高子と和枝の勝負 其の10
怜先生が、高子と二人でやった柔道技の実演の感想を、見ていた遊達三人に求めると、遊がそれに答えます。
「そうですね、最初は、高子さんが練習では、サゲに、ブリッジからのバク転を持ってくると言っても、ピンとこなかったんですが、先生と高子さんが裏投げをしてくれたのを見て、最後に、裏投げの動きを、派手にやって見せた、ということがわかりました。確かに、和枝さんとの勝負という前提がないのなら、こちらの方が、高子さんの『出来心』のサゲとして、話の流れに沿っていると思います」
「そうか、英子君に、和枝君はどうかな」
「わたしも、関節技や絞め技は、二人でやってくれた方がわかりやすいな」
「僕も、遊君や英子君と同意見だ。ただ、高子君が、自分で創作した話はよくできていると思う」
「あ、ありがとう、和枝君」
和枝に、『出来心』の話の筋を褒められて、照れ臭そうに礼を言う高子です。その顔がうっすら赤くなっているのは、散々怜先生に痛めつけられたからだけではないはずです。そして、怜先生が話しをまとめます。
「まあ、高子君の『出来心』に限らず、落語の話を、実際に多人数でやる演劇としてやるのも、落語の勉強になるかもしれないね。ああ、でも、君たちみたいな、授業で柔道をかじった程度の女の子が、絞め技や関節技を生兵法でやって、怪我でもしたら大変だなあ。高子君、高子君の『出来心』は、何人かでやるのは控えた方がいいね。特に、遊さんは編入したばかりで、まだ柔道の授業を受けてもいないんだからね」
「そうよ、高子。遊ちゃんに、あんな関節技とか絞め技とかの、過激なことしちゃあだめなんだからね。大体、キスシーンとかも出てくるじゃない。一人芝居の落語ならともかくとして、遊ちゃんと二人でキスシーンだなんて、いけません。断じていけません」
「まあ、中心となる男が襲ってキスをする相手と、柔道技をかけあう警察官は、別の人物だけどね、英子君」
怜先生の高子への忠告に、乗っかった英子ですが、その勘違いを怜先生に指摘されます。
「それで、高子君に和枝君。話が横道に逸れたけど、もう一回聞くよ。二人は、お互いの落語、どう思ったかな」
怜先生の質問に、まず高子が答えます。
「和枝君の『初天神』は良かったと思う。でも、この高子さんの『出来心』もなかなかだったろう、和枝君」
高子がそう言うと、和枝も同様な答えをします。
「ああ、高子君の『出来心』はいい出来だった。だけど、僕の『初天神』も良いものだったと自負している」
高子と和枝が、お互いを認め合うところを、遊は嬉しそうに、英子も満足そうに見ています。そして、怜先生が、高子と和枝に言うのです。
「とりあえず、初回は高子君と和枝君は同点だったみたいだね」
「初回って、どういうことですか、先生」
遊の問いに怜先生は答えます。
「高子君が、この勝負を野球に例えただろう。で、いま表と裏が終わった。一回の表と裏のね。野球なら、基本九回まであるよ。高子君に和枝君、二人ともこれからもお互いに、切磋琢磨してくれよ」
怜先生がそう言うと、高子と和枝は、お互いに宣言し合うのです。
「和枝君、これからも、よろしく頼むよ」
「こちらこそだ、高子君」
そして、遊が最後に一言言うのです。
「でも、高子さん、スカートで、バク転みたいな、あんまり派手な動きをするのは、やめた方がいいと思います」
これで、一時中断させていただきます。なお、“落語花子”名義で、『偽装のカップル』という作品をカクヨムに投稿しています。よろしければ、そちらもぜひお読みください。




