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私に出会ったのが運の尽きでしたね。  作者: 糖もろこし
第1章 最悪な出会い
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19/22

18 退屈(1)

 あの日から2ヶ月が経った。

 あれからアルバート様とは一度も話しておらず、今まで通りの、ひとりぼっちの生活を送っていた。

 アルバート様がいなくなったからといって何か変化があるわけでもなく、周りの生徒は相変わらず私を避けるし、私も大して気にせずそのまま過ごしていた。

 変わったところがあるなら、アルバート様の方だろうか。

 私という不吉な存在が消えたことを機に、同級生達はみんなアルバート様に話しかけにいくようになった。

 休み時間や授業中も、アルバート様の周りには人が沢山いて、まさに引く手数多といった様子だ。

 いつだったか、アルバート様がクラスメイトと楽しそうに話して笑っているのを見た。

 それを見て、やっぱり私は、アルバート様と離れて正解だったと思った。

 『呪われた一族』なんて側にいない方が、アルバート様にとっても周りにとっても、迷惑にならなくて良いだろう。

 ………アルバート様の笑った姿を見たときに感じた醜い気持ちには蓋をして、見ないようにした。

 そういうわけで、孤独な学院生活に戻った私は、前と同じ変装をして、例のバーに来ていた。


「もう、来るなら連絡してっていつも言ってるでしょ?」

「すみません、中々予定がわからなくて」

「いつ来るか教えてくれないと、最高の状態でハーブティーを提供できないじゃない!ローズちゃんはうちの常連さんなんだから!」

「ありがとうございます。今日もいつも通り、美味しいハーブティーですよ」


 放課後は暇だし、休日もこれといってすることがなかったので何となくバーに行ってみると、これがまぁ居心地が良い。

 店主は気立てが良くて聞き上手だし、落ち着いた店の雰囲気の相乗効果で、いつのまにかすっかり常連となってしまった。

 

「あらぁ、お世辞なんていいのに!でも嬉しいわ、ありがとうね!」

「キューちゃんにお世辞なんか言うわけないじゃないですか。ちゃんと本心ですよ」

「もう、可愛い子ね!そんな子には試作品のケーキを出してあげちゃう!ちょっと待っててね!」


 そう言ってキューちゃんは厨房へ入って行った。

 キューちゃんとは、このお店の店主であるジファール•ド•キュールさんのことである。

 私がいつも「キュールさん」と呼んでいると、「そんな堅苦しい呼び方しなくていいのよ!気軽にキューちゃんって呼んで頂戴!」と言われた。

 その時はまだ通い始めて1週間程度だったし、流石にあだ名は図々しいかなと思ってその後も呼び方を変えずにいると、名前を呼ぶ度に「キューちゃん、ね!」と言われるので根負けし、こうしてキューちゃんと呼ばせてもらっている。

 今となっては懐かしい回想に浸っていると、キューちゃんがケーキの乗った皿を持って厨房から出てきた。


「はい、コーラナインで採れたレモンを使ったレモンパイよ!」

「頂きます…………」


 目の前に出された美味しそうなレモンパイにすぐに飛びつく。

 淑女たり得ない行動だが、お腹が空いていたし、何より食べてくださいと一際の輝きを放つこのレモンパイがいけない。


「!……………とても美味しいです」


 一口食べると、爽やかなレモンの香りがスーッと鼻を抜けていった。

 レモンの酸味とクリームの甘味が何ともベストマッチな味わいを生み出していてとても美味しい。

 甘いものがあまり得意じゃない私でもサクサクと食べ進めてしまう。

 

「あら、そう?そんなに美味しそうに食べられちゃうと、見てるこっちまで幸せになっちゃうわ」

「これはメニューに載せるべきです。絶対」


 人生でしたことないくらいまっすぐな目でキューちゃんを見つめてはっきりとそう言う。

 するとキューちゃんは嬉しそうにパァッと顔を輝かせた後、何かを思い出したのかすぐに曇った顔になってしまった。


「そうしたいのは山々なんだけどねぇ………最近、コークラインの方で魔獣の活動が活発らしいの。そのせいで荷車が襲われちゃって物流が滞ってるから、タルトに使うレモンが安定して入荷できないのよね」

「そうなんですか……残念です」

「あ、でもでも、ローズちゃんには特別にいつでも作ってあげるから、食べたくなったら言ってね!常連サービスよ!」

「ありがとうございます」

 

 そう話しているうちに、あっという間にタルトを食べ終わってしまった。

 残っていたハーブティーを飲みながら時計を見ると、もう19時を過ぎていた。

 そろそろ帰らなければ。


「今日はこのあたりで帰ります。お茶とタルト、ごちそうさまでした。代金はここに置いておきますね」


 私は椅子にかけていたコートを羽織り、店を出る準備をする。

 そして銀貨を3枚ほどカウンターの上においた。


「お代なんていいわよ!アタシとローズちゃんの仲なんだから!」


 そう言って私の手の平に銀貨を3枚とものせて返そうとする。


「………それじゃあ、このお金でまた、私に美味しいものを作ってください」

「やだ、口が上手いんだから!わかったわ。次もローズちゃんにとびきり美味しいものを用意して待ってるから、期待して頂戴ね!」

「ありがとうございます、では、また」

「またね、ローズちゃん!」


 そしてキューちゃんと別れ、家に帰った。



 玄関に入ると、使用人達が勢揃いで出迎えてくれる。


「「「おかえりなさいませ、シャルル様」」」

「ただいま、みんな」


 キューちゃんのお店も居心地がいいけど、やっぱり我が家が1番安心するな。



 使用人達に挨拶も済ませ、自室に戻ると机の上に一通、手紙が置かれていた。


「…………?何だろう」


 封を開けて中身を見てみると、こう書かれていた。



―――――――――――――――――――――――

 第54回 フォルローゼ武闘会へのご案内


 8月の第3木曜日に開かれる、第54回フォルローゼ  武闘会への参加の可否についてのアンケートを行う。

 ただし、次に示す条件を満たす者以外は原則参加と

 するので、 以下の文章を読んでから回答すること。


 1.現在何らかの負傷をしていて参加が困難である    こと。

 2.実践魔法術の成績が優に満たない者。

 

 以上を踏まえて、今回の舞踏会に参加する者は可を、

 参加しない者は否を選べ。

―――――――――――――――――――――――


 フォルローゼ武闘会か……そういえばもうそんな時期だったな。

 フォルローゼ王立学院では、毎年8月に大規模な武闘会が開かれている。

 1年生から3年生までこぞって参加するこの大会は、学院の関係者以外も見ることが可能であり、なかなかに見応えのある白熱した試合ばかりなため国中から多くの注目を得ている。

 その上今年は、王家の人間であるアルバート様も参加するからもっと関心が集まるだろう。

 本当は私は参加したくないのだが、生憎どちらの条件も満たしていないので強制参加である。

 そういえば、明日はちょうど実践魔法術の授業がある。

 きっと、またアイーダ先生から武闘会についての説明がされるだろう。


 やらせない気持ちのまま眠りにつき、朝を迎えた私は現在、入学式ぶりに遅刻しかけていた。



 

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