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積川和枝 其の4

 和枝が、自分の落語を始めます。


「江戸時代の終わりには、日本にヨーロッパやらアメリカやらが攻めてきて、そりゃあ大変だったみたいだねえ。実際に戦争がおっぱじまったこともあったくらいで。薩摩藩、今の鹿児島県のところにあった藩ですが、そことイギリスがやらかしたんですなあ」


「大変でごわす、大変でごわす。鹿児島湾にエゲレスが攻めてきたたい」

「どうした、さっちゃん。そんなに慌てて、騒々しい」

「おお、みやちゃん。おはんも、そんな家に閉じこもって、そろばん何てはじいとる場合じゃなか」

「そんなこと言っても、わしは、天下のことなんてよくわからんし」

「そないなこと、言うとる場合じゃなか。大体なんじゃね、その言葉は、江戸に留学しちょる間に、すっかり、誇りたかあ、薩摩の言葉を、忘れおって」

「まあ、言葉のことは、置いといて、どうしたい、そんなに慌てて」

「それ、それじゃ、みやちゃん。向こうの海に、“軍艦”が来てるたい」

「へえ、“群環”が。さっちゃん、あんた、わしのことを、普段から、天下の一大事に、数勘定ばっかりしてる不届きものなんて言ってるくせに。さっちゃんも、数の世界に興味大有りみたいだね」

「みやちゃん、なんばいいよっとね。わしゃあ、“軍艦”が攻めてきた、ゆうちょろうが、そこを、なして、数の話になっちょおうね。そりゃあ、“軍艦”が何“隻”ちゅう数のことだって、考えにゃあならんけんども」

「だから、“群”と”環“の話だろう、さっちゃん。そうだよ、”群環“論には”積“が重要だからね」

「みやちゃん、おはんが”軍艦“の”隻“の数を気にすることもわかるでごわす。敵の戦力ば考慮するのも必要じゃ。けんども、今は、いくさをするかしまいかちゅう段階で、”隻“の数だなんて……」

「いいや、さっちゃん。”群環“において、”積“は無視するわけにはいかないよ。特に、”積“が交換可能かどうかという事は、非常に大事な事で……」

「みやちゃん、おはん、今、”軍艦“は交換可能と言ったでごわすか」

「あ、ああ、さっちゃん。そう言ったよ。さっちゃんも、九九くらいは知ってるだろう。九九の掛け算だったら、三五も、五三も、同じ十五で、前と後ろを入れ換えても、結果は変わらないけど、”積“においては、必ずしも、この交換の決まりが成り立つとは限らなくて、”群環“の話では、交換できるかどうかを考えなくては、始まらないと言っても過言じゃあなくて……」

「さっすが、みやちゃんたい。”軍艦“を交換するなんて、今の今まで思いもよらなかったたい。正直、エゲレスの”軍艦“なんて、壊して沈めるぐらいしか考えていなかったたい。我が薩摩がエゲレスと“軍艦”を交換するっちゃあ、こりゃあ、痛快たいなあ。幕府のやつの驚く顔が目に浮かぶでごわす。それで、みやちゃん。“軍艦”は何と交換すりゃあいいんでごわすか」

「“群環”における交換相手かい。なかなか、鋭い質問をするじゃあないか、さっちゃん。まずは、同じもの同士でやってみる事だね。例えば、壱かける壱をだね……」

「同じもの? そりゃあ、無茶な話でごわす、みやちゃん。薩摩にゃあ、エゲレスにやる“軍艦”なんて、ありゃあせん」

「薩摩に“群環”がない? ご挨拶だねえ、さっちゃん。現に今、わしらが“群環”について話しているじゃあないか。“群・環・体”を」

「おんやあ、みやちゃん。薩摩の言葉をどぎゃんしたかあ、おもっとったが、しっかり忘れておらんがなあ」

「えっ、何の話だい、さっちゃん。わし、薩摩弁なんて使ったかい」

「つこうたがねえ。みやちゃんが“軍艦たい”って」

「“群・環・体”が薩摩弁? どういう事だい、さっちゃん」

「だから、“軍艦たい”は薩摩弁たい」

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