英子、高子を語る 其の3
「それにしても、“御手洗高子”、ううん、字面からして、憎たらしい」
遊の内心には、てんで気づかずに、英子は、高子へのいきどおりを口にします。
「字面ですか、英ちゃん。それは、いくらなんでも、“坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”なんじゃあないですか」
「違うのよ。遊ちゃん。この海応学園ではね、試験の成績の上位者はね、名前と点数が、張り出されることになっているのよ。順位は各教科の総合点で決まるけど、点数は、総合点もだけど、各科目ごとの点数も掲示されるのね」
「ああ、高子さんがその上位者に名を連ねているわけなのね」
「そう、ちなみにわたしもよ、遊ちゃん」
「へえ、英ちゃんもですか、やりますねえ」
「どうも、遊ちゃん。でね、いっつも、高子はわたしの少し上にいるのよ」
「そうなんですか、英ちゃん」
「わたしはね、英語は飛び抜けているのよ。で、他がまあまあなの」
「そう言えば高子さんがそんな感じのことを言っていましたね」
「でもね、オーラルコミュニケーションで点を落としちゃうの」
「そんなことも高子さんは言っていましたね」
「ところが高子はね、国語が抜群で、それ以外はそうでもないの。一教科だけという点では、高子もわたしも同じなのよ。でもね、国語の試験において、高子が失点をするような分野は、どうもないみたいなのよ」
「なるほどね、英ちゃん。それで、総合点になると、高子さんが、少し英ちゃんの上を行っちゃうのね」
「そうなの。高子のやつったらね、ほんと、国語、というより古典に関しては、別格なのよ
「ふうん」
「中学の時にね、高子のやつと同じクラスになったことがあるんだけどね。古典の授業で、平家物語の一部を朗読することになったの。それでね、高子は、平家物語ならぜひ朗読したいところがある、と先生に直訴したのね。ええと、ある武士が、敵の兵を殺そうとしたら、自分の息子と同じくらいの、幼い少年だった。逃がそうとも思ったが、このままでは、他の兵にどうせ殺されてしまう。それだったら、いっそ自分の手でと考え、少年も同じ殺されるなら、その武士に殺されたい。みたいな内容だったかな」
「えっ、その内容を、高子さんがやっちゃったんですか」
「そう。なんか、もうね、すさまじかったの。昔の文語調だからね、朗読のお手本みたいにすらすらとやってのけたわけじゃあないの。でも、鬼気迫るというか、平家の怨念か何かが取り付いているんじゃあないか、という感じで、クラス中が悪夢にうなされること請け合いのことをやってのけたのよ」
「高子さんなら、むべなるかなということですかねえ」
「それにしても、高子のやつったら、やな子なんだから。中学の時のわたしはね、こんなことを考えていたのよ。世の中には二種類の人間がいる、とね」
「あ、それならあたしも知ってます。それもアメリカンジョークですよね」
「なんだ、遊ちゃん、知ってたのか。それじゃあ、落ちを言ってもしょうがないじゃあない。つまんないの」
「えっ、なんでですか、英ちゃん。続き、聞かせてよ」
「で、でも、遊ちゃん、落ち、知ってるんでしょう。そんなの言ってもしょうがないじゃない」
「やーだ、あたし、英ちゃんのアメリカンジョークが聞きたいの。他の誰でもない、英ちゃんがやるジョークだから聞きたいの」
「そ、そうなの、そこまで言われちゃあね、じゃあ、いくわよ」
「はい、お願いいたします」
「二種類の人間とは、高子か、それ以外かだ」
「ありがとうございます、英ちゃん。やっぱり、英ちゃんと話しているといいことがあるなあ」
「やめてよ、遊ちゃん、そんなおためごかし」
「そんなのじゃないですよーだ。本心だもーん」
「もう、遊ちゃんったら」
そう言い合いながら、遊と英子は駅に向かうのでしたが、英子は心の奥底で密かに思うのでした。
「でも、今のわたしには、遊ちゃんがいる」




