14 チェックメイト(3)
重い瞼を開け目を覚ますと、見覚えのない天井が視界いっぱいに広がっていた。
体を起こして自分の状況を確認しようとしたが、その瞬間ベッドの天井からボキボキッと嫌な音が聞こえてそのまま落下してきた。
ドンッ!!
寝起きからこんな不運に見舞われるとは、今日も私はついていないな。
ベッドの天井は前側だけ落下したので、私は今、ベッドの天井を斜辺とした直角三角形の中に閉じ込められているような状態だ。
まぁ別に横から出られるので問題はないが。
そんな時、さっきの音が聞こえたのか誰かが慌ただしく扉を開けて部屋に入ってきた。
「シャルル!何か大きな音がしたが、大丈夫か!」
声からして、部屋に入ってきたのはアルバート様だったようだ。
なぜアルバート様だと断言できないのかというと、私のいる場所からだと扉が落ちたベッドの天井で隠れてまったく見えないためである。
………段々秘密基地みたいで楽しくなってきたな…
とは言え、いつこっち側の天井も落ちてくるかわからないので、早々にベッドの脇から降りてアルバート様の前に立った。
「おはようございます、アルバート様。とりあえず生きてるので大丈夫ですよ」
「半壊のベッドから出てきてよくそんなことが言えたな……起きて早々ヒヤヒヤさせないでくれ」
アルバート様は使用人らしき人を呼ぶと、壊れたベッドの片付けを頼んでから側にあった椅子に腰掛けた。
私も目線で座れと促されたので椅子に座る。
「さて、2日以上眠っていた寝坊助に、この2日間で起きたことを話すとしよう」
「2日も……!?待ってください、それでは私の「不破の契約」は……?」
「それに関しては安心してくれ。一昨日君が倒れた後、君から頼まれてイヴェリッチ教諭の研究室から持ち出した証拠品と共にイヴェリッチ教諭をソーン塔まで連行した。中央騎士団には事の経緯を説明して、イヴェリッチ教諭を真犯人することになった。だから、今はもう君への容疑は完全に晴れている」
「そうですか……ありがとうございます」
私はあの時、学院へ潜入するための文書を送ってもらうこととは別にもう一つ、アルバート様には私が教育実習生としてイヴェリッチ先生を研究室から遠ざけてる間に研究室に侵入して、事件に関連する証拠を探してもらうよう頼んでいたのだ。
「君は倒れてすぐ王都の病院に運ばれたんだ。魔術医師によると、魔力の急減と急増で脳がオーバーヒートした事が原因らしい」
確かに、あの時は興奮状態でアドレナリンがドバドバ出ていたから気づかなかったけれど、普通あんな魔力の消費の仕方をしたら脳と身体に負担がかかりすぎてしまう。
それにしても、危ないところだったな……アルバート様の協力がなければ、今頃私は濡れ衣を着せられたままあの教室で魔力を完全に吸い取られて死んでいただろう。
アルバート様には大きな借りができてしまったな。
「今回の件、改めてありがとうございました。アルバート様の助けがなければ私は……」
「よしてくれ、君が無事ならそれでいい。それに、今回の事件で黒魔石に関する研究が進められることになった。魔力欠乏症の治療法開発にも繋がるようだ」
しばらくアルバート様と話していると、魔術医師がやってきて私を診察してくれた。
どうやらもう退院しても良いらしい。家に帰るための支度をしていると、アルバート様がこんなことを言ってきた。
「もう夕方だ、家まで送ろう」
うーん、助けてもらった手前断りづらいな……
今までアルバート様と一緒にいて、この人が悪い人ではない事はわかってはいるが、一国の王子に家まで送ってもらうのは少し抵抗があるな……
「そんな、申し訳ないです。それにアルバート様もご多忙でしょう?無理に送ってもらうわけには……」
「よし、荷物はそれで全てだな?行こうか、シャルル」
見事に全部無視されてしまった……
アルバート様は既に部屋を出て外へ向かったようだし、仕方ないが着いていくとするか。
どこか軽い足取りで、私もアルバート様を追って病室を出て行った。
「そういえば、今日は数十年に一度の流星群がみられるそうだ」
王都の街中を歩いている最中、突然アルバート様がこんなことを呟いた。
「確か、今回は70年ぶりらしいですね」
「実は、夜空が綺麗に見える良い場所を知っているんだ。よかったら見に行かないか?」
どうしようか。
実を言うと、星空を見るのが好きなので、今日の流星群は見たいと前々から思っていたのだ。
アルバート様と一緒見るというのは少し気が引けるが、見たい欲には抗えない私はその申し出を快諾した。
「アルバート様が良いのなら、喜んで」
「じゃあ案内しよう。こっちだ、着いてきてくれ」
アルバート様に先導されるがまま着いていくと、この前アルバート様と密会したコテージがある湖に着いた。
前は昼間だったから気づかなかったが、こうして夜に来ると、物静かで雑音がなく、夜空も空気が綺麗なおかげかはっきりと見える。
確かにここなら、流星群を見る絶好のスポットだろう。
私が湖の側に腰を下ろすと、アルバート様も私の隣で胡座をかいた。
……なんだか座り方に違和感を感じる。
何と言うか、幼いというか、年相応の男の子のような座り方をしていて、いつものアルバート様からは想像できない座り方だったので少し驚いてしまった。
そんな私の心境を察したのか、アルバート様が口を開いて、
「僕は昔から、ここでこうやって星空を眺めている時だけは、「ローズウッドの第一王子」としての自分を忘れる事ができるんだ」
目を伏せながら、アルバート様はそう言った。
一国の、しかも第一王子となると両親や世間からの注目も多い。
正に一挙手一投足が常に見られ、評価されるような生活をずっと続けるなんて肉体的にも精神的にもくるだろう。
いくら凄まじい才能を持っているとはいえ、アルバート様だって1人の人間なんだから。
アルバート様の言葉を聞いて、どんなことを言えば良いか正解がわからなかったので、何も言わずにただアルバート様の隣で星空を見つめていた。
しばらくすると、視界の端で何かが一瞬光ったのが見えた。
そう認識してまもなく、視界いっぱいに刹那の光が広がって消えていってを繰り返し始めた。
流星群だ。
「星が綺麗ですね」
私が素直に思った感想をそのまま言うと、アルバート様はとても驚いたような顔をしてこっちを凝視していた。
「……君は、意味を知った上でそう言っているのか?」
「?意味とは?」
「いや、何でもない。こっちの話だ」
会話はそれっきりで、その後もしばらく、私とアルバート様は流星群が降るのを見続けた。
時間が気になったので時計を見ると、もう22時を過ぎていた。
そろそろ帰らないと、私もアルバート様も心配されてしまうな。
「アルバート様、もう遅いですし、そろそろ帰りましょう」
「もうそんな時間か……シャルル」
「?」
「星が綺麗だな」
アルバート様はなぜか、頭上の星空ではなく目の前の私を見てそう言った。
それが何だか気恥ずかしくて、けれどもちょっとおかしく思えてしまって私は逃げるように上を向いて、先ほどと同じように素直な感想を言った。
「はい、綺麗ですね」
私の答えを聞いて、アルバート様はとても嬉しそうにはにかんだ後、立って私の前に手を差し出してこう言った。
「さぁ、帰ろうか、シャルル」
「はい」
少し迷った後、私はその手を掴んで立ち上がった。
投稿遅れてしまい申し訳ありません!




