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御手洗高子 其の5

そんなこんなで、昼休みも終わりに近づきました。


「いけない、高子さん。そろそろ、五時間目が始まっちゃう。さあ、行かないと」

「やだー、遊さん。わたくし、結局、お昼、何にも食べてないんだもん。これじゃあ、また、お腹を鳴らしちゃうもん」

「『やだー』って言いますけどね、高子さん。あたしだって、編入早々、授業をさぼるような事態は避けたいんですが……」

「それなら心配ご無用だよ、遊さん。わたくしのクラスの五時間目は古典でね、自慢じゃあないけれど、この高子さんは、この海応学園において、古典、と言うより国語だね、に関しては、他の追随を許さない成績を誇っているのさ」

「えっ、そうだったんですか、高子さん」

「そうだよ、だからね、古典の先生には少しばかりに、顔が効くんだ。と言うわけでね、一度や二度の欠席はなんと言うことはない。でも、遊さんはそう言う風にはいかないかなあ」

「そうですよ、高子さん。あたしには先生に効かす顔なんてないんですからね」

「なら、こういうのはどうかな。貧血気味の遊さんを、わたくしが保健室に連れて行こうとした。そしたら、遊さんが『横になれば平気だ 」と言ったことにしよう。そして、この高子さんがそのまま、遊さんを保健室には連れていかずに、その辺りの木陰がどこかに寝かせていたことにしちゃおう。五時間目になっても、わたくしが、遊さんを引き止めたとなれば、遊さんに落ち度はなくなるんじゃあないな。非難されるべきは、この高子さんだ。保健室に連れて行ってしかるべきところを、連れていかなかった。『授業には出たい』と言った遊さんを、まだじっとしていなさいと押しとどめた。なんて具合にね」

「はあ」

「と言うわけでね、遊さん。今、五時間目の授業に出席しなくてもだね、君のこれからの学園生活にまずいことが起きる、なあんてことはありえない、と、この御手洗高子さんが名誉にかけて誓おうじゃあないか」

「高子さんの名誉にねえ」

「そう。もうしばらく、この屋上にいてだね、そのあと、わたくしが遊さんを保健室に連れて行ってだね、君はそのまま、放課後まで、保健室にいてもらうとしよう。わたくしも、ご一緒させてもらおうかな。もらい貧血だとかなんとか言ってね」

「もらい貧血だなんて、そんなもの、あるんですか」

「まあ、いいじゃあないか。細かいことは」

「全くもう、高子さんってば。それにしても、学園のスターであるお人が、国語においては、右に出る者がいないなんてねえ。神様って、不平等だわ」

「ははっ、前世のわたくしは、さぞや神様好みの人間だったんだろうねえ。どんなことをしてくれたのかなあ。こうして遊さんとお近づきにもなれたことだし」

「あら、お上手ですね、高子さんってば。でも、そういえば、さっきの話からすると、英子さんの『時そば』を聞くことになった発端は、高子さんが、英子さんの後をつけていたからですよね。高子さんが、英子さんを憎たらしく思うのは、英子さんの落語が理由であることはわかりましたけど、だったら、そもそもなんで、英子さんの後なんてつけたりしたんですか。ひょっとして、英子さんの英語の成績に関係がおありになるんですか」

「ご名答。国語においては、並び立つ人間なぞいやしない、この高子さんとしては、英語に関してならば、海千山千な米山君のことを、気にせずにはいられなかったんだ。単純な試験の点数はともかくとして、その英語の博学っぷりは、おおいに有名だったからね。中学の時に、英語のスピーチが課題として出されたんだ。そのときは、わたくしも同じクラスでね、クラスで毎回授業の最初に、一人ずつ、スピーチをやったんだ。制限時間は五分だったかな。一応、原稿は前もって準備して、スピーチの前にクラス全員に配ってあるんだけどね。ま、いくら海応学園といっても、中学生のスピーチなんてたかが知れてるさ。でもね、米村君のスピーチはとんでもなかったなあ。いやもうすさまじかった」

「そうだったんですか、高子さん。どんなのだったんですか、教えてくださいよ」

「そう急かさないでくれよ、遊さん。米村君ったらね、途中からは、原稿内容とはまるで違うことを喋り出したんだ。おそらく、スピーチしてる内に、別のことを話したくなって、そのままやっちゃったんだろうねえ。クラス中がぽかんとしていたよ。多分だけれど、みんな、何を言っているかはわからないけれど、何かとんでもないことが実行されている、と言う認識だったんじゃあないかな」

「さもありなんという気がします、高子さん」

「それなのにね、米村君自身は、『外した、また好き勝手やって、暴走しちゃった』とでも思っているんだろうさ。聞く人が聞けば、それが賞賛されるべきものであることなんて、はっきりしているのにさ」

「それにしても、英子さんのことを、それはそれは楽しそうに話しますねえ、高子さん。英子さんのことは、お嫌いなんでしょう」

「遊さん、言うに事欠いて、楽しそうとは何事だい。あんな人間、お嫌いに決まっているじゃあないか。もし、米村君が男だったら、わたくしも男になって、押し倒してやるところだよ」

「すいません、今なんとおっしゃったのでしょうか、高子さん」


遊は目をぱちくりさせて、高子に聞き返します。

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