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「ま、魔力の抹消……?」
ありえない。
魔力は生命エネルギーからつくられ、私たちが生きて呼吸している限りは絶えず生み出され続ける。
それは魔物にだって共通する事だし、心臓を取り出すくらいのことをしないと身体から魔力を完全になくすことはできない。つまり魔力が消える=死だ。
私が驚きのあまり口が塞がらないでいると、イヴェリッチ先生はさらに話し続けた。
「あぁ、そうだ。知っての通り、黒魔石は高密度の魔力を有している。それがなぜだか、考えた事はないか?」
「鉱石そのものが、魔力でできているからでは…?」
「違う。黒魔石は、周囲の大気や生物から生命エネルギーごと魔力を吸い取って輝くようになる。だから黒魔石の周りにいると、体内の魔力が吸い取られていくのだよ」
そんな筈はない。もし事実だったとしても、それならとっくに黒魔石についての研究が数多くされている筈だ。魔力を吸収するなんて命を削られるのにも等しい危険なものを、世界が放っておくわけがない。
「でも、そんな稀有な特性があるならすでに発見されているはずでは?今まで誰も気づかなかったなんてこと……」
「黒魔石の殆どは、大気の魔力を吸収して完全な状態で存在している。魔力を全く吸っていない、天然の黒魔石なんてものはそう簡単に見つけることはできないだろう」
「ではなぜ、イヴェリッチ先生は黒魔石が魔力を吸収しているとお気づきに?」
「……黒魔石は、ある条件下で天然の状態に戻るのだよ…だけど今はそんなことはどうでもいいんだ!!」
なんだ、急に様子が変わった……!!?
「倉庫から黒魔石を盗み、罪もなすりつけることに成功した私に今必要なのはサンプルだ!!そう、君と言うサンプルが必要なんだよ、シャルル・レインコート」
「…………は?」
倉庫から盗んだ?罪をなすりつけた?いやそれよりもなぜ、私の名前を……!?
正体がバレていたことに唖然としていると、急に頭がくらくらして、体に力が入らなくなり椅子から滑り落ちてしまった。
「そろそろ魔力が底を尽きる頃かな?あぁ、"あの時"黒魔石に目印をつけておいてよかった、おかげで貴重なサンプルが手に入るなんて」
"あの時"?もしかして、バーの前で黒魔石を落とした時のことか?
確かにあの時、拾った時に微量な魔力を感じたけど魔法石から発せられてる魔力だと思って何の疑問を持たなかった。
まさかあれも罠だったなんて……!
気づけば扉は魔法で施錠されており、その上私の周りはシャボン玉のような膜で覆われていた。
これは………水泡の檻か。
水の鉄壁を応用した、全方向の外部からの攻撃を防ぐまさに一般的な防御魔法の上位互換として知られる魔法だ。
ただし、バブルを出現させる座標を決めてから魔法を発動する必要があるので一度出したバブルは動かせないのが不便なところだ。
また、その性質から逃亡防止用に使う足止めなどとしても使われている。
もちろん魔力消費は一般の防御魔法より多いが、この魔法は使えば死角はなくなるので、戦闘では重宝されている。
「バーで私と同じ格好をしていた君と出会った時、私は素晴らしいアイデアを思いついたんだ。黒魔石に魔力を込めて、君にわざとイヤリングを見せれば、きっと君は私が犯人だと怪しむだろうと。そして君は、きっと自分の無実を晴らすために私に直接会いに来る。それを利用して君というモルモットを手に入れると言う計画をね」
イヴェリッチ先生は恍惚とした表情をして捲し立てるように話し続ける。
「今、この部屋の床には天然同然の黒魔石が大量に埋め込まれている。さて、一体あと何分で、君の魔力は底をつくんだろう?あぁでも、色変魔法のせいで魔力の消費が大きいから、そんなに時間はかからないかもしれないな。ほら、色変魔法が解けている」
イヴェリッチ先生の言った通り、黒魔石によって魔力を吸われ続けていたせいで私にかかっていた色変魔法が解けてしまっていた。
正体がバレていたとわかった今、元の姿に戻ろうが大した問題はないが、このまま魔力を吸われ続けるのはまずい。
何とかして魔力が尽きる前にイヴェリッチ先生を捕まえて魔法を解除させないと…!
そう思って拘束魔法を発動するが、黒魔石の影響で魔力を上手く練ることができない。
「無駄な抵抗はよすんだな。今魔力を消費することは、懸命な判断とは言えない」
「くっ……地獄の業火…!」
ゴォォォオ!
せめてバブルに傷をつけられればと思い、炎で水疱を蒸発させようとするが、水の層が厚くて中々内側まで蒸発させることができない。
「地獄の業火、地獄の業火、地獄の業火……!」
5回、10回と何度も続けて撃つが、再生が早いせいでバブルに穴一つさえあけることができない。
このままじゃジリ貧だな……早く壊さなければ…!
「無駄だと言ったのが聞こえなかったのか?まぁいい。君がいくら足掻こうが、最後には魔力が尽きて死に、わたしの崇高な研究の糧となるのだからな!」
イヴェリッチ先生の言うことなんて構わず私は魔法を撃ち続ける。
「……地獄の業火、地獄の業火っ……!」
「だから無駄だと………待て、何故そんなに何度も撃つことができる?基礎魔法とはいえ、そう何度も撃っているならとっくに魔力は尽きている筈だ。その上色変魔法で既に多量の魔力を消費しているのに……!?まさか!?」
「気づくのが少し遅かったようですね…地獄の業火!」
何十回も灼熱の炎に炙られ続けたバブルは、ついに"魔力でいっぱいになった黒魔石"ごと弾けて壊れた。
私は砕けた黒魔石を口に入れて噛み砕く。
するとみるみるうちに身体中に魔力がめぐり、力が漲るのが感じられた。
やはり私の予想通り、黒魔石は体内に直接摂取することで黒魔石に蓄えられた魔力を得ることができる!
「まさかバブルを攻撃するフリをしながら床にある黒魔石に魔力を注入してたなんて……!?黒魔石に魔力を注入しきる前に魔力が尽きていたら、死んでいたんだぞ!?こ、こんなの、正気の沙汰じゃない!」
「『女神様に見放された一族』の人間がマトモだとでも?さぁ、形勢逆転ですね」
私はイヴェリッチ先生に杖を向け、拘束魔法を構築するために魔力を練り始める。
「くそ、くそ!!!途中まで全てうまく行っていたのに!全てが!完璧だったのに!!あの時お前に目をつけていなければ、あの時、お前に会っていなければ!!」
なんて見事な責任転嫁だろう。
怒りを通り越して呆れて何も言えない。
「恨むなら、罪を犯した挙句他人にその罪をなすりつけ……ようとした自分を恨んでは?」
それを聞いてイヴェリッチ先生はさらにひどく顔を歪ませる。
あぁ、でも、
「あの時、私に出会ったのが運の尽きでしたね」
術式の構築が完了した。あとは詠唱するだけだ。
「誠実な束縛」
「クソクソクソクソ!さ、神の雷!!」
バチッ!!!!!!!
「!!」
しまった、拘束魔法が弾かれてしまった。
その上相殺しきれなかった攻撃が私の目の前まで迫ってきて………!?まずい、死ぬ!
「赫々たる矢」
バチッッッッ!!!!
無数の光の矢によって、さっきまで目と鼻の先にあった雷は撃ち落とされていた。
私はすかさず、今度こそイヴェリッチ先生に拘束魔法をかける。
「誠実な束縛」
拘束されたイヴェリッチ先生は床にへたり込み、泡を吹いて気絶寸前だった。
計画も失敗に終わり、最後の抵抗も虚しく散ったのがよほどショックだったのだろう。
「危なかったな」
ふと横に目をやると、そこには先ほど私を命の危機から救ってくれた人物――アルバート様が立っていた。
「……助けてくれてありがとうございました」
「今回はやけに素直だな?憎まれ口の一つくらい言われると思ったんだが」
「命の恩人にそんなこと言うわけないでしょう。アルバート様じゃないんですから」
「前言撤回だな。何はともあれ、無事でよかった」
アルバート様と会話していると、体に違和感を感じた。
…………?頭がぼんやりする……アルバート様の顔もぼやけてよく見えないような……
「――シャルル!おい――聞こ―――か?」
うーん………意識が…遠く………
「シャルル!」
そのままバタン!と私は倒れてしまった。
すみません、学業と執筆との両立が難しく、エピソードの更新が2〜3日に1話ほどになりそうです。本当にすみません!!




