間の状況ですね」
みたいな私を煽ってるのかと言いたくなるような質問etc……
一体全体誰が性格が良いだなんてデマを広めたんだ?
無抵抗の女子生徒を質問責めにして楽しいのか!この性悪王子め……!
その上、中でも1番最悪だったのが、
「今月の選択授業は何を選んだんだ?」
「数学的魔法式構築学と、占星術、大陸史です」
「へぇ、偶然だな!"僕と"全く同じだ」
「………………え………?」
「まさか選んだ授業全部同じだなんて、運命だな!
シャルルがいるなら僕も心強いよ」
「運命」なんかじゃないとか、ファーストネームでかつ呼び捨てで呼ばれていることは置いておいて。
この性悪王子と受講科目が全部被ってるだって???
あぁ、私の不運体質はこんなときに効力を発揮するらしい。
叶うことなら過去に戻って選択を全て変えたい…!
ちなみに、フォルローゼ王立学院は、生徒個人に合わせた自由な学びの機会を与えることを重きに置いたカリキュラムをとっているため、何の授業を受けるかは月毎に生徒が好きに選択できるようになっている。
生徒は年内に指定された数以上の単位を取れば進級できるので、完全にノータッチな科目があっても良いそうだ。
この制度を初めて知ったときは感動したのに、今ではその制度が枷になって私を苦しめている。
私がこれからの学校生活を想像して絶望しているとき、ちょうど前のドアから赤いローブを着た銀髪の老女が入ってきた。
「1ーαのみなさん、こんにちは。今日から一年このクラスの担任を務める実践魔法術担当のアイーダ・リクトーレです。よろしくお願いしますね」
教室中が驚きざわめいた。
それもそのはず、アイーダ・リクトーレという人物は、かつて『薔薇の魔女』として国中に名を轟かせた伝説の宮廷魔術師である。
現在は引退してどこかで働いていると聞いていたが、こんなところにいたのか。
しばらくして教室も落ち着きを取り戻したところで、アイーダ教諭が口を開いた。
「本日は出席をとった後、みなさんの実力を測るために実技魔法テストを行います」
初日からテストか……流石国内屈指の進学校だな。
だがしかし、生まれてからずっと予期せぬ不運に襲われ続けた私は、防御魔法はもちろん、いついかなる魔物に対峙しても良いように数多くの属性の魔法を使えるように鍛錬してきた。
筆記試験じゃなかったことを安堵しながら、私は自分の名前が呼ばれるのを待った。
「……シャルル・レインコートさん」
「……!はい」
今までファミリーネームまで呼ぶ先生はいなかったので、アイーダ教諭が私をフルネームで呼んだことに驚いた。
もしかしたらこの人は、私がこれまで関わってきた人とは違うのかもしれないと、そう思った。
出席を取り終わると、アイーダ教諭は私たちに中庭を出て中央の魔法魔術訓練場に向かうよう指示した。
私が一人で向かおうと席を立ったとき、隣に座っていたアルバート様も一緒に立ち、制服を整えながらさも当然の様に
「さぁシャルル、訓練場に向かおう」
なんてほざいてきた。
何故、私が、貴方と、一緒に行動する流れになっているんだ?
貴方ならわざわざ私なんかじゃなくても、つるむ相手はいくらでもいるだろうに。
ほら、そこにいる2人の女子生徒もうっとりした顔でこちらを見つめている。
まぁ、私を見るときは顔が険しくなっているが。
どうしようかと考えていると、例の2人の女子生徒がアルバート様に話しかけにやってきた。
「アルバート様、私達と一緒に訓練場まで向かいませんか?」
よしよし、そのままその性悪王子を連れて3人仲良く訓練場に行ってくれ。
しかし、そんな私の些細な願いも、アルバート様の一言によって打ち砕かれてしまった。
「悪いが、僕には先約があってね、また次の機会に誘ってくれると嬉しいな」
その先約ってもしかして私のこと???
私がいつ貴方の誘いに応じたというんだ、勝手なことを言わない欲しい。
あぁほら、何でこんな奴なんかと、みたいな顔されてるし、こっちを見る目が明らかに親の仇を見つけた時のそれになっている。
「失礼ですがアルバート様。彼女はあの『女神様に見放された一族』ですよ?そんな方と一緒におられては、アルバート様まで彼女の不運に巻き込まれてしまいますわ」
「そうですわ、私達と一緒に行動した方が、アルバート様も楽しいと思いますの」
随分好き勝手言ってくれているが、まぁこれで、流石にアルバート様も諦めるだろう。
そう思っていたんだが、何を思ったのか、アルバート様は急に私の肩を引き寄せ、怪訝な顔をして彼女達にこう言った。
「僕が誰といるかは僕自身が決めることだ。何よりも、僕の"大切な人"をそんな風に言わないでもらえるかな」
?????????大切な人???
友達ですらなく、ましてや出会って数十分のほぼ初対面に等しい相手をよく「大切な人」なんて言うことができるな。
やはり王族特有のパーソナルスペース狭さなのか?1ミリも理解できそうにないが。
私の頭の中が?で埋め尽くされている一方で、目の前の女子生徒2人の顔は真っ赤に染め上がっていた。
「なっ……!?大切な人とは、彼女のことを言っているのですか?」
「そうだけど?」
「考え直すべきです!その者は『呪われた一族』ですよ!?彼女の家の噂については、アルバート様もご存知でしょう!?」
「たかが噂だ。彼女の不運は周りにまで影響するものではないだろう。それとも、何か根拠があってそんなことを言っているのか?」
「それは……!ない……ですけど」
「それならば、今後そうやって軽々しく他人を貶すような発言をするのはやめた方がいい。ただでさえ少ない品位がなくなるぞ」
「ーーーっっ!い、行きましょう!」
「え、えぇ!」
彼女達は耐えられないと言った様子で慌ただしくその場を去っていった。
恋慕の相手にああもズバズバと言われてしまっては、逃げたくなるのも無理はない。
しかし、まさかアルバート様があの様に私のことを庇ってくれるとは、少し彼の人間性を低く評価しすぎていたかもしれない。
「さぁ、訓練場に向かうぞ、シャルル」
「はい」
ひとまず今日のところは、先の彼の行動に免じて一緒に行くとしよう。
少し軽くなった心に気づかないまま、教室を出て私達は訓練場へと足を進めた。
*10/11編集済み




