歓迎会 其の2
そして、怜先生が遊に高子の落語を解説させるのです。
「で、遊君。内容を批評してくれないかね」
「批評と言われましてもね、柄見先生。地震が起きた後に、愛人のところに、主人が行くまではともかく、そのまま、愛人と一緒に、本宅に戻っちゃったじゃあないですか。愛人に、『せっかくだから、三人一緒にしちゃいましょぅ。僕と主人と男妻の三人で』なんて言わせちゃって。そのあと、権助さんまで、混じって、四人で、ずっと、朝まで、ろうそくまで使うだなんて、あんまりといえばあんまりです。もともとの『権助提灯』の要素が、ほとんどと言っていいくらいに、なくなっちゃってるじゃあないですか」
「いやあ、ごめんごめん、遊さん。この高子さん、ついつい興が乗っちゃってね」
「ついついじゃあないですよ。高子さんってば」
遊と高子が、小突きあっているところに、和枝が口を挟むのですが……
「ねえ、一ついいかな。遊君」
「えっ、何かな、和枝さん」
「男同士で、ろうそくをかけあって、熱がらせ合うことは、そんなに、遊君が眉をひそめてしまうようなことなのかい」
「ど、どういうことかな、和枝さん」
「ろうそくで暑がらせると言ったって、ちょっと近づけて、からかうくらいのものだろう。ろうをかけちゃったりなんかしちゃったら、火傷してしまうじゃあないか」
「そ、そうだね、和枝さん」
「バラエティー番組の、熱湯風呂みたいなものだろう。熱々になってそうなお風呂に、芸人を叩き落とす。当然、芸人は、『熱い、熱い』と大騒ぎする。周りがそれを見て大笑いする。でも、実際、熱湯に入れられるわけじゃあないんあろう。そういうてい、というだけであって。『ほらろうそくだ』って近づけるふりをして、『やめてよ、熱いったら』とおおげさに嫌がるように、子供がじゃれあっているみたいなもので。それが、問題になるのか。おや、どうしたい、遊君。そんな、申し訳ないというか、返す言葉もございませんというような顔をしちゃって、やや、高子君まで。けったいだなあ。ついさっきまで、散々、男同士、男同士とゲスな笑いをしていたくせに。男同士で、男女がいちゃらこちゃらするのをまねしてるだけだろう。ちょっとしたおふざけじゃあないか。それを、高子君ったら意味深な表情をして。元々の『権助提灯』の、少々ふしだらとも言える、男女の三角関係を、上手いこと、男の子のごっこ遊びに、変換したものだなあと、感心したんだよ」
和枝の、無垢であるがゆえに、自分達が汚れてしまっていることを、この上なく自覚させる質問に、遊、高子、怜先生はいたたまれなくなってしまうのです。
「うん、そうだね、和枝さん。男の子達が、真似っこ遊びをしているだけだもんね。ちっとも、怒るようなことじゃあないよね。ねえ、高子さん」
「その通りだね、遊さん。この高子さんの話したことと言えば、『地震だ、あんた、愛人のところに行っとくれ』『わかった』『大丈夫か、お前』『僕は大丈夫、それより、本宅に戻りましょう。僕も一緒に行きます』『わかった、さあ、帰ろう』『権助や、行くよ』『旦那様、あっしも混ぜてくだせえ。ろうそくもあります』『そいつはいい、四人で楽しもう』『おい、帰ったよ。四人でろうそくで遊ぼうじゃあないか』『おお、熱い、熱い』『楽しいなあ、時間が経つのも忘れちゃうよ』『そうだね』『もう夜が明けた』ぐらいだもんね。ねえ、先生」
「いやあ、これは、先生も予想外だったよ」
遊、高子、怜先生の三人のやりとりを、いぶかしげに見ている和枝ですが、ふと我に帰って、怜先生に一つの質問をするのです。
「それで、先生、次は僕の番ですか、だけど、昨日、先生が僕にやるように言ったやつは、英子君と同じ『権助提灯』じゃあないですか。いいんですか、同じ演目で」
「えっ、そうそう、そうだよ。同じ古典落語を、違う人間がやって、その比較をして楽しむ。というのも、一つの落語の在り方だからね。ほら、二番煎じだなんて言わないから、和枝君、よろしく頼むよ」
「そうかい、でも、あんまり自信ないなあ。そう期待しないでくれよ。遊君、英子君、高子君」
和枝に、そう言われて、遊、英子、そして高子は、素直な落語の楽しみ方をしようと心に決めたのです。
「そんなこと言わないでよ、和枝さん。あたしは、和枝さんが、落語をしてくれるだけで嬉しいんだから。そうだよね、英ちゃん」
「ああ、遊ちゃん、そうだとも。和枝が、遊ちゃんのためにらくごをする、それだけでいいんだ。そうだよなあ、高子」
「米村君のおっしゃる通りだ。さあ、和枝君、存分にやってくれ」
遊、英子、高子の三人に、言われるがままに、和枝は『権助提灯』をやり始めるのです。その出来栄えはというと、女子高校生が、一晩で仕上げたとすれば、こんなものだと言うか、そこそこと言うか、まあ、とりたてて上手いと言うわけでも、呆れるほど酷いというわけでもなく、可もなければ不可もない、それなりと言える出来なのでした。




