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第32話:行列を作る騎士団と、村の日常


 セレナ皇女が「諦めない」と宣言してから数日。リーフ村の入り口には、前代未聞の光景が広がっていた。

 村の素朴な農家が並ぶ街道に、白銀の甲冑に身を包んだ公国の精鋭騎士たちが、整然と「列」を作っていたのである。


 その光景は、あまりにも異様だった。

 列の先頭には、重い農具を持った村の老人がいる。そのすぐ後ろに、一国を代表する聖騎士が直立不動で並び、その後ろには、お腹を壊した子供を抱えた母親が並んでいる。


「……おい、公国の騎士様。そんなに肩を怒らせて並んでると、アルスさんの家の花壇を踏んじまうぞ」

「む、申し訳ない。……しかし、これほどまでに並ばねばならんとは。アルス殿の御力、聞きしに勝る……」


 騎士たちは、セレナ皇女の「村人と同じように並べ」という厳命を忠実に守っていた。

 アルスの屋敷の工房では、窓の外の騒がしさを余所に、いつものように薬草の煮えるいい香りが漂っていた。


「……ねえ、リリス。やっぱり、あの人たちを並ばせておくのは少し申し訳ない気がするんだけど」


 アルスは小瓶にポーションを詰めながら、外の様子を気にするように言った。


「馬鹿を言え。お前の貴重な時間と技術を、権力に任せて横取りしようとする不届き者たちだ。これくらいは当然の礼儀だろう」


 リリスは腕を組み、窓から騎士たちを「監視」している。彼女が時折放つ魔族の威圧感のせいで、並んでいる騎士たちは一歩も列を乱すことができずにいた。


 そこへ、列の順番が回ってきた一人の騎士が、うやうやしくアルスの前に跪いた。


「アルス殿! 公国第一皇女セレナ様の名において、参りました。……我が国の聖地にある『世界樹の苗』が、近年その活力を失っております。どうか、これに注ぐための浄化液を調合していただきたい!」


 世界樹の苗。それは公国の信仰の象徴であり、大陸の魔力を安定させる要の一つと言われている。

 アルスは差し出された「枯れかけた苗の枝」を手に取った。


「……うーん、これは病気じゃないですね。単に、この地域の土壌の魔力が濃すぎて、根が『食べ過ぎ』で詰まっているだけです。……ちょっと待ってくださいね」


 アルスは棚から、昨日作ったばかりの「余り物」のポーションを取り出した。それは、村の庭の雑草を抜くために作った、魔力分解用の薬剤だった。


「これを一滴、お水に混ぜてあげてください。溜まった魔力を綺麗に流してくれるはずです」

「な、何だと……? 国中の魔導師が何ヶ月もかけて解決できなかった問題を、その……『余り物』のような瓶一つで……?」

「あはは、原理は同じですから。お代は村の入り口にある募金箱に、気持ちだけでいいですよ」


 騎士は震える手でポーションを受け取り、深々と頭を下げて去っていった。

 その様子を、少し離れた場所に停めた馬車の中から見ていたセレナ皇女は、扇子で口元を隠しながら不敵に微笑んだ。


「……やはり、規格外ですわね。私の見込み通り、彼はこの大陸の『法則』そのものを書き換えてしまう存在だわ」


 セレナは馬車を降り、優雅な足取りでアルスのもとへ歩み寄った。彼女の手には、公国の国宝級の魔導書が握られている。


「アルス様。列に並ぶのは、騎士たちに任せましたわ。……私は今日、あなたに『商談』ではなく『挑戦』をしに来たのです」

「……挑戦、ですか?」


 アルスが不思議そうに首を傾げると、セレナは魔導書を開き、そこに記された古代の数式を見せた。


「我が公国に伝わる禁忌の錬金術……その『最高傑作』とされるポーションを、私は今日ここで調合してみせます。もし私の作ったものが、あなたの作るものより優れていたら――その時は、公国へ来ていただきますわ」

「……ええっ!? そんな勝負、僕したくないですよ!」

「あら、逃げるのですか? 『聖者』とまで呼ばれる方が」


 セレナの瞳には、知的な探究心と、強い対抗心が燃えていた。

 彼女はアルスを力で従わせるのではなく、同じ「術者」としての実力を認めさせ、心から公国へ招こうとしていたのである。


「面白そうではないか、アルス。受けて立て」


 リリスが横から茶々を入れる。彼女は、自信満々の皇女がアルスの「平然とした異常性」に圧倒される瞬間が見たくてたまらないのだ。


「リリス……。……分かりました。勝ち負けには興味ありませんが、皇女様が納得してくれるなら、お付き合いします」


 こうして、リーフ村の小さな工房で、大陸最高峰の聖魔導師と、追放された無自覚な聖者による「ポーション勝負」が始まろうとしていた。


 周囲には公国の騎士たちや村人たちが集まり、誰もが固唾を飲んでその行方を見守る。


 しかし、アルスはいつも通り、使い古した鍋を火にかけるだけだった。


「ええと……それじゃあ、僕は何を作ろうかな。……昨日の夜、リリスが『最近少し肩が凝る』って言ってたから、それを治すポーションでも作ろうかな」

「……は!? 皇女殿下の禁忌錬金術に対して、肩こり薬だと!?」


 騎士たちの驚愕の叫びが響く中、アルスの【真・調合】が静かに、そして黄金の輝きを放ちながら起動するのだった。


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