10 調査2日目(1)
朝が来た。
今日はアルバート様と待ち合わせをしているから、それまでは郊外にある図書館でイヴェリッチ先生の論文と、黒魔石について調べるとしよう。
王都にある図書館に行ってもいいが、あそこは古書の品揃えが悪いので黒魔石に関する研究資料も少ないだろう。
黒魔石は知名度の低い魔法石なので、研究している学者の数が少なければ黒魔石の詳しい性質について記されている資料の数も少ない。
特に近年では魔法石などの自然生成物よりも魔法の構築術式の発展に注力されているのでなおさら古い文献を調べる必要があるのだ。
私は身支度(変装)を済ませ、玄関の掃除をしていたアシュリーに夕方まで戻らないことを伝えて家を出た。
使用人たちには、私が尋問官との交渉の後、家に帰ってきた時に事情を全て話している。
最初こそ私の置かれた状況に驚いた彼らだったが、すぐに「まぁいつものことか」と慣れたように冷静になり、何なら私を嵌めた真犯人への恨み節を吐いていた。
まぁ、私が今まで経験してきた不運と比べれば、今回の事件も我が家にとってはちょっとしたハプニング程度の認識なのだ。
我が使用人ながら恐ろしいほど強かである。
そんなことを考えながら歩いていると、いつのまにか知らない森の中で1人彷徨っていた。
困ったな。何となく予想はできていたが、やはり道に迷ってしまったか。
目的地である図書館――アーシェンド民営図書館は前にも言った通り郊外にあり、そこへ行くには国の東の方へと進み続ける必要がある。
ローズウッドは主に五つの地域に分類されており、中央の王都サニーサイド、北のノーラント、南のコーラナイン、西のカルマス、そして東のアーシェンドがある。
ただ東に向かうだけで図書館に着くならよかったのだが、サニーサイドとアーシェンドの間には巨大な森林が2つ、向かい合うように存在しており、図書館へはその2つの森の間にある一本道を通り抜けるのが最も安全で確実なルートだ。
とは言っても、アーシェンドは魔獣が多く危険なのもあって、まだ未開拓なので道の整備も当然されていない。
しかもその一本道は狭く見つけるのも一苦労なため、私が森で迷う確率はほぼ100%と言っても過言ではないのだ。
「グォォォオオオ!」
ほら、早速魔獣が出てきた。
トカゲみたいな乾いた鱗に鳥みたいな鋭い爪、これはコカトリスだな。
コカトリスはこちらを威嚇しているようだ。
私が眠らせようと睡眠魔法の術式を構築し始めると、その魔力を完治したのかこちらに向かって襲いかかってきた。
はぁ、仕方ない。できるだけ魔獣は倒したくなかったんだが……
「神の雷」
ドォォォオオン……!
凄まじい音と共に、高圧の電気の圧縮攻撃によって体を貫かれたコカトリスは、そのまま倒れていった。
どうしよう、このまま死体を放置しておくのも魔獣が寄ってきて危険だし、ここは食べるしかないか。
創造魔法で簡単な銅鍋とナイフを生成し、コカトリスの足や首を切り落として残った胴体を捌く。
コカトリスの肉を使用した鍋は、王都でも食べられるほど人気がある。
薪をくべ火おこしの魔法で火をつけて湯を沸かす。
そこに捌いたコカトリスの胸肉とそこら辺に生えていた薬草を入れて肉に火が通るまでしばらく蓋をして煮る。
なんの出汁も調味料も使ってないが、コカトリスの肉から出た旨味だけで十分美味しくなる。
頃合いになったので、蓋を開けて鍋の様子を見る。
うん、いい感じに出来上がっているようだ。
早速出来上がった鍋を食べてみる。
捌いた時にはあったコカトリスの肉の臭味も、薬草と一緒に茹でたことによって消されて肉の旨味だけが残されている。
つまりとても美味しい。
あっという間に食べ終わってしまい、火の後始末をして再び図書館へ歩みを進めようと立ち上がる。
その後も何度か魔獣に襲われその度に調理して食べていたので図書館へ到着する頃には胃が破裂寸前になっていた。
流石にちょっと食べすぎたな……
おぼつかない足取りで中へと進む。
まずは黒魔石について載った本を探そう。
……しばらく探したが、どの図鑑や資料も黒魔石については教科書と同じくらいの基本的な情報しか載っていなかった。
例えば今見ている本にはこう書いてある。
黒魔石
高密度の魔力が固まった、魔法石の一種。
標高の高い山岳地帯にある鉱山にしか存在しておら ず、希少性は高いがこれといった特性はない。
うーん、ここまで何も載ってないとなると、ますますイヴェリッチ先生がこれを盗んだ理由がわからなくなってくるな。
固まった魔力は石を砕いても溶かしても霧散してしまい、黒魔石はただの石に変わるため、本当に何の価値も利用性もない魔法石だ。
とりあえず黒魔石のことについてはおいといて、次はイヴェリッチの論文を探すとしよう。
ローズウッドでは、研究者が発表した論文は全て図書館で保管され一般の人もみれるようになる。
しかし論文を見る人は少なく、保管にもスペースや適切な管理が必要になるので、王都の図書館ではなくこっちの図書館で主に保管されている。
しかもこの図書館はご丁寧にも五十音順に並べてくれているようだ。
い、い……あった。
『高山で採掘される魔法石の特性』
見たところ普通のテーマだが、とりあえず読んでみよう。
高山で自然生成される魔法石には、みな高い魔力が含 まれており、中でも黒魔石に含まれる 魔力の量は他 の魔法石と比べても群を抜いて多いこと がわかっ た。しかし、これほどまでに高い魔力を保有している がら、黒魔石からはこれといって強い魔力を感じるこ とができない。このことから私は、ある一つの仮説を 考えた。それは――
ここから先のページは破られており、ここまでしか読むことができなかった。
おそらく破ったのはイヴェリッチ先生本人だ。
自分の論文が図書館に保管されていることを思い出し、慌ててここへ来て見られたらまずい部分だけ破って持ち帰ったんだろう。
一体続きには何が書かれていたのか……気になるところだが続きは本人に明日、直接聞くとしよう。
さて、そろそろ時間だ。
論文を本棚に戻し、図書館から出て王都へ戻った。
*10/29編集済み




