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御手洗高子 其の1

入学式の翌日、海応学園ではすぐに通常の時間割で、授業が行われます。編入生である遊は、そのことに面食らっている様子でした。一時間目は、数学、二時間目は現国、三時間目、化学、そして今は四時間目、英文法、グラマーです。クラスの皆が、答案用紙を返却されている中、遊はぼんやり考え込んでいます。


「昨日入学式だったのに、もう授業しちゃうのかあ、さすがは、海応学園と言ったところなのかしら。それとも、中高一貫だとこれが普通なのかしら。それにしても、昨日、柄見先生にもらった実力テスト、難しかったなあ。やっぱりレベル、高いなあ。時間がなかったから、きちんと解いたわけじゃあなかったけど、五科目とも七割解けるかどうかって感じだったわ。先生が言うには学年平均もそんなものみたいらしいけど、内部生は、中学時代はどう言う風に教わってきたんだろうなあ。また、英ちゃんにいろいろ聞くことになっちゃうなあ」


遊はこの先が不安になってきました。


「私は、中学の時は、国語数学理科社会、英語の五教科って意識だったけれど、問題用紙を見たら、数学はともかく、国語は現国と古典、理科は物理に化学に生物、社会は地理で日本史で世界史で政治経済、それでもって、英語がグラマーとリーダーに分かれているときたのよね。高校からは科目がそういうふうに細かくなるから、実力テストもそれに合わせたのかあ。というか、地学と倫理は中学でやっちゃったから高校ではやらないってなんなのよ、もう」


大学の入試でまず選択されない地学と倫理は、中学のうちにやっておくというのが 、海応学園の決まりだったのですけども、そんなことは初耳の遊にはなかなかに衝撃的だったようです。


「あっ、英ちゃんが試験返されてる。へえ、先生に褒められているみたい。そうかあ、あれだけ、アメリカのなんやかんやに詳しいんだもんなあ。実力テストくらいお茶の子さいさいかあ。あっ、そうだ。お昼のお弁当、どうしよう。購買部や、食堂もあるらしいけれど、よくわからないし、家からお弁当持ってきたのよね。でも、中等部からのみんなは、もうグループになっちゃってるわよね。いっしょに食べる人、できるかなあ。英ちゃん、どうするのかなあ。やっぱり、あたし以外にもお昼一緒にする友達くらいいるよねえ。あれだけ面白い英ちゃんなんだもんなあ」


遊は、先生による試験問題の解説はそっちのけで、お昼休みの行く末に考えを巡らせていたにですが、英子も英子です。先生の褒め言葉なんて、まるで聞いちゃあいません。では、何を考えていたのかというと、昨日の放課後となんら変わりはないのでした。


「遊ちゃん、昼休み、どうするのかしら。もう他の人とも仲良くなったのかしら。あんな素敵な遊ちゃんが、編入生として颯爽と登場するんだもの。みんなの注目の的よね。きっと、遊ちゃんの周りには、すんごい人だかりができちゃって、わたしなんかが近寄る隙さえなくなっちゃうに決まってるわ」


そんなこんなで、昼休みになりました。遊と英子がお互いの様子を伺っていると、廊下の方から何やら、騒々しい声が聞こえてきます。


「米村君、米村君はいらっしゃるかしら」


その呼び声と同時に、何か黄色い歓声も飛び交っているようです。それを不審に思って、遊は考え始めます。


「なんだろう、アイドルでもいるのかしら。すごい騒ぎになってるみたいだけど、あれっ、そういえば、英ちゃんの名字って、米村だったような」


遊が英子に視線を向けると、英子は苦虫を噛み潰したような顔をしています。遊は立ち上がって、英子のもとに歩いて行って尋ねることにしました。


「あの、英ちゃん。米村君って、英ちゃんのことじゃあ……」

「遊ちゃん、申し訳ないけども、少し離れたほうがいいと思うわ」


英子がそう言い終わるか終わらないという内に、遊たちの教室のドアが開け放たれました。


「そこにいたのね、米村君」


そう英子を呼び出す人物が、教室に姿を見せると、遊のクラスメイトたちもまた、色めき立つのでした。その姿を見て遊は、大いに納得したのです。


「わ、すごいハンサムさん。なるほどねえ、あんなのが女子校にいたら、大変なことになるのも、当然といえば当然ね。切れ長の目元なんて涼やかで、大した男振りねえ。男ってことは先生かなあ。だけど、あれで授業になるのかしら。見つめられただけで、女の子だったら、とりこになっちゃうかも。大変ねえ。髪の毛も、下手に伸ばしていなくて短めね。うん、あれだけシュッとしているんだから、長髪になんてしないほうが、顔かたちがよく見えていい感じになっているし、背もすらっとしているわねえ。他の生徒たちより、頭一つ、いや、一個半くらいは身長が高いかも。モデルさんみたい。キリッとした長身に、この海応学園の制服が良く映えて……って、ええっ、制服! スカート! どうして!」


すっかり気が動転してしまった遊は、英子を質問責めにします。


「英ちゃん! あれ何? 制服よ! スカートよ! 男の人がどうして、女装なの? そりゃあ趣味は人それぞれだけどさ、男性がスカート履いて、女子校にいるというのはどうかと、先生でも問題だし、生徒でもそれはそれで問題あるような……」


遊の質問内容が、耳に入ったようで、 その騒ぎの主はつかつかと、遊の元へ歩み寄ってくるのでした。


「君、どういうことだい。この海応学園の生徒でありながら、この御手洗高子の事を御存知ないとは。大体さっきから、なんという言い草をしてくれるんだ。男だの、女装だの、君、モグリかい? って、おやあ、君、見覚えないねえ。この学園の女生徒の顔は大体覚えているんだが……」

「その子は編入生よ、高子。あなたのことを知らなくても無理ないわ。その辺りで、勘弁してやっていいんじゃあないかしら。あなただって、あえて自分を男っぽくしているみたいだし」


英子が遊に助け舟を出すと、高子は、遊のことなんてすっかりどうでも良くなって、英子に詰め寄ります。


「おお、そこにいるのは、米村君じゃあないか」

「英子よ、英子。大体、何よ、『そこにいるのは』だなんて、白々しい。最初からわたし目当てで来たくせに」

「はっはっは、実際その通りなんだけどね、米村君。それで、今回の君の英語の試験の首尾はいかほどだったんだろうねえ」

「どうせそのことだろうと思ったわ、教えたくないと言っても、教えるまでつきまとってくるんでしょ。もうそんなことには飽き飽きだからね、はい、どうぞ、解答用紙よ」

「いやあ、話が早くて助かるなあ。それでは拝見させていただきますよ」

「全く、いんぎん無礼を絵に描いたような存在ね、あなたって人は」

「おお、さすがは、米村君だ。実に素晴らしい成績じゃあないか。アメリカ村の英子ちゃん、というだけのこたはあるねえ」

「何よ、そのアメリカ村って」

「おや、気に障ったかい」

「大いにね。『米村君』だなんて、いかにも田舎臭く言われるのも腹ただしいけれども、『アメリカ村』だなんて、どういうことよ。そういえば、『アメリカンビレッジさん』なんて嫌味ったらしく言ってくれたこともあったわね」

「そう思われるのは心外だなあ。アメリカといえば米国じゃあないかその、お米の字を名字に持って、その上、英子の“英”は英語の“英”だろう。そんなお人が、英語が得意中の得意ときている。うん、名は体を表すとはこのことだねえ。でも、おやあ、この解答用紙、変だなあ。大問の一だけ全滅だあ。それ以外は完璧なのに。どういうことなんだい、米村君。解答を一個ずらしでもしたのかい。けど、大問の一はリスニングだよねえ、あれあれ、ひょっとして、米村君って、読み書きはできても、オーラルコミュニケーションがだめだめな人なの」


このままでは、英子が金切り声を上げかねません。ですがそうはなりませんでした。遊が英子と高子の間に割って入ったからです。


「あの、とりあえずそのくらいにしてもらえませんか。英子さんは私とお昼を一緒にする約束をしているんです。だから、ね、英子さん、行こう」

「へえ、常日頃から孤高の淑女である米村君に、ランチをご一緒する相手がいたとはねえ、これは意外だなあ」


その時、教室中に大きな音が響き渡りました。


ぐう!

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