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積川和枝 其の7

そこに、例によって例のごとく、どんぴしゃのタイミングで、落語研究会に入ってくる人物が一人、怜先生です。


「おっ、ちゃんと揃っているじゃあないか。先生は嬉しいよ。英子君と高子君と和枝君の三人が揃うなんて、あまりない事だからねえ。それにしても、和枝君、なかなかに素敵な格好じゃあないか」

「あっ、先生、これは……」

「まあ、部室の中だったら、それで構わないだろう。それにしても、甚平かあ。その手があったのね。まあ、それはともかく、遊さんも来てるのね。どう、落語研究会は、気に入った?」


怜先生の問いに、優は頷きます。


「はい、英ちゃんも、高子さんも、和枝さんも、みんな素敵な話をしてくれちゃって」

「あら、三人とも、遊さんに、お話ししたのね。で、どうする、遊さん。落語研究会だけど、入る気ない?」

「えっ、そりゃあ、英ちゃん、高子さん、和枝さんの話がもっと聞けたらなあとは思いますけど」

「じゃあ、問題ないじゃない。現会員の三人も、それでいいわよね」


怜先生の問いに対し、三人はそれぞれ答えるのでした。


「そうよ、遊ちゃん。わたし、遊ちゃんが落語研究会に入ってくれたら、最高だと思うわ」


英子は、一も二もなく賛成します。


「まあ、遊さんには色々世話になったからな。この高子さんと一緒になってくれたら嬉しいよ」


高子も、遊には落語研究会に入って欲しいようです。


「遊君、その、甚平ももらっちゃって、僕の落語が、君への恩返しになるのだったら僕は、君に、もっともっと、僕の落語を聞いてほしい」


和枝は、恥ずかしがりながら遊を誘うのでした。


「だ、だったら、あたし、落語研究会に、入れてほしいです」


こうして、遊は落語研究会に入ることになったのでした。


「それじゃあ、新人の遊さんに、歓迎会をしなくっちゃあね。今日はもう遅いから、明日の放課後かしらね。いいかい」


怜先生の提案となります。聞いている四人が同意したと見ると、続けて、怜先生は、何かいろいろ書かれた一枚の用紙を取り出すのでした。


「それじゃあ、やることも決めちゃおう。英子君、ここに、古典落語の演目が、全部で八個書かれている。英子君はこの中の一つを、やって見せろと言われたら、できるかい」

「いつの間にこんなもの用意したんですか、柄見先生。えっと、どれどれ」


その紙に書かれている演目はこうでした。『寿限無』、『まんじゅう怖い』、『時そば』、『目黒のさんま』、『猫の茶碗』、『出来心』、『化け物使い』、『権助提灯』、の八個です。

それを見て、英子は一安心するのです。


「まあ、有名どころですね。全部知っている話ですし。今日のうちに復習しときますよ、柄見先生」

「そう、やってくれるのね、英子さん。で、高子さんは、英子さんの落語を聞いて、好きなことを喋ってくれて構わないわ」


怜先生の、高子へのリクエストを聞いて、英子は、露骨に嫌な表情をするのでした。


「げ、高子に、私の落語を好き勝手言わせるんですか。そんなの、めちゃくちゃにこき下ろすに決まっているじゃあないですか」

「何を言うんだい、米村君。この高子さんは、れっきとした、落語研究会の一員だよ。芸の批評に、私情は挟まないさ」

「どうだか。大体、高子、それじゃあ、私的な感情では、私のことが大嫌いってことじゃない」

「はっはっは、ご挨拶だなあ、米村君。わたくしは、私情は挟まないと言ったんだよ。私情というのは、何も悪意だけじゃあない。好意のことかもしれないんだよ」

「ふん、心にもないことを、言ってくれちゃって」


英子と高子の、やりとりを、怜先生が止めにかかります。


「まあまあ、二人とも、その辺にしておきなさいな。それで、和枝君、君には見せたいものがある」


そう言って、怜先生は和枝に、スマートフォンで動画サイトの、ある落語を見せるのです。


「和枝君、君にやってもらいたいのはこれだ。ああ、題名を口にしちゃあだめだよ。明日のお楽しみだからね。ま、夜通し稽古して備えろなんて言わないさ。そうだね、小一時間ほど、遊君のために練習してほしい。歓迎会のちょっとした余興だと思って、気楽にやってくれればいいよ」

「そうですか、わかりました、先生」


怜先生が、英子と高子と和枝の三人に、歓迎会で行うことを伝えると、遊がおずおずと尋ねるのです。


「あの、柄見先生。あたしは何かしなくていいんですか」

「ああ、遊君の歓迎会だからね。何も準備しなくていい。君に歓迎会で、何かしてもらおうとは思っていないさ」

「そうですか、わかりました」

「それじゃあ、四人とも、明日の放課後も、この教室に来てちょうだいね。先生もお邪魔させてもらうわ」


こうして、この日も過ぎて行くのでした。






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