積川和枝 其の1
遊と高子が出会った翌日の放課後となりました。またもや遊の教室で一騒動起きようとしています。
「遊ちゃん、遊ちゃん。放課後よ、待ちに待った放課後よ。遊ちゃんを連れて行きたいところがあるの。さあ行きましょう。わたしと遊ちゃんの二人で行きましょう。今すぐに行きましょう」
相変わらず、遊のこととなると、俄然積極的になる英子なのですが、そこに、案の定というべきなのか、邪魔が入ります。黄色い歓声を従えて。
「さあ遊さん、編入したばかりで、この学園内にはいろいろ不案内だろう。この高子さんが、遊さんをご案内しようじゃあないか。さあ行こう。わたくしと遊さんの二人で行こう。今すぐに行こう」
英子と高子が、遊に関し、火花を散らして、さや当てを始めます。
「何事よ、高子。わざわざ、他のクラスのあんたに出向いてもらわなくても結構よ。遊ちゃんは、同じクラスのわたしが面倒見るんだから」
「いやいや、そんな、クラスは違えど、同じ海応学園の生徒じゃあないか。全てスターであるわたくしに任せてしかるべきなんだよ」
「いえいえ、そんな、学園のスター様に、そんなご足労をかけるわけには参りません。ここは、わたしの担当でございます」
「ご足労だなんて、そんな、この高子さんにとって、遊さんを案内することが、義務みたいな物言いじゃあないか。わたくしは、ただ、遊さんを案内できるという、素晴らしい権利を行使しようとしているだけなのに」
英子と高子は、しばしにらみ合った後、英子は遊の右手を、高子は遊の左手をとって、教室を連れ出すのでした。
「遊ちゃん、行きましょう」
「遊さん、行こうじゃないか」
「ええ、英ちゃん、高子さん、引っ張らないでください。痛いです」
三人が去った後の教室では、高子のファンが、思い思いのことを言い合うのでした。
「まあ、高子様ったら、編入生を自分から案内してあげるなんて、やっぱり高子様は高子様ねえ」
「ですが、もう一人、編入生さんを案内しようとしていませんでしたか?」
「そうですね。でも、あのかたは、いつもよくわかりませんわ」
遊を引っ張って連れて行く英子と高子です。どうも、二人とも目的地は同じのようです。どうやら、二人は校舎の人気のないところに、遊を連れて行こうとしているみたいです。
「あの、英ちゃん、高子さん、そんなに引っ張らなくても、あたし、お二人についていけますから……」
抗議する遊でしたが、その声は英子にも高子にも届いていないようです。英子と高子の二人は、廊下にあるものが点々としていることに目を釘付けにしています。靴下、スカート、カッターシャツ、そして制服の上着。英子と高子は遊の手を離して、とある教室に駆け出して行きます。きっちり、廊下に脱ぎ捨てられた、衣服を回収しつつ。
「あの子ったら、あれほど言ってあるのに、行くわよ、高子。ほら、わたしはスカートを持っていくから、そっちはカッターををよろしく」
「カッターね。おっと、気安く命令しないでくれたまえ、米村君」
「えっ、その、待ってください、二人とも。英ちゃん、高子さん」
走って行く英子に高子。そして、その後ろをついて行く遊。三人はある教室に到着し、高子がドアを開けます。その教室の中には、下着しか身につけていない少女が、パソコンに向かってキーボードを叩いていました。その少女は、今しがた教室にやってきた三人を目にすると、自分の姿に恥ずかしがることもなく、問いかけるのでした。
「これは、これは、英子君に高子君ではないか。おや、見知らぬ女子も一人いるね。どうしたんだい、そんなに慌てて」
下着姿である少女の、悪びれもしないその物の言いように、まず英子がくってかかります。
「いいから、和枝。とっとと制服を着なさい。こんなところ、怜先生に見つかったら、えらいことになるんだからね」
更に、高子も同様に、言葉を続けます。
「そうだぞ、和枝君。わたくしと米村君がだね、君のこのような有様をだね、他の人間の目に触れないよ言うに、どれほど気をもんでいることか」
普段は、顔を突き合わせると、すぐに口論となる英子と高子なのでしたが、この下着姿の女の子のこととなると、妙に息が合う様子です。英子と高子は、その下着姿の女の子を押さえつけて、無理やり、制服を着させようとします。
「やーだー、そんなもの、僕は着たくない。僕の好きにさせてったらー」
その下着姿の少女は、力のあらん限りを尽くして、抵抗しますが、英子と高子の、二人がかりにかかっては、何ともなりません。
「ほら、米村君。この高子さんは両手を押さえつけているから、君は両足だ。ささっと、スカートをはかせちゃってくれ」
「そっちこそ命令しないでよ。それにしても、まったくもう。世話が焼けるったらありゃしない。はい、はかせたわ」
「よし、お次はこちらの番だ。ほら、和枝君、暴れない、暴れない。服を着させにくいだろう。さ、じっとして、天井のシミでも数えていなさい。おとなしくしていたら、すぐに終わるから。君は何もしなくていいからね」
「こーとーわーる、英子君、高子君。二人とも、僕のような、いたいけな少女を押し倒して、手籠めにするだなんてことは、やめていただきたい」
しかしながら、少女は抵抗むなしく、英子と高子の二人に、しっかりと服を着させられてしまいます。上はカッターシャツ、下にはスカート。少女は、憮然とした態度で、ふくれっ面ををしています。
「僕の靴下は? 制服の上もないよ。英子君、高子君」
「靴下? 上の制服? それなら、廊下に転がっているんじゃあないの。少なくとも、わたしは持ってきちゃあいないわよ。あんたは、高子」
「米村君、わたくしも、そんなものにまで気をまわしていられる余裕なんてなかったよ。それにしても、何が靴下だい、制服の上だい、和枝君。ついさっきまでは、下着しか着ていなかったと言うのに、そんなこと言える御身分かねえ」
「ふんだ、大体僕は、本来なら、下着だって着たくなんかはないんだ。パンツはなんだか窮屈だし。ブラジャーなんて、僕みたいな体型には必要ないじゃあないか。英子君、僕は、君みたいな豊満な胸は、持ち合わせてはいないんだからね。僕はこの通り、ぺったんこなんだから」
話の矛先を、自らのバストに向けられて、英子は顔を真っ赤にしてしまいます。
「な、なんで、わたしの胸の話になるのよ。というより、和枝、いくらあなたでもねえ、学校で全裸になんかなられたら、それはあまりにも、あまりというものよ」
「そうだぞ、和枝君。君みたいな体型の女子でも、隠すべきものは隠したまえ。世の中には、さまざまな、趣味嗜好の人間がいるんだからね」
「うーるーさーい。着たくないものは着たくないの」
自分以外の三人が、くんずほぐれつしている様子を、ただ、見ることしかできなかった遊でしたが、ようやく、口を開いて、疑問を口にします。
「あの、英ちゃん、高子さん。 そちらの方はいったいどういったお方で……」
遊の問いを聞いて、今しがた、制服を着させられた少女が答えます。
「おお、それでは、自己紹介させてもらおう。見知らぬ人。僕は、積川和枝という者だ。意義お見知りおきを」
「あっ、これはご丁寧に、あたしは、立林遊と言います。ここ海応学園に、この春から編入してきました」
「ほほう、編入生かあ。うちの編入試験は、結構な難関だと聞いているが、なかなかに優秀なのかねえ、遊君は、おっと、失礼、君付けなんてしてしまった。失礼だったかな」
「い、いえ。あたしは別に……でも、こちらこそ、その、ええと、積川さんの、恥ずかしいお姿を見てしまいまして」
「和枝、で構わない、遊君。それに、僕の下着姿なら、何の問題もない。僕はね、プログラムに興が乗ってくるとね、どうも体がほてって、服なんて脱いでしまう癖があるんだ。今日はここに来る途中に、いいアイデアが思い浮かんでね、廊下で制服を脱ぎ捨てながら、ここに来てしまった。そういうわけで、見たければ、いくらでも見せてあげよう」
そう言って、和枝は、制服を脱いで、再度下着姿になろうとします。そこを、英子と高子が止めに入ります。
「だから、やめなさい、和枝。ねえ、遊ちゃん、この子ね、この通り、すぐ裸になりたがる困った癖があるの。何とかできないかなあ。ほら、遊ちゃんは、あたしのことだって、助けてくれたじゃない」
「そうだ、いい加減にしておきなさい、和枝君。それでね、遊さん、この子の、少しばかり厄介な、この脱ぎ癖、どうにかならないかなあ。なんといっても、遊さんは、この高子さんの恩人なんだからね」
「ちょっと、どういうことよ、高子。遊ちゃんが、あんたの恩人だなんて。あんた、遊ちゃんに、何をさせたというのよ」
「米村君、別に君に話す義務なんてないよ。この高子さんと、遊さんだけの内緒のお話さ。それより、米村君。君だって、遊さんに助けられたと言ったね。いったいどういう事なんだい」
「それこそ、高子、あんたなんかに言う必要なんてないわ。わたしと、遊ちゃん、二人だけの秘密なんだから。絶対に教えてなんかやんないんだから」
「なにを!」
「なによ!」
今にも取っ組み合いを始めそうな、英子と高子を、遊がなだめに入ります。
「まあまあ、二人とも、落ち着いて下さい。それでですね、和枝さん、少し見てほしいものがありまして、明日、学校に持って来ますから、明日の放課後、またここにいてもらいませんかねえ。できれば、制服は着たままで」
「まあ、いいだろう。編入生である遊君への、初回特別サービスということにしてやろう」
「どうもありがとうございます、和枝さん。英ちゃんと高子さんも、とりあえず、それでいいですか」
遊の提案に、英子と高子の二人も、同意します。
「遊ちゃんがそう言うんだったら、わたしはそれで構わないけれど。でも、遊ちゃん、わたしと遊ちゃんの、二人だけの秘密、絶対に、他の人になんか、言っちゃわないでね。特に、この高子のやつには」
「遊さんがそう言うのなら、この高子さんに文句はないが。だけどね、遊さん、わたくしと、遊さんの、内緒のお話、何があっても、周りに言わないでおくれよ。とりわけ、この米村君には」
「まだ言うの!」
「まだ言うよ!」
「はいはい、わかったから。英ちゃんも、高子さんも。それじゃあ、また明日にしましょう。あたし、家に帰って、探し物をしなくちゃあいけませんから」
そう言って、遊はいそいそと、家路に就くのでした。後には、英子、高子、そして和枝の三人が残されたのですが、英子は失敗したと思ってしまうのでした。
「遊ちゃんと一緒に帰るんだった。そうすれば、高子のやつに、一泡吹かせられたのに」




