遊と英子の出会い 其の3
保健室に残された遊とベッドの女子生徒。話を切り出したのはベッドの女子生徒でした
「どうやら、お嬢さんに危ういところを救われたみたいだね。どうもありがとう。わたしは米村英子よ。英子の”英”は英語の”英”よ。よろしくね」
「ああ、はい。あたしは立林遊です。”遊”は遊ぶの”遊”です。こちらこそよろしくお願いします」
「遊さんね。素敵な名前じゃあないやっぱり遊びがあってこその人生よね」
「はあどうも、えっと、英子さん、でいいですか」
「ええ、それでいいわ。わたしも遊さん、と呼べばいいの?」
「は、はい、英子さん」
「それにしても、つくづく遊さんみたいな過労への対処方法を心得ているお嬢さんがいてくれて助かったわ。あっ、ごめんなさい。実はね、さっきまで遊さんと柄見先生がこの保健室でしていた話ね、最初から聞いちゃっていたの。本当のところはね、この保健室のベッドに寝かされたあたりからね、意識は戻っていたのよ。でも二人の会話が結構楽しくてね、つい横になったまま聞き耳を立てちゃっていたの」
「そうだったんですか、英子さん。でもまあ、聞き耳はともかく、そのまま横になっていたっていうのは全然構わないと思いますよ。意識が戻ったってすぐ起き上がることはとっても危険ですからね。だけど、英子さん、あたしと先生との話聞いていたんですよね」
「そうだけど、どうしたの、遊さん。突然怖い顔しちゃって」
「さしてさっき、過労への対処方法とも言いましたよね、英子さん」
「言いましたけども、遊さん。ええと、わたし、何かまずいことをしちゃったかな」
「で、英子さんが保健室に担ぎ込まれる前に外にいて、英語で数を数えていましたよね。あれはひょっとして、落語の『時そば』ですか? 『時そば』を英語でやってたんですか」
「そうよ、遊さん。お嬢さん、落語がわかるの? 若いのにずいぶんまた渋いじゃあない」
「あたしのことはどうだっていいんです、英子さん。となるとですね、あたしの見たところ、英子さんは寝る間も惜しんで、落語のお稽古に没頭して、その結果、睡眠不足で貧血を起こして倒れたと思われるのですが、どうでしょうか」
「すごい、遊さん、大正解。名探偵みたい。女子高校生ホームズといったところかしら」
「あたしは別に推理を誉められたいんじゃあありません、英子さん。それに柄見先生が、英子さんのところにまず駆け付けたのは柄見先生なんですが、その時先生ったらさんざん言っていましたよ。やれあれだけたしなめたのにとか、やれ人の気も知らないでとか。後で先生にきちんとお礼言ったほうがいいですよ。ああ、その前に説教されちゃうのかしら」
「いやなことを言ってくれるわねえ、遊さん。けど、わたしとしては、その推理力の源をぜひともご教授願いたいんだけどねえ」
「別に大したことありませんよ。英子さんだってあたしと先生の話を聞いていたんだったら想像つくんじゃあありませんか。あたし、中学受験の時無理がたたって体を壊したって言ったでしょう。それで倒れている英子さんの様子を見て何となくわかったんです。この人、あの時のあたしと同じだなって」
「なるほど、おみそれしました、遊さん。全くもってその通りです。わたし、落語のこととなると、ついつい寝るのも忘れちゃうのよねえ」
「あたしの経験から言わせてもらうとですね、英子さん。やっぱり寝るときはしっかり寝たほうがいいですよ。そりゃあ、睡眠時間を削ってその分を落語の練習に回したら、その分は芸の向上になる間も知れませんけどね、結局すぐにそのつけが自分に戻ってきちゃいますよ。無茶のしっぺ返しで体調崩して、結果としてマイナスになっちゃいますよ。目先の利益をとるか、長期的なものの見方をするか、どっちを取るかといったところですね。英子さん、もうすぐ、発表会か何かあるんですか。それに備えってことなら、多少の無茶も仕方がないような気がしますが」
「いいえ、そんなことはないわ、遊さん。仲間内でちょっとしたものを見せ合うだけよ。遊さんの言う通り、やりすぎはよくないってわかってはいるんだけどねえ」
「すいません、英子さん。生意気なこと言っちゃって」
「いえ、遊さんが謝ることはないわ。むしろわたしは感謝しているのよ。遊さんがわたしを心配してくれていることはよくわかるし、実際問題、遊さんにわたしは救われているのだから」
「救うだなんて、あたし、そこまでのことをしたわけじゃあないですよ、英子さん」
「そこまでのことをしてくれたのよ。借りができちゃったわね、遊さん」
「借りだなんて、そんな……」
英子のお礼に遊は照れ臭くなってしまいます。




