御手洗高子 其の4
高子の顔が瞬く間に真っ赤になってしまいます。とても、学園のスターとして、きらびやかにしている人間とは思えません。
「こ、これは、そのね、遊さん。何と言うべきなのかしら……」
「そこまで恥ずかしがらなくても、高子さん。二人だけなんだし」
「で、でも、一度ならず二度までも、この高子さんともあろう者が……」
「あの、高子さん。もう一つ、聞きたいことができたんですけど」
「ああ、もう。どうにでもしてちょうだい、遊さん」
「高子さんって、すっごくスタイルいいですよねえ。モデルさんもかくやと言わんばかりですよ」
「こ、これはどうもご丁寧に、遊さん」
「じゃあ、その、特にそのウエストの細さとか、どうやって実現させているんですか、高子さん」
「べ、別に、これといって、特別なことは……」
「だったら、教室と、屋上で、二回も、なぜゆえに、あんなに大きなお腹の音がしたんでしょうねえ、高子さん」
「すいません、このわたくし、少々過激なダイエットをしておりました」
「まあ、私に謝ることじゃあないとおもいますけどね。それに、あたしにも似たような経験ありますし」
「そうなの、遊さん。差し支えなければ、その経験談、教えて欲しいなあ、遊さん」
「構いませんが、あたし、中学受験の時に、一度やらかしまして」
「何を? 遊さん」
「それこそ、寝食も忘れて机に向かっておりまして、結果、倒れちゃったんです。寝不足やら、栄養失調やらで。だから、二度とそんなことにはならないよう、そのあと、自分なりに体調管理について、調べたんです。と言うことだから、あたし、食事の栄養に関しては少しうるさいですよ。高子さんはダイエットが目的みたいですが、食べるべきものを食べていないと言う点では、似たようなものです。さ、高子さん、あなたの食生活、きりきり白状してもらいましょうか」
「その、遊さん、黙秘権的なものは……」
「それ、使う気ですか」
「謹んで、放棄させていただきます、遊さん」
「よろしい。それで、まさかとは思いますけれどね、高子さん。自分のイメージなんか気にして、お昼は、ストレートの紅茶だけなんてことしていやしませんか」
「その、遊さん。過去の映像を、超能力で見るのはやめていただきたいんですが……」
「案の定ですか、高子さん。まあ、年頃ですし、周りの目が気になるのも、至極当たり前と言えば、当たり前ですけどね。でも、この屋上、昼休みは高子さん専用みたいなものなんでしょう。だったら、ここでちょっとしたもの食べるくらいなら、できちゃうんじゃあないですか」
「でもね、遊さん。もし、もしもよ、この高子さんが、何かの拍子で、こっそり食べようとした、バナナか何かポロリしちゃったら、それこそわたくしのイメージが大暴落じゃない」
「そこまで気にしなくてもいいと思いますが、高子さん。それに、そんなことくらいで、失望されるほど、高子さんのスターっぷりはやわじゃあないと思いますが……」
「そ、そう、遊さん。そう思ってくるちゃうの。ああ、でもだめだめ、だめなのよ。重要なのはね、人にわたくしがどう見られるかじゃあなくてね、わたくしが人にどう見せるかなのよ」
「それならそれで構わないですけれどね、高子さん。で、ご自宅では、どのようになさっているのかねえ」
「そこまだ話さなきゃあだめかしら、遊さん」
「い・い・か・ら、高子さんの全部を、包み隠さず話しちゃってください」
「ぜ、全部ときましたか、遊さん。そこまで言われちゃあ、とても断れやしないけれど……だけどね、夜に食べたものは、全部脂肪になっちゃうと言われているし、朝は朝で、わたくし、朝起きるの苦手なの。ほら、寝起きがアンニュイな高子さんと言うのも、これはこれで悪くない、セルフイメージと思っちゃったりする今日この頃でして」
「今日だけですか、今日この頃だけですか、高子さん」
「いえ、それは、昨日も一昨日も、と言うより、ここ最近は、ずっとそんな調子でありまして」
「それにしてもねえ、高子さん。そりゃあ、寝っ転がって、お尻でも引っ掻きながら、ポテトチップスを摘まみつつ、コーラをがぶ飲みしろとは言いませんけどね」
「やだ、遊さんってば、お尻だなんて、はしたない」
「大事なのはお尻じゃあありません、高子さん。今問題にするべきは、高子さんの栄養状態です」
「りょ、了解です、遊さん」
「いいでしょう、高子さん。炭水化物と脂肪は、この際考えないことにしましょう。だけども、たんぱく質、これだけは譲るわけにはいきません。で、高子さん。肉と魚に関しての意見を聞きましょうか」
「肉と魚について、この高子さんに語らせるなんて、遊さん、あまりにも殺生じゃあありませんか。肉や魚は殺生で得るものだけに」
「どや顔で、上手いこと言わないでください、高子さん」
「すいません、遊さん」
「まあいいでしょう。高子さんの、そのピントが少しばかりずれている、ベジタリアンとしての姿勢に、敬意を表してあげましょう。ですけどね、いくらなんでも、植物が他の動物に食べさせるために、自分で作った果物しか食べたくない、なんて言ったら怒りますからね」
「はっ、言いやしません。そして、感謝いたします、遊さん」
「それだったらとりあえず、豆ですね。大豆、畑のお肉です。高子さん、納豆って平気ですか?」
「遊さん、この英子さんが、納豆を、箸でかき回して、糸をひかすようなまね、人前でできると思って?」
「『思って?』じゃあありません、高子さん。何も学園で食べろだなんて言ってやしませんよ。で、食べるの平気ですか? 無理ですか? いいですね、ご自宅で、一人だけの場合を想定してくださいね」
「そりゃあ、食べるくらいなら、絶対に無理ということもないけれど……」
「じゃあ、朝ごはんと夕ごはんに、一パックずつ、ちゃんと食べてくださいね。『納豆なんて、スーパーで買っているところ、見られたら恥ずかしいし』、なんて言わないでくださいね、高子さん。今のご時世。宅配サービスとか便利なものがあるんですから」
「何から何まで、わたくしのこと見通しちゃうんだから、遊さんったら」
「文句言わないの、高子さん。それと、ゆで卵の白身ですね。卵一個分の。黄身はコレステロールやら脂肪やらがたくさんですから、もったいないけど、捨てちゃってください。マヨネーズ作りに使えますけど、あと、おかし作りにも、まあ、おいおい考えていきましょう。それも朝夕に食べちゃってください」
「なんだか、面倒臭いでーす、遊先生」
「なんですか、先生とは。そんなこと言うんだったら、先生の言うことをきちんと聞きなさい」
「はーい」
「そして、学校では豆乳ですね。パックのままで飲むと言ったら、またイメージがどうのこうのとお言いになるんでしょう、高子さん」
「すっかり、わたくしのことを理解してくださったみたいね、遊さん」
「ま、それっぽい容器に移し替えて、お昼の紅茶はストレートから、豆乳のミルクティーに変えちゃってください。言っときますけど、豆乳二、三滴なんて、ケチくさいことはいけませんよ。豆乳二百ミリリットル分は飲んでくださいね。インドのマハラジャが、優雅にチャイを飲んでいるとでも思ってください」
「はあい」
「いいですか、また何か問題だとあたしがみなしたら、昼休みは毎回、この屋上で、あたしが持ってくるスペシャルメニューの刑ですからね。あたしが持参するのだったら、高子さんがポロリすることもないでしょう」
「おや、それはそれで魅力的じゃあないか。遊さんと、二人きりのランチと言うのは」
「やっぱり、辞めときます。学園のスターと、編入したばかりのあたしがそんなことしていたら、学園中を敵に回しちゃう。そうですね、こっそりお説教にしましょう」
「ちえっ」
高子は口ではそう言いながら、内心では正反対のことを考えているのでした。それもいいかな、米村君への嫌がらせのつもりで、この子をこんなところに連れてきたけど、そんなことは関係なく、遊さんに説教されると言うのも素敵じゃない、と。




