20 退屈(3)
岩が真っ二つに割れた。
土煙の中、一つの人影がメイズとエリーゼの視界に映った。
2人は冷や汗をかきながら、頭に浮かんだ可能性を否定したくて、人影に向かって攻撃をしかける。
しかし、そのことごとくは防御魔法によって弾かれてしまった。
煙が晴れ、人影の正体が明かされる。
煙の中から現れたのは………
「ゴホッ……………煙たいな……」
もちろん、私である。
「しゃっ、シャルルさん……………!?」
「何で………」
私を見たエリーゼさんとメイズさんが絶望したような顔をしている。
巨大な岩に押し潰されたはずの私が、傷一つなくピンピンしていることに混乱しているんだろう。
では、なぜ私が無傷であの状況を突破できたのか。
それは、今から約数十秒前まで遡る。
ヒュゥゥウウ…………………!
岩が落下してきた。
どうやら文字通り、本気で私を潰しに来ているらしい。
避けようにも守ろうにも、この大きさの岩を前にしては並大抵の防御魔法は何の意味もなさないだろう。
空中で岩を攻撃しても、破壊された岩の破片が飛び散って周囲の生徒に被害が出てしまうかもしれない。
うーん、どうしたものか…………あ。
一つ、この状況を打破できそうな解決策を思いついた。
上手くいくか心配だが、ここは、一か八かやってみるしかない。
岩が私の頭に直撃する直前、私は呪文を唱えた。
「酸の膜」
酸の傘が私の頭上に開かれる。
そして岩が酸に触れた瞬間、わたあめが水に溶けるみたいにあっさりと、私を覆うようにして岩は溶かされていった。
岩が落ちきって視界が暗闇に染まった。
ふぅ…………何とか成功したようだ。
あとは、周りの岩を破壊して脱出すればいいだけだ。
私は適当な魔法を放ち、内部からじわじわと岩にヒビを入れていった。
…………と、言うわけで今に至る。
「な、なぜ生きているんですか!?貴方は確実に岩に押し潰されたはず、なのになぜ!!?」
エリーゼさんがひどく錯乱した様子でそう私に問いかける。
自分の勝利を確信した直後に、その勝利を覆されるようなことがあってはそうなるのも無理はないか。
「岩が私に当たる寸前に、酸で岩を溶かしました」
「なっ………………」
「エリーゼ!」
あっけらかんと私がそう言うと、エリーゼさんはショックを受けたようで地面にへたりと座り込んでしまった。
そんなエリーゼさんを心配するように、メイズさんがエリーゼさんの元へと駆け寄り、私をキッと睨みつける。
「貴方が大人しく潰れておけば良かったのに!!私達の邪魔をして楽しいの!?ほんと最低ね!」
なんて理不尽な逆上なんだ。
責任転嫁もここまでくると呆れを通り越してもはや見事に思えてしまう。
今の状況だけを見れば、完全に私が悪役だな。
しかし、いくらアルバート様のことが好きでも、今更私を殺そうとするだろうか。情緒も些か不安定だし。
そう考えながらふと周りに目を遣ると、いつの間にか、私達を囲むようにして人集りができていた。
………みんな授業そっちのけでいいのだろうか。
「レインコートさん。これは一体、何があったのですか?」
リクトーレ先生が人集りの中から出てきた。
エリーゼさんとメイズさんがリクトーレ先生の姿を見て慌てる。
私がリクトーレ先生の問いに答えるべく口を開こうとすると、遮るようにしてエリーゼさんとメイズさんのつんざくような声が聞こえた。
「リクトーレ先生、違うんです。シャルルさんが私達を殺そうとしたんです!」
「そ、そうです!」
思わずどの口が言っているんだと言いたくなるようなことを言われた。
そもそも、あれだけ大規模な魔法を使っておいて周囲に見られていないわけがない。
術者の正体もエリーゼさんだと言うことはもはや周知の事実だろう。
それも、リクトーレ先生なら尚更気づかないわけがない。
予想通りと言うべきか、案の定リクトーレ先生はメイズさんの言うことに聞く耳持たずと言った様子で
「お黙りなさい。今はレインコートさんに質問しています」
と、ぴしゃりと言い放った。
これには流石に彼女達も萎縮したようで、口をきゅっと閉じて黙ってしまった。
「レインコートさん、事の経緯を説明してください」
改めてリクトーレ先生にそう言われたので、私は今度こそ説明をし始める。
「開始の合図と同時に、エリーゼさん達にまるで命を狙っているかのような攻撃をされました。避け続けていましたが、最終的には巨人の投石私ごと押し潰されそうになり……」
「大体の経緯は分かりました。エリーゼさん達はこの後、私に着いてくるように。」
私がそこまで言うと、リクトーレ先生はもう十分だといった様子で私の説明を遮った。
すると、エリーゼさんは納得いかないと言った様子で声を荒げる。
「なっ……!シャルルさんの言っていることを信じるんですか!?」
「信じるも何も、貴方方がレインコートさんに明確な殺意を持って攻撃していたのは知っています。レインコートさんに説明を求めたのは、それを再確認するためです」
見ていたのなら止めてくれたら良かったのに……というか普通、生徒が殺し合いをしていたらすぐに止めると思うんだが。
リクトーレ先生の言ったことに反論しようにもできないのか、エリーゼさん達は今度こそ完全に沈黙に伏してしまった。
リクトーレ先生はそんなエリーゼさん達を一瞥した後、周りに他の生徒が集まっているのを確認して口を開いた。
「今日の授業はここまでです!シード選手については他クラスの授業も終えた後、学年から3人選んで来週の昼休みに中庭の掲示板に張り出しておきます。以上、解散してください」
そう言い終わるやいなや、リクトーレ先生はエリーゼさん達を連れて本練の方へと向かっていった。
周りの生徒もリクトーレ先生が解散と言ったのを聞くと、どんどん訓練場から出て教室へと向かっていく。
…………それにしても、なぜエリーゼさん達は今更私に絡んできたんだろう。
アルバート様と一緒にいたことが妬ましかったのなら、それこそ今じゃなくたっていいはずだ。
それに、授業中なんてわざわざ人の目が多いときに実行しなくても、放課後どこか別の場所にでも呼び出せば誰にもバレずに私を消せたかもしれないのに。
計画にしてはあまりに杜撰すぎるし、突発的な行動にしては大胆すぎる。
うーん、考えれば考えるだけ分からなくなる………
まぁ、こんなところで深く考えても仕方ない。
エリーゼさん達のことは置いておいて、私も教室へ戻るため、訓練場をあとにした。




