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遊と英子の出会い 其の7

ここで時間を少し巻き戻します。怜先生が放送での呼び出しから保健室に戻ってきました。そしてドアの前で聞き耳を立てています。どうやら、ちょうど、英子が遊に『時そば』を披露し始めたところでした。


「全くもう、教頭のやつったら、つまんないことで呼び出してくれちゃうんだから。それにしても、あらあら、英子さんったら、会ったばかりの遊さんにいきなり、落語をしてみせるだなんて。英子さんは相当遊さんを気に入ったようね。それにしても英子さんがここの中等部に入学してきたばかりの時を思い出すわね。英語の授業でのあの一件。教師の間でも相当噂になったものねえ」


怜先生はついつい一人で思い出し笑いをしてしまいます。


「おっと、いけない、いけない。覗き見がばれちゃったら、大変なことになっちゃうわ。まあ、確かに、この海応学園に入るくらいの子供たちだから、英語での数の数え方ぐらいは、知っていても不思議じゃあないけど、それでも、初めての授業だから、とりあえず初歩からということで、『それでは、皆さん、英語で数を数えましょうね』てなるじゃない。それでクラスのみんなで、ワン、ツー、と数えていて、セブンまできたら、あの子いきなり、『アイエイト、そばヌードル』てやっちゃったのよねえ。さすがに教室中が、その時の英語の先生も含めて、ぽかんとしていたらしいわね。ま、別に落語の話をしていたわけでもないし、イートの過去形がエイトだって知らない子もいたでしょうし、そうなるのも当然といえば、当然よね。でも、中学に入ったばかりの女の子に、観客に合わせて芸をしろ、なんていうのも無茶な話よね。おかげであの子のクラス内での位置付けは“何かよくわからないことを言う子”になってしまったのよね。私はそれを聞いて、『なかなか面白い子が入ってきたわね』なんて思ったけども、一度そういう印象をみんなに持たれちゃうとねえ、少し面白いことを言っても、なかなかみんなは笑ってくれないのよねえ。おかげで、英子さんったら、妙に引っ込み思案になっちゃったのよねえ」


怜先生、なかなかどうして、生徒思いのいい先生のようです。


「そんな英子さんが初対面の人間に落語をやっちゃうなんてねえ、しかも、いやに堂に入ってるじゃあない。あの子が人気のないところでこっそり練習しているのを、時々後をつけて隠れて見物していたけども、あんなに上手にやれていたことはなかったわ。どうも、遊さんの前でやっていると言うことが、いい感じのスパイスになっているみたいね。客の前でやるって言うことは、それだけでいい刺激になるし、あの二人は感性があっているみたいね。なかなか、うまくことが運んでくれるじゃあない。おっと、話にひと段落ついたみたいね。それじゃあ、お邪魔しちゃいますかね」


こうしてドアの前で出歯亀をしていた怜先生でしたが、そろそろ、覗きをやめにして、保健室に入って行きました。



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