15 一難去って(1)
2日後。
久しぶりに学院に登校すると、教室に入って早々クラスメイトからの嫌疑の視線を浴びた。
元々良い印象を持たれてなかった上、数日前に逮捕された人間が、真犯人は別にいました、私は無実でしたなんてノコノコ登校してきてもすぐに信じれないのも無理もない。
今だってこちらを見つめながらコソコソと話しているし、私が席につくと逃げるようにして違う席に移動した。
つまり、いつもと大して変わらないということだ。
そういうわけで、いつものように1限目の授業の準備をしていると、不意に隣に影がかかった。
「おはよう、シャルル」
もはや声を聞かなくてもわかる。私の隣に座って喋りかけるような変人はこの学院にただ1人しかいない。
「おはようございます、アルバート様。ところで何故、わざわざ私の隣に?」
「前にも言っただろう?君の隣は居心地が良い。それに、僕がどの席に座ろうと僕の自由だ」
「では私が移動しますね」
周囲から殺意にも近しい無言の圧を受けて居た堪れなくなった私は、早急にアルバート様から離れようと席を立った。
が、しかし、
「僕の助けがなければ今頃君は牢屋の、いや、棺の中だっただろうなぁ……」
「………」
「調査機関の所長と会う時間を設けるのは大変だったな……本来ならたった数分会うだけでも、膨大な待ち時間を要するというのに………」
「…………」
「病院の手配だって、倒れた後すぐに……」
「わかりました!私の負けです、アルバート様のお好きなようにしてください……」
「そうか?別に独り言なんて気にしなくて良かったんだが……君が良いと言うのなら遠慮なくそうさせてもらおう」
ニコニコと屈託のない笑みをしているがこの男、確実にわざと私に聞こえるような声量で言っていた。
無垢な乙女を半分脅すような真似をして恥ずかしくないのか。
まぁしかし、アルバート様に助けられたのは事実なので逆らうこともできず。
こうして、アルバート様の狡猾な策に見事ひっかかってしまった私は、そのままアルバート様の隣で授業を受けざるを得なくなってしまった……
リーンゴーン……
「今日の授業はここまでです。次は教科書36ページから授業を進めるので、しっかり予習しておくように」
なんやかんやで5限目も終わり、次で今日ラストの授業だ。
ちょっかいをかけてくると思ったアルバート様も、授業中は静かだし、私がわからないところがあったときも、流石と言うべきか簡潔でわかりやすいことこの上ない説明をして教えてくれるのでとても勉強が捗った。
相変わらず女子生徒からの視線が痛かったが。
「シャルル、次は魔法科学だから移動教室だぞ。実験の予習はしてきたか?」
「はい、もちろんです」
「流石だな。すまないが、僕は少し用事を済ませてから教室に向かうから、先に行っててくれ」
まるで一緒に移動する予定だったような口ぶりだけれど、まぁ気のせいだろう。
「わかりました」
アルバート様と別れて教室へ向かう。
確か第二実験室だったはずだから……東練の3階だ。
渡り廊下から東練に行こうとした時、誰かから呼び止められた。
「失礼、シャルルさんよね?1ーαの」
「?はい」
私に声をかけたのは、ブロンドの髪をハーフアップにしたいかにもご令嬢!みたいな感じの女子生徒だった。
後ろの方にはその女子生徒の取り巻きらしき人達が3人ほどいる。
胸元につけているリボンが青だから、おそらく2年生だろう。
この学院では、学年によってリボンやネクタイの色が分けられている。
1年生なら真紅、2年生なら藍色、そして3年生なら萌葱色というようにシンプルに赤、青、緑の3色で区別されている。
この学院はなんと言うか、オブラートに包むと年功序列至上主義みたいなところがあるので、万が一にも同級生と勘違いして先輩に対して馴れ馴れしい態度で接しようもんならその日のうちに噂が広まって学院中から村八分にされるだろう。我が学院ながら恐ろしい。
だからこそ、一目で何年生かわかるように色で学年を区別しているのだろう。
「少し、お話しない?」
「えっと、急いでるので……」
「貴方に拒否権はないのよ、いいから黙って着いてきなさい!」
急に凄い形相で怒鳴られたので、思わず気圧されてしまった。
まぁ、今ここで変に抵抗しても後々面倒くさいことになるので、大人しく着いていくとしよう。
連れてこられたのは、私がさっきまで登ろうとしていた階段の裏だった。
「貴方、最近よくアルバート様と一緒に過ごしているらしいわね?」
まったくもって不可抗力だけれど。
「まぁ、はい……」
「少し身分をわきまえたらどうかしら?公爵家とはいえ、『呪われた一族』が高貴なあのお方に近づいて良いと思っているの?」
そんなこと言われても、近づいてくるのはアルバート様の方だしな………
私だって1人で過ごしたいのは山々だが、向こうからこっちにくるんじゃどうしようもないじゃないか。
それに、今はアルバート様に借りがあるし、逆らえようにも逆らえない。
「えっと、アルバート様本人に言っていただければよろしいかと……私は何もしてないので」
「貴方、アルバート様が望んで貴方の隣にいるとでも思ってるわけ?図々しいにも程があるわ!」
「そう言われましても……」
困ったな、話がまるで通じない。
そもそも、アルバート様がなぜこんなに私にかまってくるのかは私にも謎なんだ。
どうしたものかと私が続きの言葉に迷っていると、痺れを切らしたのか先輩が鬱陶しさ全開で口を開いた。
「今日のところは厳重注意で済ませてあげる。けど、明日以降まだアルバート様にベタベタくっついているようなら、分かるわね?」
「………はい」
「良い返事だわ。貴方達、行くわよ」
「「「はい、カローラ様」」」
………何だか色々凄い人達だったな。
それにしても、入学から数週間で先輩に目をつけられるなんて、今日も私の不幸体質は健在だな。
しかもあの"カローラ様"と呼ばれていた先輩、何だか聞き覚えのある名前だ。
どこかで聞いたことあるはずなんだよなぁ……うーん、思い出せそうで思い出せない。
何せレインコート家はほとんど社交界に顔を出さないからな………そもそもそういった場に招待されることがないし。
だから他の公爵家や男爵家のことなんて滅多に知る機会がないのだ。
まぁ、リクトーレ先生やイヴェリッチ先生のように、良い意味でも悪い意味でも有名すぎるなら例外だが。
リーンゴーン……
まずい、先輩達に絡まれたせいで時間がいつのまにかなくなっていたようだ。
予鈴がなり終わる前実験室に向かわなければ、授業に遅れてしまう!
私は考えるのをやめ、急いで階段を駆け上がった。
あぁ、なんて不運なんだ!




