表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/76

武道場にて 其の1

「へえ、ここが武道場ですか。さすがに立派ですねえ、英子さん」

「そうよ、遊さん。玄関で靴を脱ぐのよ。三和土たたきがあるから、下駄箱に靴を入れちゃってね。柔道の授業の時はみんな裸足で入ってちゃうわね。廊下の床はリノリウムで、冬なんかは特に冷たいけれど、ほら、武道ということでね、我慢してちょうだい。向こうに入り口があるでしょう。あそこから室内に入るのよ。一応、体育館の金属扉みたいなのがあるけど、わたしは閉まっているところを見たことがないわね。授業の時は基本開けっ放しよ。放課後は……知らないわ。授業以外ではほとんど近づかないものね。あら、説明が長くなっちゃったわね」

「いえ、英子さん、昨日はいろんなことがあって、ろくに学校も見物できなかったわけだし、あたし、助かります」

「そっ、そうなの、遊さん。まあ、学校案内が全然だったのは、わたしにも原因があるわけだから、説明するのも当然よね、当然。でね、あそこの入り口の中に、柔道場が二面と、同じくらいの広さの板張りの剣道場があるわ。そして、怜先生用の教諭室が併設されているわね。うちの柔道教諭は怜先生一人だから、個室の職員室みたいになっちゃっているわね。結構好き勝手できるみたいよ」

「聞こえているわよ、英子さん」

「やだ、いけない。遊さん、早く行きましょう」


遊と英子が武道場に入っていくと、すでに怜先生が待ち構えていました。


「やあ、遊さんに英子さん。念のため言っておくけど、校内でそんなしちゃい放題しちゃあいないわよ。それにしても、逃げ出さずに来てくれたみたいだね。感心、感心。とりあえず、二人とも、そのあたりに座ってちょうだい。ま、正座とまでは言わないわ。体育座りでも、女の子座りでも、好きにしてちょうだい。二人はスカートだから、あぐらは控えたほうがいいと思うけどね。ちなみに先生は立ったままでいるけど気にしないでね、このほうが話しやすいから」


そう言って、怜先生は遊と英子の二人を座らせます。遊は女の子座りで、英子は体育座りでした。すると遊が

口を尖らせます。


「逃げたりなんてしませんよ、柄見先生。そうですよねえ、英子さん。先生ったら、昨日の電話で、『英子さんは嫌だとは言わないはずよ』なんて言うんですもの。そりゃあ、昨日、保健室のベッドであんなことがあったからには、こうやって武道場にくるしかないじゃあないですか。

「おやおや、遊さんや。これはあんまりなことを言っちゃってくれますねえ。それじゃあ、まるで先生が遊さんと英子さんの二人を、脅しているみたいじゃあない」

「“脅す”なんてあたしは言っていませんがね、柄見先生。海応学園の風紀顧問ともなれば、脅すなんて直接的な真似をしなくたって、生徒に言うことを聞かす腹芸の一つや二つ、心得ているんじゃあないですか。それに、柄見先生の命令を無視なんてしたら、どんな柔道技をお見舞いされるかわかったものじゃあないですよ」

「あら、遊さん、先生のことをおおいに評価してくれているようね。それが過大か、適正か、はたまた過小なのかは置いておくとして、そう言えば、先生が柔道を受け持っているとは説明しましたっけ」


怜先生は、すっとぼけた様子で遊に問いかけます。どうも怜先生はすべてお見通しな様子ですが。


「ああ、それは、英子さんに聞いたんです。昨日一緒に帰った時に。そうですよねえ、英子さん」

「えっ、ええ、そうね、遊さん」


すると怜先生は意地の悪い言い方をします。


「へえ、英子さんがそんなことを言っていたんだなあ。それで、遊さん。英子さんは先生のことをどんな風に説明したのかしら。鬼や悪魔とでも言ってやしないかしら。二人っきりだったから、さぞかし、先生の悪口に花を咲かせたんじゃあないのかしら」

「柄見先生はあたしにどんな答えを期待しているんですか。そりゃあ、柔道を受け持つ風紀顧問なんだから、気をつけてしかるべき、ぐらいは言い合いましたけど。だいたいなんですか。二人っきりだなんて思わせぶりな言い方しないでください。あたしを英子さんに送らせたのは柄見先生じゃあないですか」

「あら、そうだったかしらね、遊さん。まあいいわ。ところで、どうしたの、英子さん。さっきから随分と大人しいじゃあない。そんなにこの柄見怜先生が恐ろしくてたまらないのかしら」

「そっ、そうですよ、怜先生。怜先生を怖がっているに決まっているじゃあないですか。そもそも、わたしがこの武道場に遊さんを連れてきたのだって、怜先生のお達しだから仕方なくですね、そんな怜先生に逆らうなんて向こう見ずな真似するはずないじゃあないですか」

「仕方なくときましたか、まあいいわ、それじゃあ、先生そろそろ本題に入るわね。二人とも少し待っててね」


そう言って怜先生は自分用の教諭室に入って行きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ